《推定ながら見時間:30分》
これを書いている2018年4月26日時点では韓国財閥の水かけ姫が話題になっているがこっちの姫は水では足らず手駒の建設会社社長をボッコボコにしてました。
水かけ姫の役職は専務だそうですが映画に出てくる姫も専務と名乗っていたから風刺なんだろうな。こんな風にネタにされるぐらいだからナッツ&水かけの姫姉妹はよほど韓国では嫌われているんだなぁと鼻ホジーな呑気感想が漏れたところでネットニュースをチラ見してサイコキネシス的衝撃。
ナッツ&水かけ姉妹に加えてその母親に当たるナントカ財閥会長の妻までグループ系列ホテルの建築現場で現場作業員にバイオレンスOKなパワハラを食らわしていたとのニュースが一昨日入ってきたばかりではないか!
このシンクロニシティ。ロメロ直系の社会風刺ゾンビ映画の大傑作『新感染』でお馴染みな映画監督ヨン・サンホの洞察力というか社会批評の鋭さ恐るべしであるがシンクロしているのはなにも韓国の今だけではない。
宇宙からの謎の飛来物によって鉄雄(『AKIRA』)レベルのサイコキネシスに目覚めたはいいがその能力を就職先探しぐらいにしか生かせない覇気のない薄らぼんやりダメ親父が愛する娘を守るために『クロニクル』的覚醒を果たして都市の上空を飛び回りながらバトるっていう展開、これ前に見たよ前っていうか数日前に見たよ『いぬやしき』で!
『いぬやしき』って監督が佐藤信介じゃないすか。和製ゾンビ映画のエポック的な『アイ・アム・ア・ヒーロー』の。なんなんだって感じだよなそのダブルシンクロニシティ。素直に驚くよ。
ところで『いぬやしき』を並置してみるとたいへん面白いのは『いぬやしき』は鬱屈した孤独高校生が都庁を含む新宿の高層ビル群をぶっ壊しまくり通行人を無差別にぶっ殺しまくっていくが、『サイコキネシス』は官民というか官財閥一体の民衆置き去りバイオレンス再開発(『アシュラ』で描かれたような)が物語のバックボーンなので、新宿のようにかどうかは知らないがこれから見栄はあるが色のないビル群が建ち並ぼうとするその場所で旧市街の破壊と(建築業者+警官隊による)無差別的な住民弾圧が繰り広げられるというあたり。
なにかこう、ここ掘れ的な評論ポイントのシグナルを感じるな。大いに感じる大いに感じる。感じるはいいがそれ以上掘る道具をぼくは持ってないので映画評論とか韓国事情とか都市論とかに自信のある向きは頑張って勝手に掘削してください。掘って得るものがあるかどうかは知りませんが。
しかし配信ドラマはともかく配信映画はなかなかちゃんと批評してくれる人っていうか批評する場がないからこういう時に歯痒いねぇ。パンフレットとか売ってないしねぇ(チラチラとネッフリの運営を見ながら)
さて再開発ものなので物語は地上げヤクザ的な弱小建設会社の襲撃から始まる。こう書くとヘビー感ありますがいや実際人死にが出るのでヘビーなのですが、わりとシリアス一辺倒だった『新感染』とかその前日譚の『ソウル・ステーション』とかと比べるとすげぇライトでコミカル、というのが『サイコキネシス』の困惑的チャーム。
バリケードを築いて徹底抗戦の住民たちを鉄パイプでぶん殴っていく暴力集団の絵面のどこがコミカルかという気もするのだがしかし。この弱小建設会社の社長とか側近とかが憎めないキャラしてたりするんだな。必死で警官に超能力被害を訴えるところとか間抜けで笑えたよ。
題材のハードに反してこのユーモラスな見せ方。ぶっちゃけ拍子抜けっていうか『新感染』の次がこれかよとは見てる間ちょっと思ったりもしたが『新感染』の次のステップを考えたらこうあって然るべきだろうと最終的には納得。
ネタバレですが最初の一人以外誰も死にません。そうですハードなサイキックアクションがあるにも関わらずこの悪徳社長もなんと死んでくれないのです。というのも結局は、『新感染』と同じで誰だって好きで悪事に手を染めてるわけじゃないという話だったのだこれは。
一見して私利私欲のために平気で貧乏人をぶっ殺す人間の屑に思える極悪社長にも給料も満足に払えない経営状況の中で自らは決して手を下さない財閥のヨゴレ仕事を引き受けざるを得ないという事情があった。
実は会計士だった(ウソつけ!)プロレスラーみたいな側近が事務所で領収書を精査する場面とかもう哀愁と貧乏のダブルコンボで実にホロリとさせられつつ笑わせられつつやるせなさを感じつつ、である。
じゃあその親玉たる超ムカつく水かけ姫的な財閥の暴君専務が悪いのかと言えばいや悪いのだがかなり悪いのだがやっぱそこにも悪いには悪いなりの事情というものがあんである。
「スーパーパワーで何ができる? 教えてやるよ、本当のパワーっていうのは国家なんだよ! 身の程を知って慎ましく生きろよ奴隷野郎!」いやたぶんこんな風には言ってないがこんな風な台詞をですね、自分に言い聞かせるように主人公のサイキック親父に言い放つわけですよこの水かけ姫は。
財閥つっても時にはその手足となって体制に寄生しなけりゃ存続できねぇんだと。好き勝手やってるように見えるけれども結局自分たちも囚われの身で自由じゃねぇんだと。これは破壊力ある台詞ですよね、なんか。
極悪人やゾンビを再生産するような社会の形が悪いんだから個々人を咎めてもしょうがないだろう。だったらもう止めませんかね無駄な諍いとか殺し合いは、というなんだか仏のような映画だったよこれは。
いやぼくとしてはその優れた社会批判の結論として、悪循環構造の解決策としてハートウォームな性善説とド直球なヒューマニズムを持ってこられてしまうとちょっと着いて行けない感じもあるのですが、その迷いの無さは確かに感動的ではあったな。
すごいっすよね風采の上がらない(そのキュートがたまらない)サイキック親父がメシアの如しというか『トゥモローワールド』のラストみたいに警官隊をメンタル武装解除していく場面とか。
お、おう…みたいな感じになるがなんか説得力あったよ。名シーン(その後の処遇も含め)。
※あの悪いやつは専務と書きましたが常務でした。監督はホン・サンスではなくヨン・サンホだったので訂正してます(ホン・サンスはフランス映画みたいの撮る人だ…)
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利権絡みの再開発話とその内側の搾取構造を描くという意味では『サイコキネシス』と同じようなものだろうと思うが『アシュラ』を作った人はヨン・サンホのような仏の心は持っていなかったので各々事情もあるだろうが悪事を成したやつはみんなぶっ殺す精神で世界の終わりまで突っ走ってしまいました。仏の傍らに阿修羅あり。
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専務ではなく、ホン常務。
監督はヨン・サンホ。
社長は、死人は出さなくても、殺してしまえと言ってるから、殺人未遂であって、悲哀はない。
や、これはお恥ずかしい。訂正しました。教えていただいてありがとうございます。