《推定睡眠時間:0分》
これ面白かったなぁ。イーサン・ホーク主演のSFアクションなんですけど本当にイーサン・ホークのジャンル映画選球眼はすばらしいですよ。
『ガタカ』でしょ、『マグニフィセント・セブン』でしょ、『フッテージ』でしょ、それからこれ自体は面白くありませんけど続編は面白映画に化けた『パージ』、それからそれから時間SFの大傑作『プリデスティネーション』だってイーサン・ホークですよ。
映画デビューがジョー・ダンテの少年ドリームSF『エクスプロラーズ』というぐらいだから筋金入りだ。もう絶対面白いわイーサン・ホークが出てるジャンル映画。
俺の中ではビデオでーた推薦未公開映画のシールみたいなものですよイーサン・ホークの名前は。ビデオでーた推薦未公開映画が全部面白かったかと言われればそうでもないので喩えとして適切ではないかもしれないが。
そのイーサン印の新作SFアクションがどういう映画かというとシリアス寄りの『アドレナリン』でした。ナミビアとかだったと思いますがグローバル悪の組織コングロマリットが現地の人を犠牲にやりたい放題。
その悪事を暴こうとインターポールの女性捜査官シュイ・チンが動き出しちゃったので悪の組織の偉い人おこる。捜査を妨害すべく家族を失い自暴自棄状態の殺し屋イーサン・ホークが日当100万ドルで雇われるのであった、が!
シュイ・チンに撃たれて死んでしまった。公式があらすじでバラしてるから普通に書いてしまうが普通に心臓を撃ち抜かれて普通に死んでしまった。
イーサン・ホークのジャンル品質保証のみを頼っての前情報ゼロ鑑賞だったため素直に驚いたのですが更に驚いたことになんと確実に死んだはずのイーサン・ホークが蘇ってしまった!
そうです! グローバル悪の組織コングロマリットはナミビアのみならず世界を手中に収めるべく人間蘇生薬を非合法に研究開発していたのです!
でもその効果は24時間しか持続しなかったので24時間後にイーサン・ホークはやっぱ死ぬのだった。残された24時間で何を為すべきか。当然、悪の組織と戦うのであるが。
というわけで『リミット・オブ・アサシン』。めちゃくちゃそのまんまなタイトルですね(原題も『24 HOURS TO LIVE』とかなので身も蓋もない)
で何が良かったってアクションがすげぇ良かったんですよ。アクションの見せ方ね。カメラワークとか編集のリズム、シークエンスの設計。
なんか色々あるじゃないですか、たとえばほら、あえて手ブレを残した(加えた)手持ちカメラでアクションの臨場感を強調するとか。その派生系で最近プチ流行ってるFPS視点とか。
細かいショットを超スピードで積み重ねていく何が起こってるんだかよくわからないが凄いアクションっぽい印象は残るっていう手法もあれば、あるいは逆にフィックスに近い構図でカットを割らずにアクションを捉えるオールドスクールな手法もあるじゃないすか。
『リミット・オブ・アサシン』のアクションが面白かったのはそのへんのバランスが絶妙なんですよ。カメラ動かさないわけじゃないしカット割らないわけじゃないし、でもそれが激しすぎないしみたいな。
それ要するに奇を衒わないで普通にアクション撮ってるだけなんですけど普通に撮りきることの難しさっていうのもあるじゃないですか。
ベタベタなんですけどそれなりに派手なアクションシーンがあって、でそれをそれなりにカット割ったり多角的に捉えたりして臨場感を保ちつつも今画面の中で何が起こってて誰がどういう動きをしているのかっていうのが完璧にわかるんですよ『リミット・オブ・アサシン』。これはすごいことですよかなり。
監督のブライアン・スムルツはスタントマン出身というからアクションには拘りあったんじゃないすかね。アクションのコンセプトを見せるんじゃなくて(それが悪いとも思いませんが)アクション自体を見せるところにスタントマンの美学を感じたし、でまたそのアクションがあくまで物語を引き立てる従属的なポジションから逸脱しないっていうね。
職人仕事だと思いましたよ。必要な部分で必要な分だけ展開されるアクションの面白さを再確認したな。こういう中道アクションは今の映画館でなかなか見られないから。
シンプルにして緻密なアクションが荒唐無稽なシナリオのリアリティを支えてる面はあると思うのであらすじは馬鹿っぽいが存外、お話の方も馬鹿にできない。
特別出演ルトガー・ハウアー(使いどころが激しくナイス)ということで残された24時間でグローバル悪の組織コングロマリットと戦いながら俺はなんで生きてるんだ的なことを自問するイーサン・ホークの姿にレプリカント的哀愁が。
ハートを揺さぶられたとか言ったら虚偽の感想にはなりますが普通にイイ話として受容したのでそれも、この手の中規模ジャンル映画にしたらたいそう立派なことなんじゃないですか。普通にイイ話と思わせるのも。
無駄のないスムーズな展開であるとか。ちょっとした様式美の漂う殺陣であるとか。過剰な主張はしないがしっかりと立ったキャラクターであるとか。良かったのか悪かったのかわからないが思い切りの良いラストの切れ味であるとか。
わりとどこを取っても普通に面白かったのでよく出来た良いB級、これは良いB級ジャンル映画。やっぱイーサン・ホークはビデオでーた推薦シールですよ。
【ママー!これ買ってー!】
こういう真っ当に面白いB級ジャンル映画を撮る貴重な職人監督だった『セルラー』のデヴィッド・R・エリスは事故で亡くなってしまったのでブライアン・スムルツには期待しかないよ。
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