追悼みたいになっちゃった映画『室井慎次 敗れざる者』感想文

《推定睡眠時間:8分》

エンドロールにこれまでの『踊る大捜査線』シリーズに出てきた室井慎次名場面集がジャッキー映画のNGシーンの如くずっと流れていたので室井慎次を演じた柳葉敏郎の追悼映画みたいになっててちょっと笑いそうになってしまった! まだ生きとる、生きとるやろ柳葉敏郎は! 続編のタイトルは『室井慎次 生き続ける者』だしね! ただ『踊る大捜査線』というコンテンツはもう死んでると思います! それでも『室井慎次 敗れざる者』を『踊る』シリーズに興味を失って久しい今あえて劇場まで観に行ったのは一種の死亡確認に他ならない。面白いわけがない…こんなもの面白いわけがないじゃないか! でもだからといって家に座してスルーするわけにはいかないんだよ! 事件はNetflixで起きてるんじゃない…映画館で起きてるんだ! 実際、観に行ったら劇場ではシネコンの最大級スクリーンに日曜夜の回で客が15人くらいという事件が起きていた。これ後編公開できるのか…?

内容的には十何年かぶりのスピンオフとはいえしっかり『踊る』のテイスト。といっても俺『踊る』はテレビドラマ版と劇場版の一作目を観たぐらいでそこから先はなんも観てないからあんまりたしかなことは言えないのだが。まぁでも監督は本広克行で脚本は君塚良一、プロデューサーまで亀山千広とオリジナルスタッフが揃ってるので大きく変わったということはないだろう。あの室井管理官は定年を待たずして引退、故郷秋田の片田舎(地元ではないらしい)で犯罪被害者遺児などを引き取って静かに暮らしていたのだが、その近辺で室井慎次と因縁ある死体が発見され本庁が動くおおごとに。更には室井慎次と因縁のあるティーン女子まで家に転がり込んできたり、集落の他の面々から疎まれたり、無理矢理捜査協力を要請されたりといろいろあって静かなはずの隠居生活は揺らいでいく…というのをサスペンスありコメディあり人情あり柳葉敏郎の口芸ありデッデンッの室井テーマ曲ありで描くお馴染み感たっぷりのエンタメ作がこの映画『室井慎次 敗れざる者』であった。うむ、懐かしい感じだ。

でもあんまり面白くなかったよ。それっていうのはシナリオが完全にテレビドラマの作りでしかも今回前編だから物語が全然終わらないんだよな。例の遺棄死体に関しては事件の概要すらわからないし室井家に転がり込んできた謎のティーン女子も結局なんなのかよくわかんないし集落の人たちとの対立も何一つ解決をみないのでマジ前編。こういうふうにいろんなエピソードを並行して進行させるのって1クール12話構成で視聴者は無料で観られるテレビドラマだったらわかるけど2時間2000円の映画でやるってどうなの。それはさすがに消化不良だろうよ。

あとこれは身も蓋もないんですけどテレビドラマ版の『踊る』ってたぶんあれそれまではわりとテレビの向こうの夢世界だったりハードボイルド的でシリアスだった刑事ドラマをサラリーマン的な庶民派かつトレンディドラマの軽いノリでやってみせたところが当時は新しくて面白かったと思うんすよね。だから『踊る』っていうコンテンツ単体では別に面白くないっていう。最初の『踊る』放送が1997年すからね。あれから刑事ドラマも刑事映画もいろいろと新しいのが生まれては消えて生まれては消えて生まれては消えて…そして2024年現在であるが、もう、今『踊る』シリーズを観たところで懐かしさ以外の何もないんじゃねぇかと。かつての『踊る』ファンが懐かしさを楽しむという意味では柳葉敏郎の他にも懐かしキャストいろいろ集合(回想シーンもたくさんあり)の作りはとても正しいのかもしれないが…。

秋田山奥の湖畔にある室井ハウスは囲炉裏と秋田犬付きの定年後ドリームハウス。普段は台所で料理を作っているが鍋やきりたんぽを作る時は引き取った二人の犯罪被害者遺族と共に囲炉裏を囲む。昼間は畑で農作業をして自給自足、夜はポーチの安楽椅子に座って湖を眺める…なんだかものすごい理想のハードボイルド生活であるが、2024年現在の世でこのハードボイルド感は通用するのか…まぁ通用しないから客が入っていないのだろうが、逆にこの大真面目な時代錯誤が一種キャンプ的な笑いを生んでいるようなところもあるので、そういう見方をすれば少しは面白くなる映画かもしれない。悪いヤツの悪さとかホントものすごいベタな感じでギャグみたいだしね…それはでも今のテレビドラマだって大抵そうか。

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