ドキュメンタリーと半自伝フィクションで20世紀アメリカ文化回顧。20センチュリーな映画をふたつ見た感想。
戦後ハリウッドであんな映画こんな映画に携わったストーリーボード・アーティスト&リサーチャーの”映像の世紀”カップル『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』と、ニューウェーブでフェミニズムな20世紀おねいさまたちのおもいで『20センチュリー・ウーマン』です。
たしか、『チュリマン』には監督マイク・ミルズの分身である天パ文化系男子が同居するパンクおねいさまに『カッコーの巣の上で』の話を聞かされる場面があったのですが。その『カッコーの巣の上で』の裏方でシコシコ働いてたのがハロリリなんであった。
『20センチュリー・ウーマン』
《推定睡眠時間:25分》
ムカつく。見てる最中はもとより映画館を出てもなおムカっ腹が立って治まらずそれはもうチェストバスターが飛び出すのではないかと不安になるほどの立ちっぷりで劇中パンクおねいさまがDEVOを聴いていたのですが俺の心がUncontrollable Urgeだよちくしょうクソバカヤヤヤヤヤヤヤヤァァァァァァ!
でも今は落ち着きましたね。まぁ落ち着いたら思ったよね。あのね、こういうゾーンにね、こういうゾーンに入ってダメだと思ったら出ればいいよね。出ればいいのに居座ってなんだバカ野郎この野郎言ってたらおかしい人じゃないですか別に誰も残ってくれとか見てくれって言ってるわけじゃないんだから。
楽しめる人だけ楽しめばいいじゃないですか…平等かつ民主的に運営されるユートピア・ゾーンなんですよここは…嫌な人は帰ったらいいじゃないですかっていうユートピアですよ…!
この言いぶりだとなにがなんだかわからないはつまり何がムカつくかってこういうことだよ! 俺は言うよこういうムカつきは大抵の人に理解してもらえないって分かった上で言うんだよ!
・現在の視点から過去を裁く。回想されることでのみ正当化される過去という近代主義的で線条的な時間の捉え方はフェミニズム映画として思慮に欠けてるんじゃないかと思えそのくせフェミニスト面してやがるのでムカつく。
・とか言ったらえ? フェミニストじゃないけど? ぼくはただ自分の経験を綴っただけだから。とか言いそうでムカつく。
・「家族」に加わる唯一の男が口ひげのマッチョマンなのですがフェミニズムに関連して自由なセックスが物語の重要なファクターでもありその悩みに言及されるとしてもあまりにアメリカ的なフィジカル信仰はどうなの。薄っぺらくてムカつく。
・とか言ったらえ? フィジカル信仰じゃないけど? ぼくはただ自分の経験を綴っただけだから。とか言いそうでムカつく。
・リア充の素養のあるやつが気弱な文化系を気取って周縁カルチャーをかっ攫って消費していく容赦の無い現実を見せつけておきながらその残酷を認識しようとしない自覚の無さにムカつく。
・こういうの欲しいんでしょと言わんばかりのつまみ食いサウンドトラックにムカつく特にボウイの雑な扱いがムカつくボウイすらオシャレパーツとして消費しちゃう俺クールでしょみたいなやつムカつく。
・とか言ったらえ? 周縁カルチャーなんて誰が決めたの? え? 音楽はみんなのものでしょ? とか言い(略
・要するに、マイク・ミルズの世渡りの上手いリア充男っぽさが滲み出ていてムカつく羨ましいんだよコンチクショー!
『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』
《推定睡眠時間:30分》
手掛けたタイトルを挙げていくと『十戒』に『鳥』に『ベン・ハー』に『卒業』に…ともうなんだか錚々たる並びに思わず声が出てしまううそ本当はでませんがストーリーボード・アーティストの巨匠ハロルド、とその妻でリサーチ係として『スカーフェイス』やら『レインマン』やらとーこちらも声が出てしまういやうそなんですけど数々のみんな知ってる映画を陰で支えていたリリアンの、つまりこの人らおらんかったら映画史に永久刻印のあんなシーンもこんなシーンも(たとえば『卒業』の、有閑夫人の足とダスティン・ホフマン!)ぜーんぶ無かったかもしれないなぁっていうハリウッド・カップルを労う映画。
まぁこういう人たちは労わないといけないよね。なんかすごい画があったら映画ファンはだいたい監督とか撮影監督の手柄にしちゃうが、ハロリリみたいな人たちの貢献あってこその『十戒』の海割り『鳥』の鳥襲撃、『スカーフェイス』のリアリティ。
なんだかんだあのゴダールだってストーリーボード頼りに映画撮ってるつーんで大事ストーリーボード。イメージを具体化してディティールを作り込んでいくにリサーチも大事とても大事。
でも昔々はクレジットすらされなかったのだし今だって目を皿にして探さないとスタッフロールに発見できない。せめて映画にして労ってやらんと祟られるつーもんです。
リリアン、林家パー子的にキュート。(悪の)帝王デミルがボロクソ言われてるのは笑う。デヴィッド・リンチは資料の扱いが丁寧の新証言は意外な収穫。
ふたりの歩みが漫画的ストーリーボードで描かれる趣向、『アメリカン・スプレンダー』みたいでおもしろかったですね。
【ママー!これ買ってー!】
なにか急に見たくなる(『20センチュリー・ウーマン』により)