今年の日本映画は底辺ものが強いと感じ『アイ・アム・ア・ヒーロー』『ヒメアノ~ル』『ディストラクション・ベイビーズ』とまぁそんなところで個人的邦画年間ベスト底辺候補『怒り』に続くわけですが海を越え国境を越え鬱屈爆発『イレヴン・ミニッツ』、更にはスーパー警備員(※すごくつよい警備員ではなくスーパーに勤務する警備員です)映画『ティエリー・トグルドーの憂鬱』を間に挟んで見たりするとなんて生き辛い世の中! 世界的に! と思わずにはいられない。
で『怒り』と『イレヴン・ミニッツ』でありますが、どちらも拡張性の非常に高い群像劇。色んな事件、色んな人が出てくるがその内実には踏み込まないという意味で新聞記事をひたすらスクラップしたような作りも同じ。あるいは一つの悲劇が別の悲劇を誘発、悲劇の連鎖の中で不満と不安が充満していくというあたりも。
これは相互乗り入れ可能な同じ現象の別の面とすることができるわけで、『怒り』と『イレヴン・ミニッツ』を、あるいはそこに『SHARING』を加えたところで、『ヒメアノ~ル』を加えたところで、『ディストラクション・ベイビーズ』を加えてMADにしたところで容易に成立してしまう。
そういうところがおもしろい二本のかんそうです。
『イレヴン・ミニッツ』
《推定睡眠時間:3分》
イレヴンの文字に911がこだまするので、あの最後に出てくる監視カメラのあれをポスト911の表象としてそっから連鎖的に発想してあれした映画がたぶん『イレヴン・ミニッツ』なんだろうなぁっていうの観た直後に思った事。
シュールなイメージが真ん中にポンとあってそっから外堀を埋めてくような作りがイエジー・スコリモフスキ。カメラのあれ、思いついちゃったので。思いついちゃったらもう撮るしかないよなっていう軽さ、スコリモフスキ。
あれあれ言ってますけど別に大したあれじゃないですというかこれは、落語。いかにも若手監督がシナリオ書きそうなやたら回りくどいが内実は単純な風が吹けば桶屋が儲かる式群像劇という点で、前座噺。
名人が演る前座噺81分。こういうのきっと通好みなんでしょね。たいへん面白かったのですがなにかグダグダ言う感じではないっていう、おもしろいの一言でいいじゃないみたいなそういうやつです。
あとそうだこれは、すごく石井岳龍『生きてるものはいないのか』(2011)と近いイメージを持っているのではないですかね。鳥とかね、鳥とか、謎の物体。あと音楽の入れ方。
ある時期からポーランドに関心を示し始めたデヴィッド・リンチから逆影響を受けているのではないか、とか…。
『怒り』
《推定睡眠時間:0分》
錯綜編集の導入により時間軸の乱れた『イレヴン・ミニッツ』では要するにあのオチあの事件は終わりではなく始まりなのであると言いたいように思われ、言わば『イレブン・ミニッツ』のオチから始まるような映画が『怒り』。こちらの冒頭で描かれるたぶん世田谷一家殺人事件と市橋達也事件をモチーフにした凶悪殺人事件では殺人犯が「怒」の血文字を現場に残していたのですが、『イレヴン・ミニッツ』事件の「犯人」がその心境を一文字で表現するならやはり「怒」だったように思われ、あるいは「愛」だったかもしれないがそれはそれで『怒り』もそういう話だよなみたいなことになる。
そんな、『サマー・オブ・サム』(1999)とか『ソディアック』(2006)とか『殺人の追憶』(2003)とかの「全然関係ない殺人事件にとばっちりで人生狂わされた!」ジャンル最新作。
ほんでこれはいかにも頭のよい映画という感じで実に理詰めでありまして、仄めかしと連想だけで物語を進めていってはっきりしたものは何も映さないのですが、観念の映画とかポエムというわけではなく一つの謎に対して別の謎を提示することで暗黙的に答えるというような形で帳尻が合わせてあると。宙ぶらりんの要素がなにもなくて全部が対応関係にあると。
すごい合理的なシナリオなんですが映像は超皮膚感覚で、そこがまぁホントに泣けるとこで好きなとこで…なんついますかね、顔の説得力っていうのが往々にして理屈に勝ってしまうっていうのこの監督の人はたぶん痛切に知ってるんですよね。
犯人誰なの映画かと思ったらその犯人の顔写真が開始早々に出てきてあれって思ったのですが、まぁ上手いことできてるもんで中目黒&新宿二丁目をさまようゲイの青年・綾野剛、千葉の漁港に流れ着いた根暗青年・松山ケンイチ、沖縄の離島で一人気ままに暮らすバックパッカー・森山未來、とこう各地の犯人候補が出てくるが、全員にちょっとずつ見える、が、誰にも見えないというような顔写真。
要するに人の顔だけで見せてしまうし描かれないことの全てを想像させてしまう映画なわけで、もう沖縄の離島にある船宿の息子・佐久本宝の顔の物語性なんて物凄いことになってたりするわけです。たぶん現地で拾った人でプロの役者さんじゃないと思うんですけどこの人。
顔と理屈。電気グルーヴの曲にあるのは「顔と科学」。ピエール瀧が刑事役で出ておりましたが(そしてまた職場でタバコを吸っている)、いやそれはどうでもいいが美醜の問題から性差別人種差別まで含む顔と理屈の相克というグローバルな一大テーマの考察っていう趣あり。そう考えるとやはり頭のよい映画。でも地に足着いたバランスが緊張感。よいとてもよい。
誰にでも触れられたくないことがある、というお話なので誰にとっても身につまされるところがありそうですが特に俺にとっては他人事じゃない。最初の方で渡辺謙が訪れた歌舞伎町の区役所裏ヘルス、店名が少し変わっていたがあそこは何年か前によく通っていた。物語後半で出てくる重要ポイント「派遣現場に辿り着けない」、死ぬほど分かるので死ぬ。俺の話ではないかこれは…。
その他、松山ケンイチと妻夫木聡は『マイ・バック・ページ』(2011)だからそりゃ脛に傷あるよな。海の見える地方都市でロケするならとりあえず置いておけの宮崎あおいは今回は千葉の漁港にいます。『海街Diary』(2014)では継母から逃れて鎌倉に逃げ込んだ広瀬すずは今度も母親の事情により沖縄に来たので家庭の事情がありがち。など、駄洒落的に出演者の顔で遊べたりもする。
最後の方の展開は蛇足じゃないの、と思うのですが堪えようもなく泣いてしまうので仕方がないなこれは。はいはい、おもしろいおもしろい、超おもしろい!
(文・さわだきんたま)
【ママー!これ買ってー!】
『イレヴン・ミニッツ』と『怒り』の接続点を考えていたらアルトマンやろアルトマンしかないやろっていう気にはなったのですがだいたいの映画はアルトマンと結びつけがちな俺が言うと信頼度が極限に低い。
しかしそんなこととは無関係に面白い三面記事寄せ集め系の大爆発群像劇映画です。