『エール!』ってぇとヤングアダルト小説のタイトルみたいだが、もうちょっと視野の広い感じの映画だったなぁ。
そして一緒に誰かと観たらアレコレ語り合いたいが、こんなしょーもないトコでブツブツとあんま感想垂れたくない感じの映画でもある。
あとはアレか、まぁなんつーか、フランスと日本のお国柄の違いを実に痛感する映画でもあるが、そのあたりどう痛感すんのかはご覧になってご確認くださいって感じ。
こんな素敵な映画をダシに、あんまネガティブなコト書きたくないのだ俺は。
ってコトで『エール!』観てきたんで感想書く。
こんなあらすじ。
フランスの田舎町に酪農を営む聾唖の一家がおった。
一家の長女は唯一耳も聞こえるし言葉も話せる人。ってコトで通訳やったり牛の世話したりして家族を手助けしてる彼女だったが、自身はなんとなく冴えない高校生活を送ってんのだった。
彼女がイケメンを追いかけて入部したコーラス部で音楽の才能を見出されたのはそんなある日のコト。
歌手の夢を追いかけてパリの音楽校に進学するか、それとも田舎に残って家族と共に生きるか、はてどうしようかいな…。
ほんでね、コレ色彩とか美術とか面白いんだ。
最初、青みがかった夜の農場の俯瞰から始まるが、その質感に一瞬CGアニメかと思った(例によって内容知らずに観た)
壁とか床を淡い色合いで塗って、ソレを下地に色んな色のカーテンとかインテリアを配置してんだけど、そーゆーのに陰を作らないフラットな照明当ててるからちょっと現実離れして見える。
そのインテリアってのもかなり遊んでて、もう食卓に置かれた色とりどりの食器やなんや見てるだけで楽しい。
花瓶や工芸品が至るところに置かれた賑やかな主人公の家、ピアノや絵画がポツポツと配置されたシックな音楽教師の家だとか、シーンごとにメリハリ付いてたりもしてイイし、中でも学校の体育館(いや、ホールかな)、ココなんか素晴しいな。
床がうぐいす、壁はクリームで、カーテンはダークブルー。その色が画面いっぱいに広がる中にコーラス部の生徒たちが座る椅子が何十脚か置かれてんだけど、クッションが白、背もたれは黒のピアノ配色。
で、入口のドアは三つあって、その覗き窓からオレンジとブルーの廊下の照明が差し込んでるって画をシンメトリックに切り取ったりするって具合なのだ。
なんかフランドル絵画の世界みたい!
所狭しとチーズが並ぶ主人公の家のチーズ貯蔵庫とか、絵画的な構図を作ろうとしてやたらと手前に花やフルーツバスケットを置こうとするあたり明らかにやりすぎだと思うが、でもオモロイな、こーゆーの。目の保養にもなるし。
なんとなくオトナも観れる絵本っていうか、こ-ゆーバンド・デ・シネありそうだなーって感じもある。
つか俺、ストーリーとかも含めてバンド・デ・シネ原作の映画かと思ってましたよ。
んでコレ一応聾唖の家族とその家で唯一言葉を話せる女の子のハナシなんですが、結構トピック散らばってて、パパの村長選立候補エピソード、女の子の恋と音楽の夢の行方のエピソード、ヤリたいざかりの弟の性春エピソード、なんや色々辛い人生歩んできたよーな音楽講師のエピソード、ってな具合にちょっとした群像劇になってたりした。
画作り同様にハナシの方もあんま生活感とか重々しい感じなく、軽いユーモアを交えて色んなエピソード重ね合わせつつパッパパッパと軽快に進む。
上手い作りだなぁ。いやまったく愉快愉快。
愉快っつーとキャラクターも愉快でさ、寡黙でべらんめぇ調のパパと快活で派手派手しいママのコンビが既に笑えるが、聾唖を武器に女の子をオトす弟とか、軽薄で軽くリトルグレイっぽい主人公の親友とか、それになにより主人公の絶妙なポッチャリ少女具合がサイコー。
このルアンヌ・エメラとかいう人、オーディション番組で勝ち抜いて歌手デビューした人らしいが、俺はそんな歌が上手いとは思わなかった。
でもいつもちょっと口開けてるみたいなヌボーっとした存在感がイイし、その人がキレイな歌声を発するギャップってのグっとくるよね。
あとアレだな、音楽教師のキャラクターが小奇麗なゲンズブールって感じで、コレもオモロイのだ。
ところでハナシ散らばってるくせにランタイム二時間無いんで全部中途半端なトコで終わるが、「ソコで終わんの!?」と思わせといてエンドロールでちゃーんとそれぞれの結末が描かれてるからご安心なのだった。
ははは、茶目っ気たっぷりの気の利いた仕掛けだなぁ。
そうそう、茶目っ気たっぷりの映画だ。
愛すべき小品ってたぶんこーゆー映画だ。
知らんけど、こーゆーのエスプリっちゅーんだろか。
まぁどうでもいいか。
くどくど言うべき映画ではない。
とにかく、幸せで元気になるイイ映画だったな、コレ。
【ママー!これ買ってー!】
それにしても手話の種類とか知らないが、『エール!』で聾唖の一家が使用する手話はとってもアクティブかつ感情的で見てて面白いのだ。
こんな手話ならカッチョイイし、クラブとかライブハウスでちょっとした会話する時に便利そうなので、意外と覚えといたら役に立つかもしんない。
手話できるって言ったら、きっとキャバクラのおねーちゃんにも羨ましがられるぞ!
なんてコトとはあんま関係ないが、『音のない世界で』はフレンチ・ドキュメンタリーの名匠ニコラ・フィリベールの手話映画。
この人のドキュメンタリーは毎回ただダラダラとカメラ回してるだけで、そののんびりと弛緩した時間が実に心地よいが、なんや叙情豊かで滋味深い感じもあっからまったく素晴しいのだ(そういやコレもフランスの田舎の話である)