ややこし片思い群像劇映画『恋を知らない僕たちは』感想文

《推定睡眠時間:40分》

予告編を見て軽快で楽しい感じのキラキラ映画っぽいなと思っていたので実物を観たら劇判も少なく登場人物ひとりひとりの心の揺れを丁寧に捉えるタイプのシリアス路線だったことが意外だった。そっちかー。それはそれでおもしろいのだが、俺がこの映画を観たのは金曜夜の仕事帰りだったので、金曜夜ならもっとなんかこうフレッシュですね~みたいなキラキラ映画を観たかったというのもわりと本音だ!

物語はいささか錯綜している。男3人女3人の高校生がメイン登場人物で、そのうち男1人と女1人は中学時代からカップル成立、高校に入ってからも揺るがないのだが、この1カップルの周辺に集う残りの男2女2はみんなその領域内で片思い。カップルは窪塚愛流(女の人の名前かと思ったが男の人だった)と莉子だがその窪塚愛流にギャル系の齊藤なぎさが彼女持ちと知りつつ片思いし略奪を狙う、窪塚愛流の親友の大西流星は齊藤なぎさの略奪愛を防ぐために齊藤なぎさと付き合う、一方、大西流星の友人でバンドマンの猪狩蒼弥は図書委員の志田彩良に片思いしており、ひょんなことから志田彩良は大西流星の存在が気になってくる…とまぁこんな具合である。予告編に「ややこしすぎるだろ!」という台詞が出てきたが俺もそう思う。

こうした恋愛群像をうまく捌けているかといえばあまりそうは見えなかったし、お話の主軸はあくまでも窪塚愛流・莉子・大西流星の関係性の変化にあったので、そのほか3人の片思い模様にあえて多くの尺を割く作劇上の必要はあったのかと疑問に思うが、まぁそのへんはやはり原作が少女マンガだから2時間の映画としてまとめるのが難しかったということだろうと思う。単純に映画的な完成度を求めれば窪塚愛流・莉子・大西流星の3人以外はバッサリ省いてしまってもいいと思うのだが、おそらく残りの3人も原作では主役級の活躍をしているであろうから無視するわけにはいかないし…みたいな。その点は演出面も同じで、6人全員の心情の吐露をいちいち長回し気味でじっくりと撮るものだから、アイドル役者たちの見せ場を削るわけにはいかないという事情もわかるが、そのためにテンポがだいぶ悪くなっている。キラキラ映画なんかチャチャっと進めちゃえばいいんだよそれがキラキラの良さなんだからとキラキラ江戸っ子の俺は思う。べらんめぇである。

とはいえシネスコのアスペクト比をフル活用した写真的なショットの数々は美しく、鐘楼と赤レンガが印象的な福岡女子高等学校の建物をうまく活かして面白い背景を作っているし、愛宕浜の波打ち際のキラキラ映像には心が洗われるようだ。キラキラ映画といえばロケ地が重要であるが、ストーリーのいびつさやテンポの悪さをロケ地撮影の良さでだいぶ補っているのがこの映画だったんじゃないだろうか。たまに出てくるインスタレーション的な美術もまた良し。

ちなみにキラキラ高校生が6人も出てくるとなると「お前誰派?」というトークのひとつでもしたくなるというものだが俺はいつもキラキラ映画を1人で観に行っている異常中年なので誰ともそんな話はできなかった。よって今ここで書くが、まず女性陣なら明らかに図書委員の池澤さん(志田彩良)一択である。真面目で気が強くていつも怒ったような顔をしている図書委員。完璧である。ギャル風の藤村さん(齊藤なぎさ)は女子高生にして早くもホスト客気質の人で最初付き合ってたDV系チャラとかいう最悪の先輩のためにお昼毎に飲食物を数十点用意してミニ購買を開いて「タカくん(※先輩)喜んでくれるんだもん!」とか言うのでドン引き。先生は卒業後が大いに心配です。

男性陣なら太一くん(猪狩蒼弥)じゃろうな。アホっぽいが明るくてノリの良いバンドマンということでかわいいしなにやら教育(?)のし甲斐がありそうである。直彦くん(窪塚愛流)のボケに対するツッコミが案外鋭かった英二くん(大西流星)も付き合ったら話が面白くていいかもしれない。それにしてもこう考えると主役のはずの汐崎さん(莉子)と直彦くんに全然魅力ねぇ。いや、別にそれが悪いということではなく、この2人はとにかく普通なのである。普通ゆえに惹かれるものがないが、現実のカップルに一番近いのはこの普通な2人だろう。普通はつまらないからキラキラ映画を観ているというところもこっちにはあるのだが…!

※あとキスシーンが2回ぐらい出てくるんですがどっちもソフトなキスがしっとりじっくりと撮られていてエロくて良かったです。

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