どうでもいいんだけど、『ゾンビランド』(2009)。
あの映画ホントに薄味でさぁ、怖くもないし笑えもしないタイクツな映画だなぁと思って観てたんだけど、ビル・マーレイが本人役で少し出てくるじゃないすか。
アレ、ズルいよな。ゾンビいっぱいで壊滅状態の合衆国にいつもの仏頂面で佇むビル・マーレイ。そんなん笑うよ。
『ゾンビランド』面白いっちゅー友人にどこが面白いか聞いたら第一声が「ビル・マーレイが…」だったが、なんだかハンパない虚脱感に襲われてしまった。
いかに脚本に知恵を絞ろうが演出に様々な趣向を凝らそうが(そんな映画でもないけど)、結局ビル・マーレイがただ立ってることの面白さには叶わなかったのだ…。
んな存在自体になにか不条理を感じるビル・マーレイの『ヴィンセントが教えてくれたこと』、観てきた。
以下あらすじ。
ヴィンセント(ビル・マーレイ)は偏屈なダメ人間。
仕事もせんと酒やってギャンブルやって万引きやって、腹ボテの娼婦を買ってはツケで済まそうとするしょうもない日々を送っていた。
隣にシングルマザーの母子が越して来たのはそんなある日のこと。
持ち前の偏屈と減らず口で引越し早々に溝を作るヴィンセントだったが、ひょんなことからその息子・オリバーのベビーシッターを勤めることになり…。
アレだな、コレどっかで観たなと思ったらさ、『菊次郎の夏』(1999)だ。
ベビーシッターちゅーてもヴィンセントはマジメにオリバーくんの面倒見るつもりないんで、バー連れてって酒飲ませて、ベルモントパーク競馬場行ってオリバーくんの小遣いかすめ取ったりすんだけど、『菊次郎の夏』でたけしがやってたのも同じコトだよな。その後の展開も似たような道筋を辿る。
足立区のたけしに対して『ヴィンセント~』の方は舞台がブロンクス。なんか下町っぽい脚本書こうとアタマん中で下町感追求してたら似てきたんじゃなかろか。
『菊次郎の夏』と比べると『ヴィンセント~』はもう一展開あるとゆーか、たけしの諦観に対していかにもアメリカっぽい価値観が顔を出すが、そのあたり見比べるとオモロイかもしんない。
それはさておき、下町映画らしく出てくんのがうらぶれた人ばっかでグっときた。
オリバーくんの母親のメリッサ・マッカーシーとか実にイイ感じなんだよ。この華の無さと全身から滲み出る生活臭!
ヴィンセントから「アンタ口臭いんだよ!」とか言われるんすけど、あぁ確かに口臭そうだなって思ったもんな。
いやだから何だと言われそうだが、そこに生活のリアリティがあんだよ!
ほんで腹ボテ娼婦がナオミ・ワッツ。相変わらずこの人は安い役やると映える。
動作なんてものっそい荒っぽくてさ、重たい体を一切労わるコトなく怒りと不満たぎらせてズケズケ歩く、ギャーギャー怒鳴る。
自販機叩いて中のお菓子パクったり、寂れたストリップクラブでダルそうに踊ったりしてちょっと泣けてきてしまう。
しかもそのダンスをただ一人観てんのが仏頂面のビル・マーレイなんだから!
とにかく出てくるヤツ出てくるヤツみんな生活に疲れてる貧乏人なんで、全然笑ったりしない。
んな大人たちに囲まれてオリバーくんも終始仏頂面であるが、その仏頂面世界の中心がビル・マーレイのヴィンセントなんであった。
で、彼の仏頂面が人々の疲労を少しずつ癒して笑顔にしてくんである。
なんつーか、ビル・マーレイ超適役。
シリアスになるコトなくリアルなうらぶれ感出して、クサくもウソくさくもならんで救済の物語を語れんのもビル・マーレイのオカゲだろうコレは。
物語はやがて悲劇的な相貌も見せ始めるが、なにがあろうとビル・マーレイの仏頂面が悲哀とユーモアを滲ませつつ場を中和すんである。
この人の消臭剤的特性の最大限発揮された映画じゃなかろか。
そういえばビル・マーレイ出てるせいもあんだろうけど、ウェス・アンダーソン映画っぽい感じもあったな。
ユダヤ教徒で頭がよくて、やたら醒めてて友達のいないオリバーくんのキャラクターとかいかにもだし、エンドロールでビル・マーレイがボブ・ディランを適当に歌うシーンが流れ続けんですが(コレがサイコー!)、同じようなのウェス・アンダーソンの『ライフ・アクアティック』(2005)でもあったし。
たけしとかウェス・アンダーソンとか、オフビートな映画ばっか連想されんな。
つっても『ヴィンセント~』自体はそんなオフビートな感じなく、ちゃんとメリハリ効いた普通の映画になってんのだった。
いいじゃないすか、ダメ中年と醒めた少年の交流。ベタかもしれんが、こーゆーのマジ素晴しいぜ。
一緒に競馬行って一緒に酒呑んで、一緒にテレビでローレル&ハーディの映画観て、一緒にイジメっ子撃退のタメにバカげた必殺技を練習する。
それだけでもだいぶ涙腺にクるもんあるが、原題の『St.VINCENT』通りのラストにもうわんわん泣いたね。
