《推定睡眠時間:0分》
コンビニ夜勤のときに若い女の人が店内に駆け込んできて、なにかと聞けば知らない男に追われているとのこと。
なるほどコンビニにはそんな機能もある。するとこんな時のために俺はいるんだろう。冴えないコンビニ夜勤の人生も無意味ではなかった。
分かりました、私が追い払いますからお客様は店内でお待ち下さい、なにかあればすぐに警察を。そう言って俺は外に出て、それから…。
…などと妄想している間に女の人はさっさと帰ってしまったのでその後はいつもと同じつまらん仕事を淡々とこなし、いつものよーにあくびをしながら家に帰って一人で寝るのだった。とりあえず男は去ったので彼女の方も無事に家に帰れたらしい。
良かった良かった、今日も平和、今日も平和…いや良かったのか。果たしてこれで良かったのか。ヒーローになれるチャンスだったんじゃないのか…つまらない人生がほんの一瞬でも輝くチャンスだったんじゃないのか!
『ヒーローマニア 生活』はつまりそのよーなコンビニ店員が変態スパイダー仮面たるニートの助けを得てヒーローになろうとする映画なのだった!
あっはっは! しかしこれはきっとボロカスに言う人もいるだろなぁ! いやぁ、時期が悪いよ時期が! だってシネコンだったら隣のスクリーンで『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』やってんだもん! あぁハリウッドのヒーロー映画はスゴイなぁって思うでしょみんな!
ほんで隣の隣のスクリーンでは『アイアムアヒーロー』やってるわけですよ! 日本映画でもここまで本格的でスケールの大きなゾンビ映画できるんだなぁって思うでしょみんな! 隣の隣のスクリーンじゃ『ちはやふる』だ! 隣の隣の隣じゃテラフォー…いやそれは言わなかったことにしよう! なにも無かった!
『ヒーローマニア』はヒーロー映画ゆーても『シビル・ウォー』みたいな超大作じゃないのだ。うだつの上がらないダメな三十路男が頑張ってヒーローになるとゆーても『アイアムアヒーロー』みたいなガチい映画でもない。かといって『ちはやふる』みたいなキラキラももちろんありはしないのだ!
だって片岡鶴太郎と船越英一郎のヒーロー映画だもん! 片岡鶴太郎と広瀬すずだったらお前らみんな広瀬すず見るだろ! 船越英一郎とクリス・エヴァンスだったらお前らみんなクリス・エヴァンス見るだろ! あ、こっちにも東出昌大と窪田正孝と小松菜奈がいた! いたが、いたところでコンビニバイトとかニートとかホームレスとかアレな人ばっか出てくる映画だからなこれ! バットマンとスーパーマンぐらいのパワー格差だろこんなの!
そんなワケで相対的に損なポジションにある気がするが、でも面白かったよ俺は! なんだ、この面白さはなんと表現すればいいだろう! そうねヒーロー映画だからバットマン的に考えるか! 例えるなら『シビル・ウォー』はクリストファー・ノーラン版のバットマン! 『ダークナイト』(2008)だ! そして『アイムアヒーロー』は『バットマン・ビギンズ』(2005)! ならば『ヒーローマニア』はティム・バートン版…ではなくジョエル・シューマカー版! 『バットマン・フォーエバー』(1995)とかだ!
もう分かるなだいたい! 分からないヤツは黙ってNetflixかなんかで『バットマン・フォーエバー』か『Mrフリーズの逆襲』(1997)観ろ! そういうことだッ!
しかしこれはアレだな、前に友達に勧められて原作読んでるんで福満のアレがこーなるのかいなとそこが面白かったりしたなぁ。
いや、だって原作の『生活』ってほら、福満しげゆきの漫画だからうだつの上がらない凡人の日常生活のお話じゃないすか。あぁ今日も日本は平和だなぁ…でもなんだか最近おかしな事件が増えてる気がするなぁ…なんとなく怖いな、なんとなくくさくさするな、なんとなく、知らんけど、平和だけど…みたいな庶民感覚の。
それが映画だとだね…舞台ゴッサムシティになってたね。ゴッサムシティだよ。だってホームレスと飲んだくれと不良とおかしくなっちゃった人しか住んでなくて夜になるとサーチライトが街を照らしてるもん…日常どころじゃないだろこれ! なんでそーなったんだよ!
