ワールドワイドなドキュメンタリーの特集上映である。
この特集「ハーバード大学感覚民族誌学ラボ 傑作選」と副題があり、なんや知らんがソコの研究成果ってぇのが今回の上映作品らしい。
そう聞くと如何にもアカデミックにタイクツなイメージがあるが、ところがどっこい、驚いた。
どの上映作品もだが、映画としての面白さを追求したって感じで、堅苦しい感じとか全然無い。
うーん、さすがハーバード。どこにあんのかすら知らんけど。
ってなワケで『ハント・ザ・ワールド』全作観てきたんで、感想書いた。
『ニューヨーク・ジャンクヤード』(2010)
貧乏白人とかプエルトリコ人なんかが暮らしてる、NYメッツの球場“シティ・フィールド”のまわりに広がるジャンクヤードにカメラが潜入。一年くらいかけてその底辺生活っぷりを撮る。
コレなにが面白いって、ロケーション最高だよな。
いっつもアッチコッチぬかるんで水溜りできててさ、大雨振ると冠水すんの。
建物なんてみんなボロッボロに錆びてて、ソコにジャンクだろうかなかろうがありとあらゆる車のパーツが所狭しと置かれてる。圧巻。
日中はずーっと廃車解体しててガシャガシャうるさい。そのノイズに混じってさ、ラジオからなんや陽気な音楽が流れてんのね。で、ソコでキッタネェお子様が無邪気に遊んでたり、住民がジョーク言い合ったりしてると。
第三世界と見紛うばかりの光景だけど、コレがニューヨークにあって、夜となれば煌々と輝くシティ・フィールドの照明や広告看板の下に沈む。
凄くない?なんかもう、サイバーパンクじゃん!マジかっけー!
…とばかりも喜んでられない。最低限のインフラは整ってるとはいえ生活環境はメチャクチャ悪いんで、住んでる人たちはタイヘンである。
編集のせいか皆さん毎日バーベキューしたり踊ったりして結構エンジョイしてるようにも見えるが、その実、車上暮らしをしながら「警察に通報しても来てくれないから、自分で自分の身を守るしかない」とか語る白人の女の人もいたりすんのだった。
誰々が逮捕されたとか、そんなの日常茶飯事。
当たり前のよーにヤクの売人の方も出演してるのだが、このあたり、むしろ笑った。
ジャンクヤードに暮らす友達の太っちょとこんな感じの会話してる。
「ヤクか?やめろってそんなの」
「うっせーな、デブ。帰れ」
「良くないって」
「わーったわーった、黙ってろ」
二人並んでカメラに映るが、売人はスレイヤーの黒いTシャツ、太っちょはポパイの黄色いTシャツを着てる。
演出入ってないかレベルの分かりやすい対比が面白いが、それにしてもこの下町感溢れる人間関係!そしてキャラクター!
つかカメラ向けると踊りだす謎のオッサンとかいたりして、どいつもこいつも良いキャラし過ぎだろ。
ジャンクヤードは後に取り壊されたんで、今となっちゃ貴重な生活の記録らしい。
なんだろうなぁ、『どですかでん』(1970)みたいな。
傍目には底辺としか映んないかもしんないけど、マァそん中にも悲喜こもごもの色んな人生があるんですよってコトがよく分かる、イイ映画でしたね。
『モンタナ 最後のカウボーイ』(2009)
放牧のため、羊さんたちを連れて250キロもの旅に出るカウボーイを追うハナシ。
開始早々、羊さん。モシャモシャとエサを食べて、カメラをジー。
「メェェ」
で、タイトル。なんだか全身が脱力してホワホワと脳みそが溶けてきそうな、素晴しい始まり方。
しかしビックリしたなコレ。タイトル出た後さ、カウボーイが笛かなんか吹くんですよ、羊さん集めるために。
すると画面に羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹…なんだか眠くなってきたなと思ったら、一気に羊が五千匹。エーッ!
