暑い!狂う!映画『エルダリー 覚醒』感想文

《推定睡眠時間:15分》

つい先日観た『ACIDE/アシッド』は環境破壊で気候が狂い殺人酸性雨が降ってくるという映画だったがこちら『エルダリー 覚醒』は環境破壊により外があまりに暑いので老人たちが謎の電波を受信し狂っていくというお話であった。ホラー映画は時代を映す鏡。なるほど環境破壊はやはり今の人類が取り組むべき喫緊の課題だなと教えられたので、これは啓蒙である。

ということでスペインは首都マドリードは気温が50度に迫ろうかという酷暑、そのためかどうかは知らないが一人の老婆が何かに導かれるように飛び降り自殺を遂げてしまった。残された老婆の夫ジジィは言動がなにやら怪しくこれは一人暮らし不可と判断した息子は妻の反対を押し切ってジジィを自分たち家族のアパートに棲まわせるのだが、認知症なのかなんなのか日増しにジジィは凶暴かつ「声が聞こえるんだ…お前たちを殺せと…」みたいな凶言を言うようになってくる。さすがにもうアパートには置いておけんわな、ということで妻は介護ホーム探しに出るのだが、実は狂い始めたのはこのジジィだけではなく街のジジィババァたち全員の気配がある。そして、マドリードに記録的猛暑日がやってきた…。

あまりにも暑いので高齢者が狂ってしまうという作品超要約が面白すぎたのでこれは観なければと「声」を聞いて俺も劇場に向かったわけだが、別にふざけた内容ではなく『アシッド』同様にド真面目なサスペンスホラーだったのでなんか肩透かし食らう。ひたすらに不穏でネガティブな音響効果と酷暑でオレンジに染まるマドリードの黙示録的な風景が醸し出す崩壊感覚は悪くないし何が起こっているのかよくわからないままヤバイ感じだけが増していくのも焦燥感が募って良く、そのあたりクリーチャー・ロードムービーの佳作『パラミドロ』の監督コンビによる作だけあるのかもしれないが、でもこのネタならもっとはっちゃけて欲しかったよね。アメリカ中の親たちが突如狂い出すニコラス・ケイジの発狂コメディ『マッド・ダディ』みたいに。

こっちはほら発狂ったって飛び降り自殺とか自分の胸を自分で切って電球埋めるとかその程度でいやたしかに発狂なのだがなんというかこう、息子夫婦の家に棲まわせてもらっているのだからという配慮すら感じられる微妙な発狂で。あとうなり声がするから何かと思って隣の家を覗いたら後期高齢夫婦がセックスしてたとか。いやそれは異常行動ではないだろ! 珍しいケースかもしれないけれども歳老いても肉体的に愛し合う夫婦は別にいるだろうよ世界には!

それに暑さが感じられないのがな。おそらく摂氏で画面には40度超えの気温が出て最終的には50度にまで到達するのだが、そのわりには登場人物全員普通の格好で外を歩いてしまうし、ちょっと歩いて汗ダラダラになることも呼吸が乱れることもない。家のクーラーが効かないとか壊れたとかもなく暑さ描写が乏しいので「そりゃこんだけ暑ければ狂うわ」みたいな気分になれないし、だいたい暑さと老人たちの異常行動が最終的にべつだんリンクしてなかったので、いや、じゃあこれなんだったんだよ? とかなってしまう。

全裸高齢男性を含む発狂老人軍団が主人公たちを追い詰める『REC』×『悪魔の墓場』のようなラストはそれなりにアツいがアツいだけにゾンビ映画的攻防もあまりなく案外アッサリと終わってしまったのももったいない。どっちが狂ってるのかわからなくなる老人虐待シーンなど良い(厭な)ところもたくさんあるのだが…なんでしょね、総じて、悪くないけどいろいろと惜しいというか、映像と音は悪くないのだしもう少し練っていれば良い映画になったのになぁっていう、なんかそんな感じの映画なのでした。

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