中国も国際化の時代だ映画『FPU ~若き勇者たち~』感想文

《推定睡眠時間:35分》

なんか実録もののようなテロップが出ていたが劇中で中国の国連平和維持部隊が向かったアフリカの国は聞いたことがないしアフリカ国名一覧を見てもそれらしきものがなかったので実録風のフィクションという理解でいいのだろうか。平和維持部隊というからには人民解放軍なのかと思いきや実は警察の特殊部隊だった略称FPUの人たちが政情不安のアフリカ某国に派遣されて最初は現地の人に理解されないが地道な非暴力活動が実り徐々に信頼関係を構築、しかし彼の地には反政府軍を影で支援する悪いたぶんアメリカ人がおり、FPU危うし…とこのような映画が『FPU ~若き勇者たち~』らしい。

製作総指揮に『インファナル・アフェア』の(他にも何十本とか撮ってるんだから未だにそう言い続けなくてもいいのだが)アンドリュー・ラウが入っていることもあり、さすが中国本土の映画、しっかりと大金を注ぎ込んでハリウッド的スケールの本格ミリタリー・アクションになっていて立派。火薬弾薬血飛沫を惜しみなく投入し(手足の千切れた惨殺死体をしっかり映しているのがスゴイ)パルクール・アクションやスナイパーの襲撃も迫力があった、どこで撮ったかは知らないがアフリカ的混沌と活力溢れるスラム街のロケーションなど見事で、そういえば最近のハリウッドはこの手のミリタリー・アクション大作を撮らなくなってしまったので、久々のこういうやつになんか嬉しくなる(とはいえ考えてみたら2018年の『ホース・ソルジャー』、2021年の『アウト・ポスト』とかがあったので、単にコロナ禍で大規模なアクション撮影ができなくなっていただけなのかもしれない)

火薬弾薬血飛沫惜しみなくといってもこれは国連平和維持部隊の映画なのでFPUの目的はあくまでも秩序の回復。反政府軍&たぶん悪いアメリカ人の策略により暴徒化した住民たちに襲われながらも銃火器の使用ができない…という極限状況など手に汗握らされたわけだが、バカスカと人を殺す映画ではなく、国際協調の必要性を訴えつつ部隊メンバーたち一人一人の葛藤に焦点を当てた構成は結構真面目である。しかしこれ、その部隊メンバーの回想シーンなんかで知らない人が結構出てきたし、メンバー紹介もとくになくいきなりアフリカ某国に派遣されてしまうので、もしかしてテレビドラマの劇場版とかなのだろうか? 映画というよりはテレビドラマっぽいフラットな画作りになっていたような気もするし。

そう考えれば諸々腑に落ちるのだが、同時にこう、なんというか、うーんグローバリゼーション! という気持ちにもなる。なんかあれだよな日本のさ特殊部隊系のドラマとかあるじゃん、『S 最後の警官』とか『TOKYO MER 走る緊急救命室』とか。『FPU』って映像面ではハリウッドのミリタリーもの共和党アクションみたいなんだけど、ドラマ面ではそういう日本の特殊部隊系ドラマを彷彿とさせる。一人一人のエピソードをテンポを悪くしても丁寧に掘り下げてウィットかつエモーショナルみたいな(あと隊員がみんなイケメン風)。だから日本の特殊部隊系ドラマをハリウッドの資力と技術で映像化したら…みたいな映画にも見えるんだよな。

考えてみれば最近は中華圏と日本(というか東アジア全般なのだろうか)の文化交流はかなり盛んになっていて、日本で『羅小黒戦記』のような中華エンタメがヒットすれば、中国本土では『映画ドラえもん のび太の地球交響曲』が興収一位になったりする。経済およびイデオロギー的に対立しているアメリカのハリウッド映画でさえ現在の中国本土ではしっかり人気コンテンツであることから、昨年『エイリアン:ロムルス』が残酷シーンのカットなしで(共産党のイデオロギーに反する部分は通常は検閲でカットされる)中国本土公開されたことはちょっとしたニュースになったものであった。

そうした文化交流の中で中国本土でも『FPU』みたいなハリウッド的でもあり日本のテレビドラマ的でもあるような作品が出てきたのかなと思えばちょっとイイ話感があるのだが、それは見方を変えれば中国映画ならではの面白味みたいなものが無くなってきているということかもしれないし、多くの観客を映画館に集めるにはどうすればよいかと考えたら結局このような個性のない形に収束してしまうということなのかもしれない。でもその文化の平均化こそが平和の条件なのだろうか。うーむ。ちょっと考えさせられてしまうところである。

それはともかくエンドロールがめっちゃ長くて15分ぐらいあった。最近の日本のメジャー映画にもそういうものは多いが、その表記は英語併記だったので、きっと中華圏だけじゃなく世界市場にも売る前提で作られたのだろう。しかし世界市場を意識するならばエンドロールはせめてあと3分でいいから短くしてほしいものであった。とにかく、マジで長いエンドロールだったんである。

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