いやむしろ一万匹ぐらいいたような気もするが、その物量には完全にヤラれた。
セシル・B・デミルが羊映画撮ったらこんな感じになるに違いない!
そんなワケで、始めから最後まで画面はモコモコでいっぱい。山々から街路から羊さんで埋め尽くされる。メェェ。
言うコトを聞かない羊さんたちにカウボーイが「このマ○コ野郎!」とかブチ切れたりするが、反応は「メェェ」。
ずっとそんな調子なんで、とてもタイヘンかつ危険を伴う旅らしいが、もう全く緊張感とか無い。
雄大かつメェェ、な映画である。
未だオートマ化とかされてない牧場の、オール手作業の飼育の様子とかも見れる。
母羊から赤ちゃん羊をズルっと引き出したり、流れ作業で毛を刈ったりするサマが映されるが、なにをされようと羊さんはされるがままにメェメェ言ってるんで、なんか笑う。
そうかー、そーゆーのはまだ残ってたんだなぁ、でも無くなっちゃったんだなぁと思うと、なんとなく切なくもあるが、メェェが全部掻き消しちゃうのだった。
とても面白かったが、羊さんばっかり出てくるんで途中寝た。
メェェ。
『リヴァイアサン』(2012)
どこにいるんだろう?
辺りは真っ暗。水がゴボゴボいってる。光が見えて…どうやら、カメラはトロール船の漁に同行してるらしい。
説明とかなんもないし、大体音がくぐもってて漁師の会話とか全然聞き取れないんで、なにが起こってんだかよー分からん。
でもなんかこう、タダならぬコトが起こってんである。
ディスカバリー・チャンネルとかで漁のドキュメンタリーって定期的にあったりするじゃないすか。
グワングワン揺れる船上でさ、荒くれ漁師さんたちが波しぶきを浴びながら網引っ張ってるみたいな。
船上が戦場だ!みたいな。
コレそーゆーのと全然違くて、戦場って言うんならアレですよ、『プライベート・ライアン』(1998)のオマハ・ビーチが二時間続くような感じ。
なかなか、トンデモナイ。
すげーヘンな撮り方してる映画でさ、コントラストが強烈で、カメラ水中から船上から行ったり来たりする。
流行のGoProで撮った、と他の人の感想に書いてあったが、もう画面歪みに歪んで、誇張されまくってて、ライブ感すごいんだけど現実のコトとは思えねぇの。
ウルトラ暴力的な冒頭10分のカオス(漁)が過ぎ去ると、辺りは静まって、夜空を見上げりゃカモメの一群がミャーミャーと船に随行してる。
で、思うワケですよ。
あぁ、リヴァイアサンの凱旋だ。この映画、神話なんだ、って。
その後カメラは船内に入ったりするワケですが、気分的には船に食われた感じ。
映像のせいもあるんだけど、コレ音がまた特徴的で、水の音とか魚を捌く音がすげー生々しく強調されてんすよ。
それがもう気持悪くて。ヌチャヌチャグチャグチャいってて。船がホント生きてるみたいに思えてくる。
グロ映画じゃないのに、生理的にキツイぞマジ。
なんやそんなのがマァずっと続くワケです。
ドラマとかそんなん無くてですね、もう船の航行自体がドラマだろみたいな。そのダイナミックな動き自体が映画だろみたいな。
いやぁ、凄まじい映画でしたよ、ホント。圧巻だこりゃ。
マァ、俺は船酔いして途中で寝たんだけど。
『マナカマナ 雲上の巡礼』(2013)
はぁ、宗教の映画ですか?エッ?ヒンドゥー教の?
あぁなるほど、マナカマナ寺院ってぇのがネパールの山奥にありまして、ヒンドゥー教徒の聖地になってると。
で、その巡礼の映画だと。へぇ、面白そう。どんな寺院なんだろ?
