《推定睡眠時間:60分》
世界的大ヒットゲーム『マインクラフト』の実写映画版ということで俺はこのゲームはやったことがなく要はレゴブロックにアドベンチャー要素的なものを足したものぐらいなざっくり知識しかないのだが、そういう人に対する配慮なのかゲームがハリウッドで映画化される際には現実世界から異世界(これがゲームで描かれる世界)に主人公が移行するパートがだいたい序盤にあって、ゲーム版を知らない観客でもスムーズに作品世界に入り込める仕掛けになってる。実写映画版『モンスターハンター』(B級SFアクションの傑作)もミラ・ジョヴォヴィッチ率いる米軍小隊が異世界に飛ばされるという展開になっていたが、やったことがある人ならわかるでしょうがゲーム版の『モンハン』は現実世界とか出てくることなく最初っからモンスターの闊歩するファンタジー世界が舞台なのであった。
『マインクラフト』の場合は原作ゲームにストーリーがないのでこの現実世界→異世界転移はたぶんハリウッド的には必須だろう、じゃあどう転移するのかな…と思ったら鉱山に憧れていた少年が歳を取ってジャック・ブラックになりある日会社の食堂で飯を食っていたところ唐突に鉱山への情熱が蘇り少年時代は倒せなかった鉱山で働く番犬のような老人を今度は華麗にスルーして鉱山の奥底にツルハシを突き立てたところそこには謎の発光キューブが二つ見つかりがっちゃんこと組み合わせてみると何から何までブロックでてきたマイクラ世界に転移してしまったのだがとくに問題なく適応しゾンビに怯えながらもブロック狼と楽しく暮らしていたところ今度は突如としてとくに説明もされないのでなんなのかよくわからない冥界ネザーに入り込んでしまいそこに囚われるというプロローグがジャック・ブラックによるモノローグでおよそ2分に凝縮してお届けされていたので狂っているのかと思った。
いや、『マインクラフト』ってそりゃ採掘要素があるから「自分の」のMineと「鉱山」のMineのダジャレネーミングだとは思うけれどもだからといって主人公…はその後に出てくる80年代の栄光を捨てきれないゲーム筋肉のジェイソン・モモアなのでジャック・ブラックは狂言回しに近いポジションなのかもしれないが、ともかく事の発端となるキャラを幼い頃から鉱山が好きだったとかいう意味不明な設定にするのはなんなんだよ! あと誰もツッコんでいなかったと思うが結局あのブロック異世界はなんなの!?
本編が始まる前にレジェンダリーのムービングロゴが出てたのでこれがレジェンダー・クオリティか、そうだよなぁレジェンダリー版のハリウッドゴジラとかも良い意味でも悪い意味でもめちゃくちゃ大雑把な子供騙し映画だったもんなぁ…とか帰り道で思っていたのだったがさっき映画サイトで監督名を確認するとなんだか見覚えのあるジャレッド・ヘス、誰だったかな…ああ! 『バス男』の人! DVDリリース後にその邦題はないだろと今で言う炎上(火付け役は映画秘宝界隈だったと思う)騒動になって再リリースされた際には原題をカタカナにしただけの『ナポレオン・ダイナマイト』の邦題に改められた『バス男』のジャレッド・ヘスだ!
日本でこの人の新作映画が公開されるのは実に2006年の『ナチョ・リブレ』以来19年ぶりだそうで(2009年には『Mr.ゴールデン・ボール/史上最低の盗作ウォーズ』というボンクラ映画の佳作もあるがDVDスルー)、そう思えばこのわけのわからなさ腑に落ちてしまう。うだつの上がらないダメ人間たちの日常をオフビートなタッチでシュールな笑いを織り交ぜて描くのがジャレッド・ヘスのスタイルであった(マイク・ジャッジと似ている)。『Mr.ゴールデン・ボール/史上最低の盗作ウォーズ』もゼーガーとエバンスによる哀愁SFソング「西暦2525年」の流れるダサッ! というオープニングが逆にツボに入ってしまうだいぶどうかした映画だったが、なるほどねー、鉱山好きの設定とか誰も異世界にツッコまないシュールっぷりとか考えてみればジャレッド・ヘス・ワールドだよな!
納得はしたがしかし面白かったかどうかはよくわからん。なんかガチャガチャはしてたと思う。そのわりに敵がショボく全体的にゆるいし、どちらかと言えばマイクラ世界の描写よりも現実世界の小学校でのシュールなギャグ描写の方に力が入ってるので「何?」という感じになる。最後らへん投げやり気味にみんなハッピー大団円になるのもふざけてるのか雑なのかよくわからないのでこれは謎作。
そのへんは『バス男』の頃からなんだかんだ変わってないかもしれない。『バス男』も大好きな映画だがどこがどう面白いかと言われると説明は一応出来るが納得はしてもらえない気がしてる。主人公ナポレオンの口がいつも半開きとか、ナポレオンの名字はダイナマイトで兄が一人いるのでどっちも非モテの陰キャなのにダイナマイト兄弟とか、最後の文化祭みたいなのでやるナポレオンの変なダンスの時のそこだけ妙に力んだカメラワークとか…『バス男』もまた謎作であり、カルト映画だったのだ。
こちら『マイクラ』の方も早速イギリスでは若者どもがさまざまなアイテムを劇場に持ち込んで勝手に観客参加型上映にして盛り上がっているらしく、カルト映画の道を歩んでいるもよう。世界的大ヒットゲームの映画化なのにこんな客を選びそうなクセの強い映画にしてて偉いかもしれない。