リメイク版『フラットライナーズ』の感想(反転ネタバレあり)

《推定睡眠時間:0分》

幽霊描写がなかなか怖い。この臨死体験サバイバーの医学生たちは冥府からの帰還後なにかしらの影につきまとわれるが、そのなにかしらというのが扉の後ろとかシャワーカーテンの後ろとかから出てこない。
クルーザー暮らしの医学生(貧乏ゆえの不法占拠ではなく金持ちのボンボンなのだ)が一人きりの船内で不穏なノイズ混じりのラジオに襲われる。むろん物理的にではなく突然音が鳴るあれという意味。

それから赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。医学生は思い出す。そういえばむかし、付き合ってた女に堕ろさせたことがあった。それから空気が悪くなって女とは別れたが…。
泣き声は物入れの中からだ。そっと近づいて恐る恐る物入れを開ける。乱雑に積み重なった毛布の類が、ちょうど赤ん坊一人分ぐらい不自然に盛り上がっている…。

じわじわとメンタルを蝕む抑制された恐怖演出も日常風景がスルッと異様な非日常に入っていく恐怖展開もこわい、いまさらジャパニーズホラー的な、との衰退形容詞も映画がそれなりに好きな人として情けないがジャパニーズホラー的なこわさと言うとやはり伝わりやすいのではないですかな『フラットライナーズ』だ。
ストーリーにおいても、というか。穢れた場から憑いてくるものの、または穢れた場所に入ることの恐怖を作劇の基礎とするのがアメリカンホラーに思うが、これに関して言えば『東海道四谷怪談』みたいな因果応報の恐怖なのだった。恐怖は自分の中にあるというわけ。

アメリカン医学生の競争はたいそう熾烈。「アメリカの人口統計上で一番多くを占める世代はなんだ! 20代だ! お前らの代わりなぞいくらでもいるんだぞ!」。こんな叱責が映画の中では日常茶飯事なぐらい熾烈なのですがそれにしても軽いカルチャーショックあるな、まだ20代が一番多いんだアメリカ。
斜陽の超大国とか評論家系の人がよく言うが20代が一番多くて斜陽なら日本既に沈没してるな。変なところで不意打ち恐怖を食らう。ほんとうはみんなしっていることでもあらためてつきつけられるとこわいんです。

で熾烈な競争によってメンタル追い込まれた医学生のエレン・ペイジが成果を急いで禁断の実験に手を出してしまう。自らを実験台に各種生体データを観測可能な状況で生命活動を意図的に停止させることにより、臨死体験と呼ばれるものの正体を科学的に解明してやろうというのだ。
競争によってここまで追い込まれるのなら競争の生じない代わりに目覚ましい発展も見込めないから緩慢に滅びていくだけの少子高齢化も悪くないのかもしれないなぁと思ったりするから別方向からの更なる恐怖。こわいこわい。

というわけで臨死体験に突入。どのようなものかというとこれがなんか煌びやかなニューエイジシンセ音楽みたいのがキラキラ鳴り響いてふわーっとカメラがエレン・ペイジが一旦死んだ建物を物理法則無視で飛び出して夜の都会を自由自在に浮遊する。
光が眩しい。街頭やネオンの光量がいつもより増して、また柔らかくもなっているように見える。光に守られている感覚がある…。
一方そのころエレン・ペイジに半ば騙される形で強制的に実験に参加させられた同期の医学生たちは彼女が中々蘇生しないのでめっちゃ慌てているのだった。勝手に蘇生を託されて目の前で勝手に死なれるとか災難すぎる。

エレン・ペイジはなんとか生還した。ちょっと頭がおかしくなっているようにも見えたがまぁいいか、何分間か脳動いてなかったら多少そんな感じにもなるだろう。臨死体験中に脳のどの部位が活性化してるかのデータとかも取れたし実験は大成功。よかったね。
だが実験の成功はそれに留まらないのだった。エレン・ペイジ、めちゃくちゃ記憶力が良くなっているし頭の回転が速くなっている。さながら『アルジャーノンに花束を』。

最初は怖じ気づいていた巻き込まれ医学生たちだったがー、こうなれば話は別だ。次は俺が死ぬいや私が死ぬ! と競うように死んでは甦っていく。
フラットラインというと俺の中では『ニューロマンサー』のデータ人格化されたハッカーのイメージしかないが心電図の上下動停止を意味する業界用語とかのことらしいので、かくして心停止童貞を喪失してヤリチンマン化したフラットライナーズ(※なぜか生還するとめっちゃエロい気分になるらしい)が誕生、その恐怖もまた幕を開けるのであった。

クラブミュージックを主軸にした音楽がかっこよくていいが何故クラブミュージックというとフラットライナーズがパリピだから。パーティ、プール、酒、ダンス、セックス。パリピである。本当はパリピではなかったが生還して頭がアルジャーノンしたらついでにパリピになってしまった。
いままでよっぽどたいへんだったんだなぁと包容力のありそうなことを言えるほど人ができていないからこういう輩はさっさと幽霊に襲われて死ねと思ってしまう。

その意味で言えば、実は、この映画は恐怖演出自体は怖いが、途中からストーリーが青春ドラマ的な方向にシフトしていってしまうので、溜飲を飲み込めず吐き出すほかない。嘔吐シーンがある映画は名作説というものもあるがこの場合はホラーを求める客の方が吐く。

ホラーとしては吐くが、でも最後まで見たら存外練られたストーリーだったことに気付いたから吐きながら俺は笑いましたよ心の中で。
良い話だよね。いや、本当に良い話なんですよ。多少説教臭いが良い話。臨死体験とかもう言ってしまえば全然関係ない。だって途中から幽霊でてきて臨死体験の解明がどうとか誰も言わなくなるもん。でも良い話。

まぁもっと最後までホラーで貫いてもよかったとおもうが、おもしろかったですね。

※ネタバレは反転という古典的処理で↓

脳のアルジャーノン的活性化は臨死が関係しているらしいが、急なパリピ化も幽霊の襲撃も実を言えばトラウマ的過去の抑圧に起因するもので、そもそも臨死実験などという危険行為になぜエレン・ペイジが躊躇せず突き進んだかといえば功を急いでという面もあるにしても、本質的には妹を事故死させたことの、そしてその過去を忘れようと意識から追放してきたことの無意識的な自責の念があったからなのだった。他のフラットライナーズも同様。だから一旦死ぬことでどいつも解放気分でパリピ化してしまうわけだ。
映画の後半は一旦死んでスッキリしたパリピどもがしかしそれでは本当の問題解決にはなっていないと気付いて贖罪の小旅行に出る展開に。ここが、あまりに拍子抜け(むかし悪いことをした人に謝りに行ったら相手は大して気にしていなかった、とか)なのは映画的にはつまらないが、未熟な医学生の若造どもが死や自身の内奥の弱さと向き合って医者として成長していく苦い青春話として悪くはなかったように思う。

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あーこれはこういう音楽の入れ方とかこういうガキ青春とかパリピっぽさとか突飛とまでは言わないが飛び気味のストーリーとか尻すぼみ感とか『ナーヴ』のヘンリー・ジュースト&アリエル・シュルマンのコンビ作だわーって思ったが全然違う人が監督(『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』の人)

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