ちゃんと生きよう映画『ビートルジュース ビートルジュース』感想文

《推定睡眠時間:30分》

日本でもファンの多い奇才ティム・バートンの監督最新作とはいえあの『ビートルジュース』だいたい30年ぶりの続編にお客が付くような気はあんまりしなかったが仕事帰りにレイトショーで観たら意外と席が埋まってた。これにはバートンの古参ファンも寄与していれば単純に予告編がわちゃわちゃしてて面白そうだったから観に来たという人の存在ももちろんあるだろうが、少し前にブルスカで「ビートルジュース」と検索したらこれが映画のキャラだと知らない風な人のポストが結構ヒットして、えじゃあどこでと思ったらなんかユニバーサル・スタジオ・ジャパンのショーにビートルジュース出てて(ワーナーから出向)それで知ってる人がいたらしく、映画は観たことないけどUSJ経由でビートルジュースを知った若い人が映画館に来たとか、そういうのもあるのかなと思ったのだった。

このように映画の内容とはあまり関係がなく感嘆符が付かない文章から感想が始まるときはだいたいその映画が面白くなかったときというのが俺である。うむ、そのとおりだ。『ビートルジュース ビートルジュース』、ま面白くなかった、とまでは言わないが、う~むとなってしまう映画であった。模型の街並みの空撮(と言うのかこの場合は)にダニー・エルフマンの狂騒的なテーマ曲が乗っかるオープニングにはわぁ『ビートルジュース』だ! とワクワクさせられるし前作で地縛霊に悩まされる人だったウィノナ・ライダーが80年代ホラーファンにはお馴染みエルヴァイラを思わせる出で立ちで心霊番組の司会者をやっている場面にはバートンの遊び心にニヤニヤさせられるのだが…だが!

とにかく霊界に行くまでがめっちゃ長い。正確に言えば霊界を騒がす連続オバケ殺人事件と現実世界のウィノナ・ライダー家のドラマが並行して描かれるので霊界シーンはちょいちょい出てくるのだが、主人公の霊視さんウィノナ・ライダーがクソ厄介悪魔ビートルジュース(マイケル・キートン変わらずの怪演)の待ち受ける霊界に乗り込むのが映画開始1時間ぐらい経ってからだったので…なんか「今度は霊界大冒険!」みたいな感じの日本版予告編を観てそういうものだと思っていた俺としてはだいぶそうとう肩透かし。前作なんか始まって5分ぐらいで主人公カップルが死んでオバケになってたのに!

どうして霊界までの道のりがそこまで長くなったかと言えば今回はファンタジックなオバケコメディというよりもファンタジーの入った人間ドラマの面が強かったから。『ビートルジュース』…前作はバートンがまだハリウッドの異端児だった1988年の作、あれやこれやの斬新なコミック的・カートゥーン的手法を駆使してオバケになっちゃった夫婦とその家に引っ越してきた一家のユーモラスな対決(オバケは人間を怖がらせないといけないのだが、この一家ときたら全然怖がってくれない!)を描くオスカー・ワイルド『カンタヴィルの幽霊』の現代風改作といった感じで、な~んのメッセージ性もなく気楽で呑気で愉快な映画であった。『妖怪大戦争』ばりに気色悪くもたのしい風貌の西洋オバケもいっぱい出てきてわちゃわちゃガヤガヤ。

でも『ビートルジュース ビートルジュース』の方は打って変わって人間ドラマ、それもわりあいしっとりとウィノナ・ライダーとその娘の世代の違いによる確執と色々あっての和解を描いたりするもんだから、ビートルジュースのクセ強キャラと霊界のオバケたちは相変わらず楽しいけれども、なんか『ビートルジュース』に期待するもんと違うた…霊界が楽しいつっても豪華ゲスト陣による新顔オバケも出るとはいえ(個人的バートン最高傑作『バットマン・リターンズ』のダニー・デヴィートも出ていたことにエンドロールで気付く)基本的には前作に出てきたオバケとか美術を踏襲してるだけなのであんまり新味もないし。

今のバートンがこういう映画を撮るのはわかる。散々言われてきたことだがバートンは大人になったのだ。2004年のファンタジックなヒューマンドラマ『ビッグ・フィッシュ』がやはりその分水嶺、バートンのパーソナルな家族関係の反映されたこの映画以降、バートン映画における夢と現実の比重はそれまでが夢9:現実1ぐらいだったのに夢4:現実6ぐらいになり、夢の世界に孤独に逃避するのではなく現実世界とそこでの人間関係を大事にするよう繰り返し説かれるのであった。それが責任ある大人の態度というもの。たしかにまったくそのとおりだとおもいます。

かつて『シザーハンズ』など数々の寂しくもドリーミンな映画を手掛けてきた夢想家バートンが放つ現実も大事にしなきゃダメだよのメッセージは重く響く。その意味で今のバートンが『ビッグ・フィッシュ』以前のひとりよがりな奇才ではなく、ありきたりなイイ話を撮る職人監督と化したことは感動的でさえあるのだが、とはいえ…やっぱりもっとはっちゃけたオバケいっぱいで奇想もいっぱいでみんなでゲラゲラ笑えるやつが観たかったよ~! だって『ビートルジュース』の続編だもんな~! 『ビートルジュース』の続編であえて現実も大事にしなきゃねとしみじみ訴えることの意義はわかるけどさ~! けどさ~!!!

まぁそういうのもあるしあと単純にゴチャゴチャいろんな要素を詰め込んでるが上手く噛み合ってないからストーリーがあんま面白くないっていうのもある。悪いオバケ役のモニカ・ベルッチも『コープス・ブライド』の焼き直しのようでバートンらしいイマジネーションは感じられない。ビートルジュースももっとやかましく騒いでよかったのにな…とか書いてると悪口ばかりになるのでここらへんで感想を終わりにしよう! ただ最後に一言だけ書いておきたいのはだね、「オバケよりも現実の方が大事」なんて台詞を『ビートルジュース』の続編で聞きたくはなかったですよ俺は! オバケ見たいじゃん! もう大人なんだからオバケは卒業すべきかもしれないがオバケ見たいじゃないですか…!

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