…と思って見たが、おいちょっと待て。マナカマナ寺院、出てこねぇじゃん…。
っていうか、寺院に行くロープウェイの中からカメラ一歩も出ねぇじゃん…。
キアロスタミ監督の『桜桃の味』(1997)っちゅー映画、ありましたね。
自殺志願の男がヒッチハイクかなんかして、で車内で運転手と話すのが90分くらい続くだけっつー映画。
アレと同じタイプの映画がコレ。
で、とても面白かった。意外なコトに。
ホントにロープウェイの中にカメラ据え置いてるだけで、前半は麓から寺院に行く人たちが何組か描かれて、後半は降りてくる人たちが何組か。
それだけなんだけど、それ見てるだけで面白いんすねぇ。
最初は老人と孫(と思しき)がロープウェイに乗ってくる。どうも老人の表情からするとなにか複雑な事情がありそうなんだけど、しばらく話さないから分かんない。
で、二人で景色眺めながらずーっと登ってって。一分経過、二分経過。長いロープウェイだなぁ。しかし、喋らないな…。
七分くらい経って、到着。二人、降りる。
で、分からないように暗闇でごまかして、カット代わって次の組が乗ってくる。
…なんか喋れよ!
まさかこんなのが二時間近く続くのかと焦ったが、次に次くらいに乗った老夫婦は道中でポツポツと話し出した。
開始20分くらいでようやく人の言葉が聞けた!感動!
いや感動するコトかと思うが、そーゆー微細な変化になにか面白さと感動が宿る類の映画なんだな、コレは。
マァ色んな人おりますよ。
最初の老人と孫もそうだけど、花束抱えて一人でロープウェイに乗る女の人とかさ、キャッキャと戯れながらデジカメ撮るロックバンドの人たちとかさ。
なんや悲しい想いと願いを抱えこんだ(ように見える)人もいりゃ、物見遊山の人もおりますよと。
で、その物見遊山のロックバンドにしてもさぁ、そいつら三人組なんだけど、微妙な温度差というか、バンド内での関係性みたいのが見え隠れして。
みんなたった7分間カメラの前にいるだけなんだけど、そん中で色んな人間模様が見えてきて。
それがスゴイ面白いっすね、この映画。なんか間違い探しみたい。
あとアレだ、動物さんですよ、動物さん。
なんだかよく知らんけど、巡礼者ん中にゃネコとかニワトリとか持ってる人いて。それが画面に現れると「オッ!」ってなる。
意外と劇映画的な狙った仕掛けっつーか編集で、途中ヤギさんが大活躍すんだけど、ソコは笑った。
でもヤギさんがグングンと上昇してってさ、そのうち窓の外に雲しか見えなくなってくると、なにか神聖な感じすら漂うから不思議だなぁ。
巡礼の帰りにババァがアイスを食べるトコ、そこなんかも笑ったなぁ。
アイス溶けてきちゃって、ババァがアイスでベッチョベチョになんの。
他愛の無いシーンだよね。
だけど娘と笑いながらアイス食べるババァにさ、ここでもなんか神聖なっつーか、そういう感じある。
あぁ聖地なんだなと。ババァの背景とかなんも知んないんだけど、聖地行ってなにか満たされたり救われたトコあんだな、みたいな。
なんのコトない会話ん中から薄~くネパールの歴史だとか、マナカマナを取り巻く状況の変化みたいのも見えてきたりして。そーゆーのも面白いっすねぇ。
窓の外に見える景色なんて美しいし、地元の子供たちが騒いでんのがチョットだけ映り込んだりすんのも微笑ましい。
こいつらがギャーギャー言ってんのすら祝福の声に聞こえてくっからね。侮れない映画だよコレはさぁ。
マァ劇的なコトとかホントに一切ない、地味ぃな地味ぃなミニマルなハナシなんだけど、コレとても良かった。いやマジで。
【ママー!これ買ってー!】
ブルーレイ出てるが、コレは劇場の暗闇で、できれば爆音で観たいよなぁ。
ちなみに輸入版ですが、基本セリフとか無い映画です。