家こわい家族もこわい映画『ヌルボムガーデン』感想文

《推定睡眠時間:0分》

『コンジアム』に続く韓国の実在心霊スポットを題材にした映画という触れ込みだったので心霊スポットなんか大抵私有地なわけだし土地の所有者は心霊スポット化されることを好まないだろうと思われるのによくそういうの舞台にして映画とか作れてるよなーとか思いながら観始めたらまず飛び込んできたのは「この映画に登場する場所、人物、団体は実在のものとは関係ありません」みたいな定番テロップ。なんじゃい関係ないんかい。あれか実在地名の名前とかだけ借りて都市伝説を映画化した『犬鳴村』シリーズみたいなものか。

と思いきやエンドロールで実際のヌルボムガーデンは元々レストランで云々と写真付きで紹介され、その写真を見ると映画に出てきたヌルボムガーデン(と呼ばれる3階建ての一軒家)と同じように見えたので、あれ実際に現地ロケしてんの? と混乱。まぁ、まぁ、要するに外観だけ地主の許諾を得て撮りましたが役者を入れての撮影などはほぼセットとか別のハウススタジオ使ってますということだろう。しかしそうだとしてもこんなイメージが悪くなるだけの映画の撮影によく許可を出したな。さすが韓国、東洋のハリウッドと誰かが言っているかもしれないだけあって映画撮影に理解のある国である。

という『ヌルボムガーデン』なのだが端的に言えばいつものやつであった。いつものやつといっても韓国ホラーのいつものやつではなく日本の心霊ホラーのいつものやつ。怪死を遂げた夫が妻に遺した謎の家、それこそがヌルボムガーデン。劇中では心霊スポットということにはなっていないようなので妻は夫との思い出を胸に抱えつつこの家に住み始めるのだが、当然のことながら怪事が妻を襲うようになり…である。去年ぐらいに『サユリ』という白石晃士が監督した家ものの心霊ホラーがあったがストーリー的にも雰囲気的にも(暴力ギャグのパートを除けば)あれと似た感じ。クセ強めの霊能力者が出てくるところも白石晃士っぽかったしそういえば日韓合作の韓国心霊ホラー『オクス駅お化け』の脚本にも白石晃士参加してたのでこの人韓国でも人気あるんだろうか。

いつものやつだし上映時間も手頃な90分。人によっては物足りなく感じられるかもしれないが俺はこれぐらいでなんかちょうどよかった。やっぱしねお金のかかった韓国映画ばかり観てるとそれぞれの映画自体は面白くてもなんか飽きてくる感じあんのよ。お金がかかってると上映時間も120分とか超えてくるしね。対してこちらは典型的な低予算ホラー、お金のかかった場面は全然出てこないし凝ったカメラワークや展開もない。とりあえずの感じでラーメンを頼んで次郎系を出してきたのが韓国ホラー大作の『破墓』だとすれば、こちらは単にラーメンが出てきた映画であった。

ただし店主の粋な計らいで韓国タマゴをサービスで麺の上にちょこんと載せてくれた(韓国タマゴという食べ物が実在するかどうかは知らない)。必然性をまったく感じさせないカークラッシュ、「はよ警察呼べや」をガン無視することで成立するどんでん返し、そして急にエモくイイ話風な感じになるクライマックス。ポルターガイスト現象により飛んできた食器に当たって人が死にかけるのも最近の映画ではあまり見ない光景だったからサービスのつもりだったのかもしれない(ちょっと嬉しい)

これこれの韓国タマゴサービス部分があった方がよかったかなかった方がよかったかは人によりけりでしょうな。たしかになかった方が映画として破綻無くまとまっていた気もするが、でも個人的にはまぁ、これぐらいのサービスなら無いよりはあった方がいいじゃんと思います。韓国の最近のブロックバスター映画はどんでん返し×4ぐらいが標準になっているがこれはどんでん返し1回だけだしね。過度なサービスはありがた迷惑になってしまう時もあるが、適度なサービスならいつでも嬉しいもんである。

舞台となるヌルボムガーデンは見た目明るい感じの普通のいまどきハウスなので「ここが心霊スポット?」と思うも、言われてみれば近隣にあまり家も建っていない中でこんなオシャレハウスがポツンと建っているのはなにやら無気味で、その空虚な明るさが「家族の幸せ」という主題と合っているのでなかなかセンスのある作り(主題の展開の仕方にはわりと無茶があるとしても)。見た目も無気味だが中の方はもっと無気味だ、そこら中にお化けいっぱいみたいな感じでは別にないのだが、外から隣家の生活音も車の音も聞こえてこない3階建てのそこそこ広い一軒家にたった一人で住む…これは俺なんか想像するだけでヌルヌルいやブルブル来てしまうところである。何が怖いってお化けの顔とかも結構怖いのだが、この無駄に広くて現代的な生活感のない内装が怖かったな。

『サユリ』と似てると書いたが陰鬱ムードの現代的な家ものホラーということで『呪怨』とも通じるところがあるかもしれない。観ているといろいろ連想させられるので何か秀でたところとか独創性みたいのはないかもしれないが、そういうのってありゃいいってもんじゃないからね、ジャンル映画の場合。『コンジアム』みたいな特盛りホラーじゃないですけど、じゅうぶん面白い正統派の家もの心霊ホラー映画だったんじゃないでしょーか。

※低予算映画なので役者の人たちに基本的に華がないのもいい。そういう方がホラーっぽい雰囲気出るもんな。

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