《推定睡眠時間:20分》
おそらく2023年のハリウッド大規模ストライキを機に日本の映画館ではアメリカ以外の国のジャンル映画なんかもわりあい積極的に流すようになった(というか選択肢がなかったんだろう)がそんな中でも注目度が高く定着の兆しを見せているのがアジアンホラー、韓国・台湾・インドネシア・タイ・ベトナムといった国々のホラーが今、アツい。なにがイイってアジアンホラーはエグい。日本のホラー映画はいつからか話題性重視でお子様やホラーニガテーな人も集客できるようにか本格的に怖いホラー映画はかなり数を減らしてしまったが、アジアンホラーの主流はホラーであるからして当然なのだがストレートに怖い作品である。そして一部の例外を除けば怖さを追求すると物語展開の面や残酷表現の面で映画は半ば必然的にエグくなる。そのエグみは日本のホラーもそうだがアメリカのホラーでもあまり見られないものなので、物珍しさもあって面白いのだ。
というわけで『哭戦 オペレーション・アンデッド』だが、これはタイのゾンビ映画である。タイと言えば少なくとも1990年代には死体写真を載せた新聞が駅前で売ってた国(※現在は不明)。しかも映画サイトなどの事前情報ではひたすら血が飛ぶので残酷描写を理由として映倫判断R15になってしまったという。ダメ押しの期待情報はゾンビ日本軍というパワー概念である。映画の時代背景は第二次世界大戦中のおそらく大東亜共栄圏編入以前、南進を進める日本軍は武力をチラつかせて要衝の実質支配を迫るがタイの軍部は国民向けのアピールなのか日本軍との会談の場で一応抵抗させてくれと申し出る。かくして最初から勝つ気などなく捨て駒として前線に送り込まれる学徒出陣兵たち。それに対し日本軍は大日本帝国のパワーを誇示すべく極秘開発された禁断の部隊・ゾンビ日本軍を放ったのであった…。
まったくロマンの塊のような映画だが、そんなわけで観に行ってみたところ衝撃! ゾンビが反戦を訴えている…! 説明しよう! ゾンビ日本軍は日帝のひみつ博士による不死の兵士プロジェクトの産物である! ナチスで言えば『ゲシュタポ卍(ナチ)死霊軍団/カリブゾンビ』だな! この不死の兵士プロジェクトでひみつ博士はゾンビの中には完全にゾンビと化したゾンビもいるが人間の理性を保ったままのゾンビもいることを発見する! ゾンビに食われた人もゾンビ化するのでゾンビ日本軍に喰われたタイ少年兵部隊も次々とゾンビ少年兵となっていくのであるが、このゾンビ少年兵の中で知性を保っていた人が、『ランド・オブ・ザ・デッド』のビッグダディよりも賢くゾンビ少年兵部隊を指揮して生きてる方の日本軍に復讐せんとするもう一人の知性派ゾンビ(兄弟とかの設定)に対して悲痛な声で叫ぶのである! 「暴力で争いごとは解決しない!」
たしかにその通りだと思うがまさかゾンビから平和祈願を聞くことになるとは…。まぁ設定からしてトンデモ寄りと思わせておいて実は結構真面目というのがこの映画である。食われた人間もまた人を食うようになってしまうゾンビは暴力が暴力を呼ぶ戦争状況のメタファーだ(方便とも言う)。そんな不毛を容認していたらいつかそう遠くない日に世界中の人がゾンビになってしまうだろう。だからこそ悲惨な戦禍の数々を見た知性派ゾンビ少年兵はゾンビ日本軍に食われながらも報復以外の道を探ろうとするのである。ゾンビ少年兵の方が現在の各国の戦争指導者たちよりもよほど賢明ではないか。いったいどういうことなのか。
しかし、言いたいことはわかるが、ゾンビ映画としてはもう一歩というところである。たしかにゾンビ兵士たちは全編に渡って爆食っぷりを発揮しているのでモンドセレクションの人体損壊部門なら受賞できると思うが、語るべきストーリーに比して110分という上映時間はいささか長いので展開が冗長になっており、ゾンビのお食事が延々と続くだけで遅々として話が進まない。火炎放射器で汚物は消毒だー! をやる人間日本軍とゾンビ少年兵部隊の戦いなど盛り上がる見せ場は少なくないのだが、ただその繋ぎ方、見せ方が上手くないのだ。あとなんか森の中とか洞窟の中とかセコイ感じのロケ地でばかり戦ってるのもスケール感という点でマイナス。そりゃまぁとりあえず(お金がかからないし汚しても怒られない)森でロケというのはゾンビ映画の基本パターンではありますが。
せっかくゴアゴアしくがんばってるのにちょっと残念なところが目につきやすい『哭戦 オペレーション・アンデッド』ではあったが、とはいえゾンビ日本軍によって平和と友情を踏みにじられた少年兵たちの悲劇を描いた異色のゾンビ戦争青春映画というのは面白いし、あと売れれば確実に続編が作られる終わり方をしていたので、続編では今作を超えるゾンビ爆食いに加えてサムライゾンビ日本軍やニンジャゾンビ日本軍など更なる大日本帝国のひみつ兵器が東條だけに登場するかもしれない。その意味ではなかなかポテンシャルを秘めたゾンビ映画ではあったんじゃないでしょーか。