カナザワ映画祭2024ちょっとだけ行ってきた感想文③

既に開催から一ヶ月近く経ちようやく完結のカナザワ映画祭2024行ってきた感想シリーズ。まぁポジティブに捉えれば長く記憶に残る映画祭だったということで…ね! そういうことにしよう! ね! はいじゃあまだ感想書いてなかった残りの短編6本の感想! 海外部門の「短編東アジア」と日本国内の新人監督によるインディーズ映画をチョイスした「期待の新人監督」ですどうぞ!

短編東アジア

『コルチャク(THE MASTERPIECE)』

《推定睡眠時間:0分》

韓国の作品で今年の短編部門グランプリ作。映画監督が破格の値段を提示してきたクライアントのもとを訪れるがそいつは自意識過剰なヤバイやつだった…みたいなブラックユーモアもの。率直に言って多種多様な世界の短編が集まった中でどうしてこれがグランプリなのかまったくわからない。ストーリーは捻りがなく演出は平板、これはという強い画もなく、なにかこの映画を通してどうしても表現したいものというのも感じられない。作品よりも作品解説が価値を持ち、リベラルな意図があると説明すれば拙い作品でも評価される(かのような)現代アートシーンに対する皮肉が込められてはいるのだろうが、そんな世界中でこれまでに億万回ぐらい擦られた批判を今更提示されても、芸術の担い手としての見識と思索が浅いとしか言えない。気軽に楽しめるB級エンタメ作ではあるが、それ以上のものではないんじゃないだろうか。

カナザワ映画祭は主催者や審査員の趣味とか気分が賞の選定に濃厚に反映され、どだい無理な客観性を最初から放棄している潔く正直な映画祭なので、それが良い方向に作用する時もあるが、悪い方向に作用する時もある。今回は悪い方向に作用したんじゃないだろうか。この映画が短編グランプリを受賞したのは制作したチームが揃って来日し他の映画のチームと比べても頑張って観客とコミュニケーションを取ってくれていたからだと俺は思ってる。その姿勢はたしかに立派かもしれないが、映画祭なのに映画の質や志ではなく人柄とかコミュニケーション力で作品を評価するなら、映画の上映なんかしないで飲み会でもやってりゃいいじゃんと思う。

『欲仙欲死(Euphoria)』

《推定睡眠時間:0分》

台湾の作品。省略が多く非連続的な編集が施されている映画なのでなにやら人が死んだり解体されたりしているらしいことはわかるものの、なんの話なのか見ていてもよくわからなかったが、上映後のビデオレターで主演女優の人がこれはDVのお話でと語っておりえ、そうだったの!? となる。おそらくはDVや殺人といった強いストレスを経験した女の人の解離症状を主観的に表現した映画だったんだろう。浜辺で迎える血まみれの夜明けは過去の決別と新しい自分の目覚め。観ている間はよくわからんゴア映画だなぐらいしか思わなかったが、改めて考えると結構ちゃんとした映画だった。

期待の新人監督コンペティション

『いっそもう誰か俺を殺してくれ 人生なんか全部嘘っぱちじゃないか 』

《推定睡眠時間:0分》

孤独な男が自殺するまでの数年間なのか数週間なのかそれとも数時間なのかわからないが、ともかくその間に考えていることや見えている世界を開陳する脳内映画。監督自作のガロ的なイラストが多数インサートされ懐かしフラッシュアニメ的な落書きアニメが合成され、遺書のような男のつぶやきが呪詛のごとく無音のスクリーンにこだまする。ひたすらネガティブなポエム映画で面白いが、ただそのネガティブの表現がわりあい定型的で、ネガティブの表現を意識的にか無意識的か模倣したシミュラークルなものに見えてしまったのは、たぶん俺がニコ動を昔よく観ていたからだと思う。昔のニコ動こういうの結構あったもんな。

