全夢中年男性現る映画『ドリーム・シナリオ』感想文

《推定睡眠時間:0分》

フィルマークス(映画感想サイト)でこの映画の他の人たちの感想をチラッと本当にチラッとだけ見たらそのチラッの中にただ単に夢に見られただけなのに人々から敵視され排除される主人公のオッサン(ニコラス・ケイジ)は可哀相だけどこの人って自己中で承認欲求があるから同情できないんだよな~みたいな感想を2件も見つけてしまいふふふふそいつぁまさにこの意地悪監督クリストファー・ボルグリの狙い通りの反応ですなこの人は前作『シック・オブ・マイセルフ』でもSNS社会に人生を狂わされる可哀相な人を性格悪くリアルに描いて観客の感情移入を封じていたからねぇとニヤニヤしてしまう反面でいや笑えない笑えない。

主人公が人々から排除されるのは夢の中の姿、つまり本人に責があるのではなくみんなのイメージするこの人の姿が邪悪だったり性欲を刺激したりするからなのだが(まるで性欲と淫夢という概念を認めたくないあまりサキュバスという精液を吸う悪魔が夜な夜な現れるということにした中世キリスト教社会の人々のようである)、ただダイナーでメシを食ってただけなのに「みんなが不安がってるから出てってください」と店の人に言われるシーンで直接的に表現されているように、事実ではなくイメージによって排除され暴力さえ受けるというこれは差別以外の何物でもない。ところが主人公はニコラス・ケイジなのでアメリカに住むアメリカ白人男性、しかも映画内の設定では金に不自由してない大学教授である。

もしも主人公の人種がアフリカ系とかアジア系とかだったらこれを差別と思わない人はさすがにいたとしても相当な少数派だと思われるのだが、その対象がアメリカ白人男性というだけでここで行われていることが差別だと理解できない人がいるわけである。昨今、意識のアップデートだなんだとさかんに言われるが、こんなに差別を直接映像化されても差別だと理解できず、「でも主人公の方も気に食わないからな~」とか普通の感じで言ってしまえる人がほんのちょっとネットを見ただけでゴロンと出てくるわけだから、SNSの普及(など)による意識の向上なんぞというものは幻想というほかない。

きっとこういう人たちの中では差別というのはアメリカの白人がアメリカの黒人に対してやるやつとかそういう特定の属性と結びついた限定的なもので、どんな場所やどんな人種でも人間が二人以上いれば生じ得る一般的な現象だとは思われていないんだろう。なるほど、それはイジメもなくならないわけだし、ネット炎上もなくならないわけである。思いがけずツイッターで炎上して(長くなるので詳細は省くがプロとして批評をやってる人が映画に関するすげー雑なことを書いてたのでそれは違うだろと文句を書いたらそれが「差別」だということにされたんである)その結果ツイッターアカウントを消しユーチューブにアップしてた配信動画も身元を特定され職場に迷惑電話がいき仕事を解雇される恐れから全て消しアップしてた自主映画的なものは出演してくれた人から出演場面を全部消して欲しいと言われたので映画自体削除の上で永久封印となり(その記憶を思い出したくないので当該映像はパソコンからも削除してもう残ってない)結果的に俺の文句は概ね正しくプロ批評家の書いていたことは間違いであることが証明されたにもかかわらずプロ批評家の知名度とツイッター群衆の集団圧力で俺が嘘をついたことにされオマケにその文句を書いた記事のコメント欄に俺ではないし俺が同意も示してないどころが逆にそういうことは書かないでくださいとたしなめていた第三者が件のプロ批評家への名誉毀損と取れるコメントを書いていたので記事ごと削除しなければあなたは民事訴訟されるかもしれませんという通知が記事を書いたサイトの運営から届いて弁護士に相談に行くことになり今はなにせツイッターアカウント自体がないので炎上も終わったが風聞と偏見に基づく俺に対する誹謗中傷ツイートはあちこちに残っているしかといって一件一件訴訟なんかしてる精神力も財力もないという経験を数ヶ月前にしたばかりの俺としてはあまりにも完璧に他人事ではねぇ…!

