レオナール・フジタの伝記映画『FOUJITA』観たんでボヤボヤと感想書く

藤田嗣治の絵は結構前に渋谷あたりの美術館で見た気がする。
なんか近づき難い質感の絵だなぁってな印象。あんま好きな絵じゃない。藤田嗣治じゃなくてレオナール・フジタ(フランスに帰化した後の名前)で覚えてた。
そんぐらいのアバウトなフジタ知識しかないオレではあるが、『FOUJITA』はフジタの伝記とゆーよりいつもの小栗康平の映画だったので、むしろ好都合。
逆にフジタマニアが観たら「足りねー! 超ものたりねー!」な映画なんじゃなかろかほい。

ってなワケでレオナール・フジタの伝記っぽい映画『FOUJITA』観て来たんでアバウトに感想書く。

あらすじ

第一次世界大戦後のパリ・モンパルナス。
パリの画壇で大成功を収め、ゲージツなんてなんもワカランそこらの下町のジジィババァにさえ「あ、フジタだ! サイン貰えば良かった!」的な大人気を博していたフジタだったが、なんや思うところあったのか日本に帰ってくることになる。
それまでの豪勢な生活を捨てて田舎に引っ込み、陸軍の要請を受けて戦争画を手掛けたりするフジタであったが…。

100%小栗康平の映画なのだ

http://www.fashion-press.net
http://www.fashion-press.net フジタの映画ですが、画はいつもの小栗康平です。キレイです。

それにしてもフジタ役がオダギリジョーだったが、オレのなんとなくのイメージだとフジタはもっと気持ち悪い系の人間だったりする。
具体的には塚本晋也とか坂本龍一。坂本龍一なんて最近丸めがねにチョビ髭とゆーフジタ風(あるいは大江健三郎風)ルックなんで、ピッタシじゃんかと思う。
小栗康平は昔っから俳優さんの演技にあんま興味が無いとゆーか、徹底的に感情を排した棒読み演技をさせる人だから、それならいっそのことオダギリジョーみたいな演技できるっぽい人じゃなくて本職の俳優じゃない人連れてきた方が面白かった気がしないでもない。

フジタの三番目のカミさんが中谷美紀。これすげー良かった。化け猫みたいで。
つってもそれにしたって『死の棘』(1990)からなにからいつもの小栗康平的ヒロイン(とは言わないか)なワケで、毎度毎度この人の映画に出てくる女の人はたおやかでありながらミステリアス、柔和な笑顔がなにやら妖気を放つとゆー、なんかそんな感じなんであった。
中谷美紀の妖艶、オダギリジョーはカッチョ良い。でも演技どうこうというより、とにかくいつもの小栗康平映画なのだ。

いつもの小栗康平映画なので、「木」の香りの強烈なやたら暗いセット、柔らかい自然光の多用、演劇的とゆーか歌舞伎みたいな空間造形と、絶対にカメラが動かない真正面からのフィックス(固定)&フルショットの構図…ってなんかそんな感じであった(ただし、ちょっとだけカメラが動く場面はある)
相変わらずキレイだなぁ…とは思う。とくに後半、フジタが日本の田舎に引っ込んでからの画がスバラシイ。
暗い家屋で火鉢を囲むオダギリと中谷をカメラがシンメトリックに捉え、その中央に外の青々輝く木々の背景を置いたりする。
明暗の対比と配色のバランスにすげー気が配ってあって、一枚画として完璧。

実はフランスでロケした前半はこーゆー小栗康平っぽい凝りまくった画はあんま出てこない。
この人はたぶん引き出しの多い人じゃないんで、やっぱ慣れないおフランスでのロケとか、日本家屋のサイズ感とか構造の違うおフランスの建物のセットちゅーのは感覚的に合わないもんあったんじゃなかろか。

小栗康平の映画には田舎の日本家屋がとにかく毎回毎回出てくる。
この映画、後半の日本編になると俄然画に力が出てくるが、フジタ自身も日本に戻って画の本懐を遂げる(とゆー展開にこの映画の中ではなる)
映画の中で小栗康平とフジタがダブり、なかなかオモロイ作り。

色と明暗と音が楽しい映画なのだ

http://2015.tiff-jp.net
http://2015.tiff-jp.net 暗すぎるモンパルナスのアトリエ。外に出れば明るい陽光が煌いてんですが、フジタは夜の真っ暗なモンパルナスにしか出て行こうとしない。

それにしても、とにかく暗い映画であった。いやハナシがじゃなくて、画が。
そらまぁ小栗康平の映画はいつも画が暗いが、なんぼなんでもモンパルナスの夜をこーんな暗く捉えるとは思わなかったぞ。
もう、ホントに暗い。真っ暗な中にたった一つ酒場のネオンだけがポツンと寂しく輝いてる、そんな感じ。
モンパルナスってこんな暗かったのか…いや実際どーか知らんが、例の「乳白色」以前、フジタもかように暗いパリの風景画を描いてたらしい(見たコトないが、劇中のセリフにそうあった)

近づき難い近づき難いゆーてるが、オレがフジタの画にそう感じんのはそのあたりが所以かもしれん。
FOUFOU、フランス語でお調子者(らしい)。フジタはそう呼ばれてパリの大人気者になったが、この人はそんな自分を必死で演じてたのだった。
道化の仮面と美しい乳白色で武装してるが、その実いつも心には夜のモンパルナスの暗い、孤独な風景があったのだ…かどうかは知らないが、それがこの映画の中でのフジタ像なのだった。なるほど。

