《推定睡眠時間:?分》
おそらくThe Backroomsとかいう突然そこに迷い込んでしまったりするどこまでも続く迷宮のような空間の都市伝説をモチーフにした動画が英語圏のYouTubeで2020年頃から流行りだした影響なんだろうが、出所不明のファウンドフッテージという体の無気味な内容の動画がYouTubeではよく投稿されてて、なんでもない風景を撮っているだけに見えるがよく見ると奇妙なものが映っていたりだとか、人が一切映り込まないとか、だいたいそういう特徴がある。日本でもここ最近はフェイクドキュメンタリーブームがYouTube発で巻き起こっているので、まぁ昔からあるといえばあるが、フェイク・ファウンドフッテージ系の無気味動画が最近は多いぽく、よくおすすめ欄に上がってきて肝を冷やす(やめてくれ)
でこの『SKINAMARINK/スキナマリンク』、監督インタビューなどは読んでいないがおそらくそうしたYouTube動画に強く影響を受けた超低予算のインディー・ホラー。これはすごい。なにがすごいってストーリーらしいストーリーはなく上映時間100分の間ずっとYouTubeの無気味動画みたいな暗い室内映像であるとかくぐもって聞こえない意味不明な会話の断片が続くだけ! たまにでけぇ音でびっくりさせるジャンプスケアもあるとはいえ、これではまるで耐久動画である。なにせ映画の大半は室内の天井の角とかのマジでなにもねぇ映像なのだ!
ブームに乗ったというわけではなく伊藤高志という実験映画監督の作品とフレデリック・ワイズマンの作品に影響されてなのだが、YouTubeの無気味ファウンドフッテージみたいなものは実は俺も前にアップしたことがあった。それが下の2本。
で、こないだYouTubeでライブ配信をやったときに『スキナマリンク』はよく知らんけどたぶんあれだろうこの前にアップした『お化けなんかいるわけないのに』が2時間続くみたいな映画だろうとニヤけながら雑に言い飛ばしていたのだが、実際に映画を観たら、当然『スキナマリンク』の方が画作りはしっかりしているとか、ゆーてホラー映画だからオバケみたいなものも『スキナマリンク』の方にはちゃんと出てくるという違いはあるのだが(※俺がアップしたやつには作るのがめんどくさいからそういうのは出てきません)、そう間違ってもいなかった。だからまぁ宣伝というわけではないんですが、『スキナマリンク』に興味があってどんな映画か知りたいという人は上の俺アップ動画を見てもらえればよろしい。これが100分。それは無理だろと思った人は避けるのが賢明。
ほかに連想させられたものといえばインディーホラーゲームの傑作『ゆめにっき』、そしてそのネタ元であろうPS1のカルトゲーム『L.S.D.』。オモチャの目が突然の大音響と共に動くあたりとか電気のスイッチを消したり点けたりを繰り返してると不意にコワイ何かが現れるといったいささかチャチい演出は『ゆめにっき』でも採用されていたので、『ゆめにっき』はフリーゲームということもありプレイ動画が多く拡散されたから、もしかすると『スキナマリンク』の監督も見たことがあったのかもしれない。
まぁ自分でもそんなの作ってアップしてるぐらいだし、俺はこういう前衛的な映画はかなり好き。途中で寝ているがこんなもんは睡眠前提みたいなもんで、どこで寝てもそもそもストーリーらしきものがないので(夜の家から扉や窓が消えてそこに住んでる兄妹? が外に出られなくなるという設定は一応ある)困ることはないし、むしろ寝た方が悪夢感が増してイイ。とにかくずっと同じような絵面なので時間感覚喪失不可避の映画だが、途中で寝ることによって起きてもまだ続くさっきと同じような風景に、自分もまたこの家に永遠に閉じ込められてしまったかのような気味悪さを覚えるのである。一般公開前にはこの映画をオールナイトで三周観る企画も開催されたというが、たしかにこれは何回も続けて観れば頭がおかしくなってきてかなり怖くなれそうである。
昨日フィルマークスで平均点数を見たら2.1点とかになっていたから、おそらくこれは大多数の人を「こんなもん映画じゃねぇ!」と怒らせながら、ごくごく一部の人たちからは絶賛されて語り継がれるカルト映画になるんだろう。ただ個人的な趣味で言えば、ここまで無を貫いたんだったら、いっそジャンプスケアとかオバケ的なものも出さない方が作品として強くなったんじゃないかと思う。100分ずっと出口のない夜の家を彷徨うだけ。ただそれだけの方が、逆に人間の脳は「いま何か変なものが映っていたような…」と自己暗示にかかってコワイんじゃないかと思うし、品格も出るというかなんというか。擬古調のノイズエフェクトもなかった方がリアル感が増して気持ち悪かったんじゃないすかね。
カメラポジションが子供目線を意識してか全体的に低く、そのために狭い室内でも全体像が見渡せず断片化され、なにか得体の知れないものに見えてくるという実験映画的な試みはよかったけどな。子供目線になって世界の不可思議を捉えるシュール映画という意味では、パールフィ・ジョルジの『ハックル』のホラー版とも言えるかもしれない。
※あとこれブラウン管テレビを使ったフリッカー(点滅)が多用されるのでそういうの弱い人は目をつむるとかして自衛しましょう。俺はしっかり頭痛くなりました。