のだが、事実から離れて勝手に脳内で俺の悪魔的イメージを作り出しそれに基づいて俺をメッタクソに叩いて人によっては都合良く俺との会話を改変してあいつこんなヒデェことを前にも言ってたんだぜとか嘘ツイートをしてやがったツイッターの連中は自分たちがやってることが差別だとは思ってなかったんだろうなぁ…と思うと怒りの矛先も折れて超虚しくなる。提言。ネット炎上と呼ぶからみんなそれが差別行為だと気付けない可能性があるので、これからはネット炎上をネット差別と実態に即して呼び換えるべき。そしてネット炎上ことネット差別が単にネットでの問題に留まらず現実に悪影響を与えること(こっちから縁を切った人もいるが俺はツイッター差別を受けた後にそれを知った知人が都合3人減った)、しかも巨大権力とか巨大資本とかではなく、社会的な影響力の小さい個人や商売規模の小さい中小企業などにだけ悪影響を与えるかなりカスな弱い者イジメ現象であることを知ってもらうために、ブログ時代の代表的なネット差別被害者であるスマイリーキクチの『突然、僕は殺人犯にされた』、そしてネット差別の具体像を豊富な統計データに基づいて示した山口真一の『ソーシャルメディア解体全書』をマジでこの現代社会でインターネットに触れる人全員に読んでもらいたいとおもう。そしてツイッターやめろ。ツイッターの差別煽り構造はマジで人間の精神を本人も気付かぬ内にぶっ壊す。

と、このブログでは意識的に書かないようにしていたことを『ドリーム・シナリオ』を観ていたら強烈に思い出させられたのでもう終わった話だしひとしきりぶちまけた上でそろそろ映画の話に戻るがえっへっへっ人が悪くて最高! 今の自分は専門分野(動物生態学とかそういうの)で適切な評価を受けてないし妻以外に俺を大事に思ってくれる人が誰もいない…と中年の危機な感じで思い悩んでいる主人公がはたして超自然的な現象なのかそれとも一種の集団催眠なのかアメリカの若者、とくに女の人の夢にやたらと出てくるようになり言わば夢バズ、おいおい俺も人気が出てきちゃったなおい、これはおめー念願の本を出版したりなんかしちゃったりして専門分野で学会の人たちから高く評価されちゃったりなんかして知識人ソサエティの仲間入りなんかしちゃったりしてついでにヤングな愛人まで出来ちゃったりなんかして!? と調子に乗るのであったが…のお話は登場人物の誰にも感情移入をさせない濃いめのブラックユーモアとシュールな展開が製作アリ・アスターのバックアップを得て炸裂しつつニコラス・ケイジの放つ中年の悲哀と愚かしさに切なくもなる、『アメリカン・ビューティー』のふしぎ版というようなユニークさ。

夢と悪夢は表裏一体、人気も差別も根は同じ。「シマウマはその独特な模様によってシマウマの群れに隠れることで捕食者から身を守ります。これは自分を匿名化するためのものですが、反対に、繁殖期のメスに自らのオリジナリティをアピールするためにも用いられる独特な模様もあります」なーんて大学で講義して学生たちからガン無視されてたそこらへんのつまんねぇ人であるところの主人公が自分の講義と同じようなことになるのだから笑ってしまうが、そう考えればこれはSNS差別を風刺した映画でありつつ、それを超えてニンゲンという賢いようで実はあまり賢くなく社会性があるようで身勝手な動物一般のどうしようもない社会行動を戯画化した映画だったのかもしれない(悪夢被害者として主人公を非難していた学生たちの終盤の行動を見れば結局全てはカネにされるという資本主義批判とも取れたりするなど懐が深い)

ちなみに、元ネタがTHIS MAN(いろんな女の人の夢に現れる謎の男、というアメリカのツイッターで興った都市伝説)だけあってユング心理学もちょろっと援用され、その観点から見れば夢の中の主人公はユング心理学において女の人の集合的無意識にあるとされる男の人イメージ「アニムス」を具現化したものと解釈できる。多少の不可解さは残るものの一見してシュールな展開はこう考えればわりあい筋の通ったものとなるわけで、最初は人畜無害だった夢の中の主人公がフレディ化してしまうのは、あー主人公のあの行動とかあの行動とかがSNSに流されてみんなの夢に影響を与えたのねーとかなる。おそらくそういうつもりで作られている物語なのだが、でも今時ユング心理学のアーキタイプとか男女二元論をそのまま持ち込むのはいささか古臭いし非科学的なので、まぁそういう見方もできますわな、ぐらいに個人的には留めておきたい。

※完全に余談だがTHIS MANネタの映画その名も『THIS MAN』というのが去年ぐらいに日本で作られてて、こちらはTHIS MANネタの掘り下げという点ではあまりにも浅いし安いのだが、オカルトエンタメとして観ればそれなりに楽しめる映画ではあった。

※※noteにネタバレありの「こう解釈すればいろいろ腑に落ちるぞ」記事を書いたので、なんかよくわからん映画でモヤモヤするな~と思った人はよろしければどうぞ

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