「泣けないので減点させていただきます」
みたいな感想をどこぞの映画サイトで目撃し、なにかUMAを発見したような気分。
ホントにいるんだな、そーゆー人…。
そらマァ、映画に何を求めるかなんて観るヤツの自由ではありましょうがネ。
それはともかくSABU監督の『天の茶助』を観たんで感想書くが、自由意志で書いてると見せかけて実は天国のシナリオライターに書かされてるんである。
で、ソイツがバカみたいな人生シナリオ、登場人物を不幸にすればお客は喜ぶんだろ、みたいなナメ腐った態度で俺の人生シナリオ書いてるせいで、俺は十年くらいシナリオ書いてんのにいつまでも経っても脚本賞とか取れず、ずっと貧乏かつ素人のままなんである。
天国の誰かが書いた俺の人生シナリオの致命的な欠陥は、コレが全く感動的でなく、かと言って悲喜劇になるほど面白くもないトコなのだった。
しかしそれはライターの技量の問題であって、断じて俺自身の問題ではない。
…よし、そう思い込んでしまおう! なんか空しいが!
なこたぁどうでもいいっての。
あらすじ
人の人生は全部天国に決められてんのだった。
天国には無数の人生シナリオライターがいて、下界の人々はそのシナリオ通りに動いてるだけなのだ。
シナリオライターも楽ではない。少しでも斬新な、少しでも面白いシナリオを書くために朝となく昼となく脳みそをしぼるだけの日々。
そんな中、一人のシナリオライターがヤケを起して無意味でブロークンな(そして全然面白くない)シナリオを書いてしまう。
犠牲となったのは健気に生きる聾唖の若い女性。ブロークンシナリオのせいで、ささやかな幸せに満ちた彼女の人生は突然の事故死に改悪されてしまったのだった。
これを不憫に思ったのが天国の茶番頭・松山ケンイチ。
なんとかして彼女を救いたいが、しかし茶番頭の自分ではシナリオを書き直せない…なら、下界に降りて救えばいいじゃん!
ってなワケで、松山ケンイチは彼女の住む沖縄の地に降り立つのだった。
果たして、彼女を救うコトは出来るのだろうか…。
ファンタスティックなラブコメ…か?
それにしてもコレ、三谷幸喜あたりが書きそうな脚本だなぁ。
とゆーか三谷の『ラヂオの時間』(1997)なんてこんな感じだった気がするぞ。
この映画、ラジオの生ドラマのハナシなんだけど、そのドラマの台本が現場の都合でどんどん変更されてって、んでドラマの映像が合間合間に挿入されると。
最初はマジメな恋愛ドラマだったのに砂漠行ったり宇宙行ったりみたいなシュールな展開になってって、いやコレが笑えるんだよ。
(うろ覚えだから違ったかもしんない)
しかし脚本の上ではそんな感じに思えて、映像から受ける印象は全く違うのだった。
松山ケンイチが降り立ったのは商店街で、ちょうどエイサーの最中。
沖縄三線と指笛と太鼓がけたたましく鳴り響き、なんや狂気を孕んだ熱気である。
このあたり、コワイ。
すげー異様な感じに撮られてて、こんなん見たらもう絶対理性とか通用しないって思っちゃうよ、沖縄じゃ。
魔境だよ、魔境。沖縄魔境だよ!
…いやそんなコトないと思うが、そーゆー撮り方なんだから仕方ないじゃない。
要するに観光名所撮ってぇ美ら海撮ってぇ、みたいな感じじゃ全く無い。
普通あんま撮らない沖縄のうらぶれた生活空間ばっか切り取って、しかもソコにいんのはチンピラとヤクザと笑顔がコワイ人ばっかってな具合。
ワケあって白塗りのお巡りさんが奇声を上げながら人をバンバン撃ち殺してくが、この映画の沖縄はそういう場所なんである。
ファンタスティックなラブコメかと思ったが、それホラーだろ!