いや、だからそれが面白くて仕方がなかったんだよな皮肉じゃなしに。コンビニバイトとニートのコンビがちょっとした出来心と勇気でもってショボ犯罪者を懲らしめたところこれが意外や大反響、日常の延長線上にあったはずのヒーローごっこが呼び水になって徐々に日常が変貌してく、やがて本当の悪と狂気を呼び覚ましてしまう、それでコンビニバイトの主人公が俺はもうついてけないよ、普段通りの平凡な生活を返してくれよと鬱々とするあたりが面白かったんすよ『生活』って。その凡人リアリズムが。
それがもう、映画だとしょっぱなからゴッサムシティでしょ。ほんでやってることはだいたい原作通りとはいえ派手なアクション演出満載になってるわけでしょ。これは面白いよね。いや繰り返しますが皮肉じゃなくて! こんぐらい変な(狙った)解釈してくれた方が面白いの俺には! 『テラフォーマーズ』だって冒頭の『ブレードランナー』パロディ(1984)の時点で俺にはオールオッケーだったんだよ!
コンビニバイトの東出昌大なんてサイコーじゃないすか! あの、情けない眉! 情けない声! 窪田正孝の動きのキレと対人恐怖症っぷりも『変態仮面』の鈴木亮平どころじゃない異形ヒーローで素晴しい! 船越英一郎だって(『盲獣』(1969)とか『怪談蚊食鳥』(1961)の!)船越英二の息子であることがよく分かる怪演! そして片岡鶴太郎はいつもの片岡鶴太郎だ! 面白いじゃないか!
それになにより小松菜奈のお下げデカメガネ&セーラー服&ジャージ姿が拝める映画が他にありますかと! 先生みんなに聞いてるんですよ! ありますか! ありませんか! たぶん無いでしょうが! 美脚も! あの金色に輝かんばかりのおみ足も! ええ!? 堪らんでしょうが!
福満の描く女キャラはやたらエロ可愛い…そこだけは原作精神に忠実なのだ『ヒーローマニア』は!
…と言いつつこれはやっぱり『バットマン・フォーエバー』であって、面白いは面白いが俺はやっぱり『バットマン・リターンズ』とか『ダークナイト』の方が好きだなぁとも思ったりする。果たしてこれでええんだろか。
いやまぁ片岡鶴太郎が金槌でバンバン人殴るくせに一滴も血が飛ばないとかは別にいいとして、凡人過ぎてむしろアウトサイダーになってしまった人が福満なんだから感覚的にはティム・バートン版のバットマンに近いんじゃないか、するとこの映画も陽性の『バットマン・フォーエバー』ではなく巨視的な『ダークナイト』でもなく陰性で私的にして微視的な『バットマン・リターンズ』であった方が良かったんじゃないかと思う。
結局、冴えない生活者の観点がゴッソリ抜けてしまってる気がするんで無茶な展開ばかりが目立つよーな気がし、それでまた『生活』に半ば無意識的にあったと思われる鋭い風刺のよーなものも消えてイイ人と悪い人が戦うだけのお話に見えちゃう気もすんのだ。
いや福満漫画が東出昌大主演で映画化の段階で既に面白いんでもうなんでもいいが、しかしあの『生活』がなんでこうなったんだろう。
古今東西ヒーローには必殺技が付き物ですが、その答えになってくれそうな必殺技があった。ラディカル格闘漫画『喧嘩商売』の木多康昭がそのタイトルを地で行く漫画家人生の中で考案したあまりに哀しくそして連載打ち切りに追い込むほど強力な必殺技、「必殺・大人の事情」である。
…みんなこれ使い過ぎて最近『ドラゴンボール』ばりにパワーインフレを起してる気がするのでもう一子相伝にしといてお願い。
(文・さわだきんたま)
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同じよーなストーリーだなこれは…。
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