『キルマゲドン』

《推定睡眠時間:0分》

単に楽しいからぐらいの理由で血みどろ残酷殺人を繰り返すカスのシリアルキラーカップルがご懐妊。鬼の目にも涙、もうこういうのやめようか…ということで殺人をやめて子育てに励むが本当の地獄はその先にあった…。ビデオノイズとメタルパーカッション(なんとなくエイフェックス・ツイン風)を効果的に用いた冒頭のゴアゴア殺人シーンからして嫌悪感の嵐! 一見乱暴に撮っているようでその実確信犯的な画面構成や特殊効果はとても新人監督のインディーズ映画とは思えぬもので、POVゴア映画としてもスナッフものの映画としても、このまま海外市場に売れるレベル。そのうえPOVを生かしたメタフィクション的な仕掛けまであり、残酷映画なのに痛ましい叙情も帯びて、いささか飛び道具的ではあるが完成度は非常に高い。ある人物のすすり泣きにはなんともやるせない気分にさせられたもんです。ああ、こんなもん観るんじゃなかった…良い意味で。

他の三本も力作だがさすがにこの映画は飛び抜けてよく出来すぎているので、この部門でのグランプリは確定だろうと観た直後は思ったが、翌日発表された結果はなんとグランプリ該当作なし。審査員たちはごにょごにょといろいろ言っているがおそらく『キルマゲドン』がグランプリとならなかったのはこの作品が既に学生残酷映画祭で大賞を受賞していて批評筋の評価も高く、また監督コンビの戸巻のぞみ&小泉京介がピンク映画で商業デビューも決定していたためというのが実際の理由じゃないだろうか。あんたらカナザワが手を貸さなくても独り立ちできんでしょ的な。でもそうとは言えないしだろうし、そんな理由で『キルマゲドン』より数段完成度の落ちる他の三本のどれかに賞をあげたらそれこそ問題、ということで苦肉のグランプリ該当作なし。俺はそんなところじゃないかと思ってる。

付け加えれば、前回までは期待の新人コンペのグランプリ受賞者が竪町商工会の助成(200万円)を受けて映画を撮れるスカラシップ制度があったのだが、海外からも作品を募って上映するようになった都合、日本人しか応募できない期待の新人コンペのグランプリ受賞者だけがスカラシップの対象というのは不公平ではないか…というのもグランプリ該当なしの結構大きな要因になったんじゃないだろうか。結局、今回のスカラシップは企画コンペに急遽変更され、日本勢にも海外勢にも平等にチャンスが与えられるようになったらしい。こうなると来年から期待の新人監督部門はなくなるかもしんないすね(もしくは商業映画未経験などに条件を絞って海外からも募集するとか)

『女』

《推定睡眠時間:0分》

主人公は恋人と幸せに暮らしている人なのだがある日のことその恋人が前に友人と付き合っていたことが発覚。それだけなら単なる穴兄弟だが別の友人は今もその人と付き合っていて結婚を考えているとまで言う。浮気? だが事情を探り始めた主人公を待ち受けていたのはもっと恐ろしく得体の知れないものだった…。ウェルメイドな怪談映画で良く出来ているし頑張っている感もひしひし伝わってくるが習作の観が強く、オリジナリティも希薄。そのため現代的なJホラーをよく研究して作っているなぁとかなんかそういう上から感想になってしまう。タイトルがたった一文字『女』というぐらいなのだし、単にJホラーの定型をなぞって女の人を恐怖の対象とするのではなく、もう少しJホラーにおける女性恐怖=ミソジニーとはなにか的な洞察があったりすればよかったと思うのだが。

『ニューマ』

《推定睡眠時間:0分》

ストーリーや映像の意味がまったくわからないしわからせる気もない実験映画なので何を書いていいのか困ってしまうが、ひとまず言えるとすればカット数が多いのでいろんな変な画だったりキレイな画だったりを頑張ってたくさん撮ったのは間違いない。意味よりもセンスと直感。もちろん監督の側からすれば一貫した論理があってのこの映像、この編集なのでしょうが、どうも実験映画だから別に客に伝わらなくてもいいやみたいなある種の甘えが画面から感じられてしまって(実際そういうつもりがあったかと言えば本人的にはなかったでしょうが…)その論理を読み取ろうという気になれなかった。単に映像とか言葉の響きの面白さを楽しむだけならまぁまぁ。とくに映像はコゴナダの映画みたいでキレイなので、ヒーリング的な効用のある映画かもしれません。

(おわり)

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