なにこれ映画『ペンギン・ハイウェイ』感想文(ネタバレないから大丈夫)

《推定睡眠時間:0分》

平成サービス終了間際に突如として投下された平成の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』とか言うとファナティックなファンの顰蹙と哄笑を買いそうですがそれぐらいのインパクトあったんですよ俺には。

なにがってそのフォーマットでそんなのやるのっていう意外性が。『ビューティフル・ドリーマー』は『うる星やつら』と基本的には全然関係ない押井守の個人的な哲学とか思索を開陳する映画じゃないですか。
キャラクターと切り離したプロットそのものの斬新さっていうのもあると思うんですけど、それを『うる星やつら』に乗っけた時の異化作用があれやっぱなんだこの映画はっていうワンダーを生み出してたと思うんですよ。俺は。それ映画クレヨンしんちゃんの『モーレツ! オトナ帝国の逆襲』とかもそうだと思ってるんですけど。

それで『ペンギン・ハイウェイ』。オープニングのスタッフクレジットとか見ていると俺がアニメに明るくないっていうせいも多々あるんですが、知ってる人が基本いない。
制作スタジオのスタジオコロリドは初めて聞いたし監督の石田祐康も知らない。キャラデザの新井陽次郎という人はアニメ界隈でそれなりに知名度があるっぽいがでも俺は知らない。音楽の阿部海太郎はまったく知らない。

原作の森見登美彦は知ってるし脚本のヨーロッパ企画・上田誠も知っているけれどそれぞれ読んだり観たりしたことはない(上田誠作品は『サマータイムマシン・ブルース』だけ映画版で見たことがある)
こういう次第なので完全に近い手探り鑑賞で、映画が始まると絵柄もそうだし物語もヤングアダルトというかちょい風変わり&ちょい性の目覚めなビルドゥングス・ロマンという感じで…上田誠が脚本だからか現代的なハズし会話が含み笑いを誘うのですが(「怒りそうになったらおっぱいのことを考えたらいいよ」はさすがに含みでは済まなかった)、ともかく最初30分ぐらいまではまぁ作家性が前面に出てくるわけではまったくないので、知らない普通の人が作った児童アニメ的既定路線の安心映画として見ていられる。

しかしね。そこからびっくりしましたよなにこれって。なんすかねこれ。自由研究とおっぱいの話から…どこ行くのそれ!?
その振れ幅の広さと振れの唐突さ。すげぇ日常感覚の児童アニメのフォーマットに宇宙を真理を探求せよみたいなSF的命題がゴリゴリ押し入ってきちゃってそれはすげぇなって驚いたわけですよ『ビューティフル・ドリーマー』みたいに。

このミクロな世界とマクロな世界のワームホール的接合の妙は映ドラリストとしては『のび太の創世日記』を連想したりもし、あれもまた自由研究のミクロな世界から出発してえらいところに辿り着く物語だったから実にとても牽強付会たいが紙幅の都合もあるので(どこに?)割愛。
とにかく『のび太の創世日記』も面白いからみんな見てくれよな。感想もそこそこに映ドラの布教活動に走る閑話を緩和する気すらない休題っぷりがひどいとは自分でも思って書いてます。

それでお話はですねアオヤマ君っていう出木杉くん的な小四男子がいるんです。小四にして遺伝子と漢字で書く手に迷いがないから天才。俺は今でも遺を書くときにしんにょうの中身に足が出ているか出ていないか迷ってしまうからこの小四に知的レベルで負けているしだいたい足が出ているとか出ていないとかその拙い文章表現で既に負けているからな。こいつはとんでもねぇやつが来たなと思いましたね…なんのライバル意識なのかよくわかりませんが…。

出木杉くんと違うのはこのアオヤマくんの頭はいつも通ってる歯医者のお姉さんのおっぱいでいっぱいということ。
そのおっぱいでいっぱいな思考もまた我々チンパン系成人男子のそれとは明確に異なる天才っぷり、何冊もあるセルフ自由研究ノートの一部を成すおっぱい研究ノートにはおっぱいの形状や張り、重量や弾性と乳揺れの関係について緻密な科学的考察が書かれており、天才すぎてバカに見えるほどであった。

笑うことなかれ。いや笑っていいと思うがこんなの笑ってしまうのですが、でもねおっぱいは世界なんですよ。おっぱいは宇宙なんですよ。おっぱいは神秘にして真理なんですよ。すなわち、おっぱいを探求することは人・宇宙・その全ての真理を探求する壮大にして崇高な営みなのだ!

という…というで済まされても困ると思うがでも本当にそういう話だったからどちらかと言えば俺の方が困ってますけどねだって歯科助手のお姉さんのおっぱいからそこまで飛躍すると思わないでしょう、歯科助手のお姉さんのおっぱいから。
その飛躍というのは何も全然無関係なところへ話が飛ぶということではなくて、おっぱいという存在から直接的に性と生と死のメタファーを引き出してそれらをジュブナイル妄想とシュルレアリスム構想でもって地母神的なイメージに拡大・統合し、その月経周期の中で宇宙の崩壊と再誕を…バカになってきた気がするのでやめよう。

でもこんなだからなマジで。すごくない? すごんだよ! お姉さんのおっぱいも超美乳ですごかったんだよ!
あと宇多田ヒカルのエンディング曲もすごくよいかったです。頭の中ではオープニングに『未来のミライ』の山下達郎テーマ曲も流れたりもしてましたが(内容的には『ミライ』よりこっちのが合ってるので)

【ママー!これ買ってー!】


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とんでもないことになるとはいえ『ペンギン・ハイウェイ』は『ビューティフル・ドリーマー』的な変革のパトスとか祝祭性は希薄で、なにが起ころうと日常性の崩れない逆に超現実的な滑稽さがとても現代的。

↓その他のヤツ

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ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

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