《推定睡眠時間:0分》
監督がネットで話題となったTVモキュメンタリー『イシナガキクエを探しています』の近藤亮太(演出の一人)という人だからか公開初日はそう狭くないキャパの映画館が満席で入れなかったほど少なくとも東京ではわけぇもんたちに注目されているらしいこの映画なのだが案外書きたいことがない。
別に面白くなかったわけじゃあなく怖くなかったわけでもなくなかなか楽しめた映画なのだがやってくることは王道のJホラーであり、とりたてて新しいアイデアがあるわけでも目を引く技巧があるわけでもない。どちらかと言えばとくにシナリオの面で下手さが目立つくらいで、完全にシリアス路線の映画なのにその展開はないだろとかそんな台詞は言わないだろとかいうのが多くて白ける部分すらある。低予算Jホラーって警察の扱いがホント雑なのだがそういうところもキッチリ踏襲しているので、恐怖よりも不安に力点を置いている点は多少の独自性と言えなくもないかもしれないが、俺にはよくあるJホラーの一つとしか思えなかった。比較対象を挙げるなら『シライサン』とか『のぞきめ』とか『N号棟』とかそこらへんのB級Jホラーになるんじゃないかしら。というわけでこれといって書きたいことがないわけである。
しかし俺が俺に課した俺ルールによればこのブログでの映画感想は最低1000文字じゃないといけない。ここまで書いた時点で文字数は500ちょっとということでもう半分何かを書いてページを埋めなければいけないのである。さてどうしよう。この無駄なさてどうしようは言うまでもなく露骨な文字数稼ぎなわけだが…そうだな、なんかね、Jホラーの「型」っていうのをすごく意識した映画だと思ったな。だから普通だな~って感じるんだろうと思う。
『イシナガキクエ』とかはそれが進化と呼べるかどうかはわからないがともかくこれまでのJホラーを継承しつつ時代に即した新しいものを、みたいなところあったじゃないですか。それと比べると『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』はかなり保守的なJホラーで、台詞回しであるとか全体的な雰囲気醸成であるとか不可解なものの見せ方の点なんかでもビデオオリジナル版『呪怨』を彷彿とさせたりしたから、なんか、ちょっと懐かしいね。いや、懐かしいってったところで俺がビデオオリジナル版の『呪怨』を観たの去年のことだからこれは虚構のノスタルジーなんですけど。
だからこれが最近のわけぇもんたちの熱視線を浴びているというのはさ、もしかすると世代的にビデオオリジナル版『呪怨』を知らない世代の人たちの目には、このちょっと古いスタイルが逆に新鮮に映ってるってことなのかなとか思ったりしないでもなかった。なんたって2000年の作品ですからねビデオオリジナル版『呪怨』。したらもう、その後に生まれた世代が『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』の主要な観客だとしてもおかしくない。無気味なビデオ映像の謎を巡るミステリーという点では『リング』どころか1988年の『邪願霊』まで遡っているかもしれないので、そうなるともう世代が二周ぐらいしてしまってるだろう。
思えばJホラー黄金期の1990年代は空前の怖い話ブームの時代。昨今YouTuberなどを中心に再び怖い話ブームが巻き起こり怖い話の本(『近畿地方のある場所について』とか)も本屋さんのヒット商品になっているらしい。平成レトロ的なブームもあるし、子供から大人までみんな怖い話ばかり貪るように観たり読んだりしていた(いやホントなんだって)あの1990年代が、回帰してきているのかもしれない。なんだかそのことの方が映画本編よりも怖い話な気がしないでもない。