《推定睡眠時間:65分》
わずか77分の映画で60分寝ているわけだがその内の7分ぐらいは上昇速度が異常に遅いZ級サメ映画でお馴染みの尺稼ぎエンドロール(ちなみに今までに俺が観てきた映画の中でいちばんエンドロールが遅くそして長かったのが上映時間75分の『ジンジャーデッドマン』で13分くらいエンドロールだった)なので実質的に10分しか観てない。このブログでは再三「つまらないから寝るのではない、寝るから寝るのだ」と書いているわけだが、しかしこれに関しては正直に言わねばならないだろう。あまりにもつまんないから寝た。あまりにも起きて画面を観るモチベーションが湧かなかったのだ…。
日本での配給はお馴染みエクストリームであるからもちろん予算50まんえんクラスの最低予算カスホラーだろうとは予想していた。エクストリームはこれまで数々のカスホラーを日本のホラーカスのために届けてくれた。『食人雪男』、『ハングリー/湖畔の謝肉祭』、それからタイトルを忘れた何か…いずれも甲乙つけがたい面白くなさだったが、ヘタウマ的な味わいというか、センスのなさと予算のなさと志の低さとホラーカスに対するサービス精神が見事な低水準で調和した、カスと呼ぶに相応しい実に忘れがたい映画でもあった。
ところがである。この『邪悪な国のアリス』、なんと監督はちゃんとした心理ホラーを作ろうとしていた気配が濃厚なのだ。俺はこのような映画だと思ってニコニコ顔で映画館に入った。すなわち、ドンキホーテで売ってるレベルのかぶり物をした怪物たちの蠢く不思議の国にアリスちゃんが迷い込んでしまい、食われそうになりながらも逆にぶっ殺していく『プー あくまのくまさん』路線の血まみれ映画である。この映画も原作に堂々とルイス・キャロルと『不思議の国のアリス』がクレジットされており、『プー あくまのくまさん』の想定外ヒットに便乗した有名原作タダ乗りカスホラー企画であったことは想像に難くない。
だが実際の『邪悪な国のアリス』はそんな志の低いホラーカス向けの楽しくつまらない映画ではなかった…まず異世界に行かないのである。その時点で企画が破綻しているのではないかと思われるかもしれないがまぁ待って欲しい。更には怪物も出ないのである。そして血まみれバトルとか死体もないのだ。それのどこが『不思議の国のアリス』なのかと疑問に思われる人はきっと多いだろう。いや『不思議の国のアリス』は別にそういう話ではないが…ともかく、じゃあいったいこの映画はなんなのかと言うと、『不思議の国のアリス』の物語をアリスの心象風景と解釈した一種のサイコロジカル・ドラマであり、火事による両親の死というトラウマ的な出来事を抱えて祖母の家にやってきたアリスがそのトラウマに起因するさまざまな幻覚的光景を見る幻想譚なのだ(と俺は頭の中の断片記憶を組み合わせて想像したがエンドロールしかちゃんと観てないので実際はぜんぜん違うかもしれない)
つまりこの映画は無駄に志が高いのである。そして付け加えれば映像もわりとキレイな感じに撮れておりアーティスティックなのである。ただ問題は見せ場らしい見せ場がなくて本当に全然面白くないしアート的な映画と観るにしてはなんというかこう作り手のパッションもセンスも創造力もだいぶ足りていないので売れないインディーバンドのMVみたいにしか見えないのだ。一口につまらないといってもいろんなつまらないがあるわけだが、これは本当につまらないタイプのつまらないだろう。監督にとっては渾身作だった可能性もひしひしと感じられるが渾身作であるがゆえにとりあえず怪物を殺して血がブシャーみたいな俺みたいな頭の悪い観客向けのサービスショットを一切出さず結果としてつまらないだけの映画になったのだと思えば、創作の悲劇というほかない。
本当につまらない、とにかく本当につまらない映画だった。本当につまらない映画だったので…クソッ! もう1回観たい…!