フジタ=乳白色だとオレは思ってたが、その乳白色が全然出てこない、いつもの小栗康平的色彩だったんでこれまた驚いた。
でも肝心なトコでちゃんと乳白色。どこで出てくるか言わないが、とても美しい場面ではあった。
(映画の中の)フジタはそこで自分の中の乳白色を見出す。いままで彼が使っていた乳白色はパリで売れるための武器だったが、この乳白色は違う。これこそオレ(フジタ)が求めていた乳白色! これこそ、救いなのだ!
なんか、そんな感じで感動的なのだった。

あぁそうそう、画家の映画ですが、個人的にグっと来たのは「声」だったりした。
例の棒読みセリフの応酬、コレがね、ホント棒読みなんだけどなんか民謡みたいな感じでイイんすよ。
片方がセリフを読む。一言一言丁寧に発声して、ゆっくりと間を取る。それをしっかり受けて、一定の間隔を空けて相手は応答する。
そのリズムが歌ってるみたいに聞こえるってなワケで、コレすげー気持ちよかったな、なんか。

フジタが何者かよく分からないあたり、フジタの伝記映画の証なのだ?

http://woman.infoseek.co.jp
http://woman.infoseek.co.jp 「フジタって何考えてんだかよく分からないナァ」とゆーコトを正直に描いた映画なのです。

ところで最初にも書いたが、コレ小栗康平の映画としてはいつもの小栗康平なんですげー楽しめるが、フジタの伝記と言われるとどーかという、そんな映画なのだ。
なんせフジタの人生の大事なトコ、ドラマチックなトコを全部省いてまう。フジタの来歴、パリでの苦しい日々と栄光の獲得、日本に帰ってからのフジタの足取り、軍部との関係…そーゆーのは基本出てこないか、あってもほんの一瞬だったりする。

フジタとかよく知らないんでウィキっちゃったが、第二次世界大戦終結後、フジタは再びパリに戻り、レオナール・フジタという洗礼名はそこで貰ったもんらしい。
映画は物凄い唐突に、フジタの心境を幻想的な映像でイメージさせたところで終わったりするが(いつもの小栗康平的手法)、「いやいや、そこで終わるなよ! その後が大事だろ!」と怒りだす真面目な人もいそうな感じである(それも含めて、いつもの小栗康平…ではある)

これでも小栗康平の映画にしてはだいぶ説明してる気がするが、ゆーてもカトリックとフジタの関係はもっと描いても良かったのに、と思う。
唐突に終わった後、スタッフロールでフジタの大作壁画(イエスの磔刑を描いたヤツで、その観衆の中にフジタの自画像が描き込まれている)が画面に映し出される。
なにかフジタの魂の救済を暗示してるようではあるが、説明とかしない。

勝手に考えろってコトか。壁画の他にフジタの絵は何点か出てくるが、カメラはただボーっと眺めるだけ。
フジタの絵は何度見ても「近づき難いなぁ…」と思うが、この映画も観てる人を突き放す感じある。
でもって、フジタの内面にもあんま立ち入ろうとしない。カメラはただただフジタを外から眺めるばかり。

かように強固に抑制された小栗全開の映画作りは、それはそれで(少なくともオレには)フジタのあの近づき難い絵を感じさせる気がしないでもない。
フジタを深く描かないコトで却ってフジタに肉薄したようなしてないような、なんかそんな感じあるオモロイ映画だったなぁ。

(文・さわだきんたま)

【ママー!これ買ってー!】


モンパルナスの灯 Blu-ray

フジタと同時期にモンパルナスで活動していた(そして親交もあった)画家・モディリアーニの映画。モディリアーニの絵は『FOUJITA』にも出てくる。

モディリアーニ役は貴公子ジェラール・フィリップ。とゆーとキラキラしてそーな気がするが、コレはコレでモンパルナスの暗さを叩きつける作風だったりする。
とにかく、売れない。売れないからモディリアーニ=ジェラール・フィリップはどんどん荒んでって、最後は失意のウチに死んでしまう。
「僕の絵を買ってください…」と物乞いみたいに金持ちレストランをうろつくモディリアーニ、演じるのがあのジェラール・フィリップだけに見てられない辛さある(もちろん、モディリアーニの絵がいかにスバラシイか観てるコッチはよく知ってるからってのもある)

ジェラール・フィリップもいいが、冷徹な画商を演じたリノ・ヴァンチュラがとにかく良かった。
実質この人に見捨てられてモディリアーニは破滅してくが、しかしリノ・ヴェンチュラ、本当は誰よりもモディリアーニの絵の価値を分かってたんである。
だからこそ彼の絵を安く買うために見殺しにしたようにも見え、反面でどんなにモディリアーニの絵が素晴しかろうと世間にゃその価値は分からんだろうと諦めきってるようにも見える。
モディリアーニがくたばった後、その家を訪れて「この絵もくれ! これもだ! 全部よこせ!」と叫ぶリノ・ヴェンチュラの表情にはなんやとても複雑なもんがあり、コレが絶品の芝居なんであった。

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