いやむしろダニー・ボイルとか初期北野映画とか…
そんな調子なんでホンワカした感じとかほとんど無く、予告編と松山ケンイチ、そして沖縄とゆーキーワードから泣きと癒しを想像した方々は大いに裏切られ、冒頭みたいな感想を垂れるハメになったとゆー次第(残念だったな!)
泣きと癒しとゆーか、コレはむしろダニー・ボイルの作風にかなり近い、シャープでシュール、んでちょっと刺々しいコメディだナ。
とくに画作りなんてそんな感じでさ、スタイリッシュで遊び心に溢れてて、シーンごとに色調変えたりちょっとボカしてみたりしてコロコロとルック変えんだよ。
で手持ちカメラとか多用して、座って話してるだけのシーンでもフラフラーっと画を漂わせたりして。
松山ケンイチがアーケードのうらぶれた裏路地を激走するシーンとか、それで荒々しく追うんワケです。
矢継ぎ早にポンポンポーンて短いカット差し挟んだりする切れ味鋭い編集、とても疾走感アリ。
こーゆー諸々がボイル感あって、まったくもって邦画離れしたカッチョよさなのだ。
しかしそう書くとなんやポップでハイテンションな感じあるが、暴力描写なんかわりと容赦なく、指がちょん切れるトコとか見せたりする。
ギャグでやってる風でもなく、色々遊んでるワリには抑揚のあんま無い展開も含めて、なんだかとてもドライというか、北野映画的な殺気すら漂う。
ソコに毒の効いたユーモアが乗るんで、もう笑うに笑えない。
泣きと癒しのホンワカ映画かと思ったらダニー・ボイルのスタイリッシュな世界で、かと思えばいつの間にか『ソナチネ』(1993)になっていた!
…という驚愕の映画が『天の茶助』なのだった。
製作にオフィス北野が噛んでるが、ガッテンボタン連打である。
楽しい映画でございました、はい
…なんかネガキャンみたいになったが、楽しいトコもいっぱいあるよ!
天国のシナリオライターは日々面白いシナリオ書こう面白いシナリオ書こうと頑張ってるんで、面白いは面白いが数奇すぎてワケわからん人生を歩むハメになった人たちがやたら出てくんのよ。
「彼は恋人を抱きしめながらロクロを回し、その後恋人と同乗した豪華客船は氷山にぶつかり沈没し…」みたいなヤツとか出てきて何事かと思うが、コレいい加減ネタ切れになったシナリオライターが映画のシナリオをパクってきてるってなワケ。
そんな具合に色んな映画のオマージュだかパロディだかがたくさん出てきたりして、コレ、笑えます。愉快愉快。
マァ沖縄の伝統芸能もいっぱい観れますしですね、殺気立った演出に反してハナシは優しい寓話でですね、楽しい人たちがいっぱい出てきて、で最後はお祭りワッショイからの穏やかなハッピーエンドと。
なんでしょね、なんかこう沖縄のダルな空気とエイサーの熱狂の入り混じった、でも洗練されてるっつーとても味わい深い映画だなコレは。
映画館出て、あぁイイ映画観たなっていう、そういう余韻ありましたよ。
俺はコレ、かなり好き。
…しかしアレだな、業を煮やしたシナリオライターがメチャクチャな脚本書いたりするって、SABU自身の経験かなぁ。
いや作りは全然違うんだけどさ、オフィス北野繋がりで『監督・ばんざい!』(2007)とかって映画あったじゃん。北野武が脚本書けなくなって壊れてくって映画。
あーゆー感じで、なんやメタ映画的というか、内省的な感じもある。
ま実際どうか知らんが、イイ脚本書けなくて悩んでる監督の心境を勝手に汲み取るとさぁ、そうねぇ、あのラストシーンが一層心に沁みますわねぇ。
【ママー!これ買ってー!】
しかし考えてみれば『ソナチネ』より『3-4X10月』(1990)の方が『天の茶助』のテイストに近いのだった。
コレも殺気漂う沖縄コメディなんで、見比べてみんのも一興。