大したコトじゃないんだよ。すげーささやかなラストなんだけど、それが泣けんだよなぁ。
アレだ、ささやかな映画だな。日常生活の中のささやかなユーモアとか感動とか大事にして、んでそーゆーの観客に押し付けたりしない。
『アメリカン・ハッスル』(2013)でのジェニファー・ローレンスもかくやのナオミ・ワッツのお掃除シーンとか、どうでもいいようなトコがいちいち面白い。
んで上にも書いたけどさ、ナオミ・ワッツが自販機叩いて出てきたお菓子パクってオリバーくんにそのやりかた教えるシーンがあんのよ。
で、映画の後半でオリバーくんが同じようにしてお菓子を入手すんだけど、その後でオリバーくんはちゃんと自販機にお金入れんです。
コレ本当にちょっとしたシーンなんだけど、そーゆー風にごくささやかに心情の変化とか描くあたりもすげーイイよなぁ。
こないださ、ちょっと話題になったじゃないすか。どっかの図書館の「学校行きたくないならウチに来ていいよ、誰も気にしないよ」みたいなツイート。
アレ、俺はすげーイイ話だなと思ったんすよ。
なんつーか、手を差し伸べるコトだけが救いじゃないよな。黙って静かに見守ってやるコトとか、お互いに不干渉だけどとりあえず色んな人がいて、色んな世界に繋がってる空間に身を置かせてもらうコトだって救いなったりするじゃないすか。
俺は不真面目なんで図書館なんて行かんと、ティーンの頃は映画館とかビデオ屋ばっか行ってたんすけど、それでやっぱ救われるトコありましたよ。
なんかさ、この映画で描かれてんのってそーゆーコトじゃねぇかな。
ある種の人間にとっちゃすげー救いになる映画ですよ。
しかしイイ映画なんだけど、なんとなく引っかかる部分もあったりした。
オリバーくんはユダヤ教徒を自認してんですが、ミッションスクールに転校してくるワケです。
んで教師に自己紹介促されんですが、そこで何言っていいか分かんないでいると教師に耳打ちされんの。
「神に祈りなさい」「アーメンと言いなさい」
ってな感じに。コレ、教師が「このクラスには仏教徒もイスラム教徒もいるよ!」って言った後の発言なんです。
面白いっすねぇ、ちょっとしたブラックユーモア。
いやそれはいいんだけど、まぁ最終的には『St.VINCENT』じゃないすか。
なんとなくその無邪気さというか、無神経さというか、なんかそーゆーの気になるんだよ、なんか。
だってさぁ、そのまんまの意味じゃないとしてもさぁ、聖人になるってコトはお偉いさんに認めてもらうってコトでしょ。
えぇと、ネタバレにならんように書くと、ヴィンセントは「聖人」にしてもらうんですが、その後ろに例の教師がいて、ニカって笑うカットが入んの。
でもこの教師ほとんどハナシに絡んで来ないんですよ。絡んで来ないんだけど、ヴィンセントが救われましたよってゆーこのシーンの中だけ入ってくる。
色んな人種出てきて、「このクラスには仏教徒もイスラム教徒もいるよ!」っていうぐらいだから、ポリコレ配慮してますよみたいなポーズは取ってんすよ。
でも結局ソレなの? みたいな。結局そうしなきゃ救われないんかね、みたいな。
なんかさぁ、コレ逆にイヤラシイよな。
いや俺そのシーンでわんわん泣いてるんだけど。
つか、その物言いって言いがかりじゃね? と自分でも思うけれども。
アレかな、ヴィンセントに感化されて俺まで偏屈になってんのかな…。
ついでに言うと、やたら登場人物が多くて色んな人間模様が描かれる映画だが、なにやら中途半端な感もあんのだった。
結構重要そうなキャラクターがいつのまにか消えてたり、お前誰? みたいのが急に出てきたり、細かい生活の諸相をちゃんと描くワリには大枠の物語が結構あやふやで大雑把になってたり、みたいな感じ。
ちょっと散漫とも言えっかもしんない。俺はストーリーに軸の通ってないような散漫な映画が好きなんで、そのあたり全くマイナスにならんかったけど。
まぁしかし、んな些細なコトはどーでもよろしいか。
ビル・マーレイの仏頂面よろしく「どーぞご勝手に」ってな具合。
そんなねぇ、怒るような映画でも大げさに褒め称えるような映画でもないよな。
なんとなく観てなんとなく感動して、あー気持ちよかったって映画だよ。
イイ映画じゃん。いやイイ映画だよ、コレ。
なんだかんだゆーて、俺この映画大好きだなぁ。
【ママー!これ買ってー!】
コレのどかで愉快なイイ映画だけどさぁ、なんかそれまでの北野映画に比べてあからさまに作りが下手になってるような。
後半、井出らっきょとグレート義太夫が延々ギャグをかますが、夏の映画なのに寒い気がしないでもない…。
でもラストがとても沁みたんでどうでもいいや。
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