《推定ながら見時間:70分》
配偶者に殺されそうになっている女の人の恐怖と闘争を描いたスティーヴン・キングのフェミニズムテーマものとして『ローズマダー』とは姉妹編の記憶があったが、『ジェラルドのゲーム』と姉妹編なのは『黙秘』の題で映画化された『ドロレス・クレイボーン』で、『ローズマダー』は別に関係なかった。
そういえば『ジェラルドのゲーム』も『ドロレス・クレイボーン』も読んでない。『ローズマダー』はダークファンタジー的な(『パンズ・ラビリンス』のような)超自然趣味があんのでそれなりに楽しく読めたが『ジェラルド~』とか『ドロレス~』はそういうの出てこないぽかったので敬遠。
キングはえぐいお化けとか怪物が出てくるから好きで読んでいたので主婦の心理とか克明に書かれてもそんなん知らんわである。その頃小学中学とかだし…。
ヤング俺にとっては外れでしかなかったキングの非超自然系小説だったが超自然現象よりも人間心理の方が怖いと考えているらしいモダンホラーの巨匠としてはむしろそっち方面でホラー筆力を試したいとかあったんだろうなたぶん。
まぁ、そう考えれば、実質的に登場人物2人ぐらいの密室心理劇であるから、巨匠の野心作だったのかもしれないよな『ジェラルドのゲーム』。なんでこんな気を遣ってんだろう。
どういうお話かというとこれがまぁどうなんすかね滅茶苦茶すげー原作端折ってるような印象も受けたんですけどシンプルなお話で、湖畔の別荘に中年夫婦がやってくると。バッグに手錠詰めて。
それで別荘着いて神戸牛のステーキとか食う。肉食ったら今度はセックス。単純でいいが、単純なセックスじゃ夫の方は勃たんらしかったので妻をベットに手錠ガチャン。
実はこれは冷え切った夫婦生活に活を入れるための苦肉の策だったがしかし! 夫、無責任にも心臓発作かなんかでプレイ中に逝ってしまった…というわけで手錠で拘束されたまま残された妻の身体的かつ心理的サバイバルが始まるんであった。
神戸牛買う金があるんだったらラブホテルのSM部屋みたいの、ちゃんと借りれば良かったな。アメリカ文化的にそういうのあるか知らんけど。
ところでサバイバルとは書いたものの見進めていくと実はそういうテイストではないことがわかってくる。身動きが取れず外部と連絡も取れないひとりぼっちの危機的状況に置かれた人物の意識の流れに沿った心理サスペンス、というと『127時間』とか頭に浮かぶがあぁいう劇的な構成とか技巧的な演出はとらない。
死んだはずの夫がいつの間にか生き返っている。なにかと思えば悪夢なんだか意識が混濁してるんだか分からぬがとにかく幻影・妄想の類、でこの意識の亡霊がずっと拘束中の妻の傍らにいて延々妻とどっちが悪いだのディスカッションする。ながら見確認だから自分でも信用できないが小一時間ぐらいは妄想夫と妄想妻(途中で増えた)とリアル妻が妄想ディスカッションするだけだったように思う。
結局自分とのディスカッションなわけだからこれはオブセッションだ。オブセッションであるからには原因もあろう。話は回想に入って、妻のトラウマが明らかになっていく。
つまり人間にとっての恐怖とはなにかと。人間にとってのお化けとか怪物とはなんなのかと。たぶん、おもうに、きっと、これはそういうメタホラーを志向しているんだろうが…なんかシチュエーションサスペンスかと思って見たらお話的にも演出的にもメタホラーだったわけだから、先入観に囚われて映画を見るとはつまらん見方だとは思うがやっぱりおもしろくなかったのだキング入魂のメタホラー…。
こんなつまらんの作りやがったの誰じゃいと思うたら『人食いトンネル』とか『呪い襲い殺す』とかのストレンジな俊英マイク・フラナガンだったことがエンドロールで判明。評判の高いというかプチカルト的な人気があるらしい『呪い襲い殺す』は見てないが『人喰いトンネル』、なんやわけはわからんがとにかく気味の悪い映画として記憶に刻まれているため残念感が余計に増す。
陰鬱で抑揚のない雰囲気ホラーと捉えるなら『ジェラルドのゲーム』も『人喰いトンネル』もやってることはそんな変わらないかもしれないが、でもなぁ…のっぺりトーンでディスカッションドラマ撮ったら基本面白くないと思うんだよなぁ…。
でもそういう退屈さは最後まで見たらそれなりに納得させられたところもあったわけで、全然面白いとは思わないが妙な余韻があるというのは『人喰いトンネル』同様の、たぶんマイク・フラナガンという人の持ち味なんだろうという気はしなくもない。
なんていうか、超拍子抜け。宙ぶらりん。幻惑的どっちらけ。その脱力的衝撃により瞬間的に個人的キング原作映画暫定ワースト1に上り詰めたが、唐突に見てる側を突き放すラストはありゃあ奇妙な味(©江戸川乱歩)ってやつでしょうと今は冷静むしろ好意的。
なまじ面白い映画だとこういう味はあんまり出てこないから、退屈にも存外価値はあったのだ。
まぁ面白いか面白くないかと言われれば圧倒的に面白くない方に気持ちが傾くが…面白いことは必ずしも良い映画の条件じゃないからな! これはあれだよあれだつまりほら『ライフ・オブ・パイ』、『ライフ・オブ・パイ』からイマジネーションと映像美と劇伴とユーモアと語り口の面白さを全部取っ払ったような映画だから、本当に面白くないけど記憶に爪痕を残すちょっとだけ良い映画ではあったんだよ…!
追記:ショット的には僅かだが、残酷描写はとっても痛い。
再追記:マイク・フラナガンが監督したのは『呪い襲い殺す』じゃなくて続編の『ウィジャ ビギニング ~呪い襲い殺す~』でした。
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並べて気付く127と227の類縁性。これで『ジェラルドのゲーム』の劇中監禁時間が27時間とかだったら震えるがそういう面白い展開はない。
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