どうぶつ映画『皇帝ペンギン ただいま』感想文

《推定睡眠時間:20分》

入場者特典でもらったペンギン飛行機製作所のトートバックにもぺんた君がただいまぁぁ~と元気に叫ぶ姿が描かれているが映画に出てくる主演ペンギンは確実に前作で密着したペンギン一家とは別のペンギンなのでただいまって言われても(知らない人だ…)となってしまいどう返事をしていいかわからない。
でも頑張って帰ってきたのでとりあえずおかえりなさい知らないペンギン。あとぺんた君トートバックはかわいい。使わないと思うけどうれしい。

正確に言えばこのタイトルの“ただいま”は遠い海から子ペンギンの餌を腹にでっぷり蓄えて帰ってきた父母ペンギンの心情(?)を表現したものなので続編ニュアンスを含むダブルミーニングでもあるが別にあのペンギン一家が帰ってきた的な意味ではなかった。
そもそもコウテイペンギンがそんなに生きるのかとか知りませんが(※「コウテイペンギン 寿命」で検索を打つと即座にグーグルが20年と返してきた)

出るペンギンは別だったが十年二十年で動物カルチャーが変わったりしないと思うのでわりとやっていることは前作と重複しまくっていたかもしれない。
重複というか前作はわざわざ台詞まで付けて物語仕立てでコウテイペンギンの生態を網羅的に見せていたわけですが、その中から給餌行動まわりをピックアップしてじっくり見せるのが今回の続編っぽい。

映画の始まり。餌を獲り終えて海から上がってきた大人コウテイペンギンが単独で荒涼とした南極大陸の大氷原に踏み出す場面。
溜め息が聞こえてきそうな仕事帰り的ヨタヨタ歩きが既に強烈なポエムを放つのでどうぶつは強い。ロバート・デ・ニーロ並の哀愁メソッド演技がコウテイペンギンは誰でもできる。

一人寂しく百キロぐらい歩いてようやく集落に辿り着いた大人コウテイペンギン。このショットがすごい。どうなっているのかよくわからないが、まぁパンフレットとか見たら書いてあるのでしょうが、丘の上から集落を眺める大人コウテイペンギンの背中側からの肩なめショット。

なめってなんだよと思う。たぶんあれは丘の上に集落の離れグループみたいのがいて、その一匹がたまたま丘の下の方を向いたところをカメラに収めてるとかだと思うのですが、大人コウテイペンギンの一人旅を演出するためだけにそんな面倒くさいことするのっていうすごさ。
その執念が実ってたいへんドラマティックで叙情的なペンギン名シーンになっていたなあれ。感覚的にはペンギン天使の詩って感じですよ。

で集落に戻ってからは一応ペンギン生活を一通り見ていく流れになって、帰ってきたらどれが自分の子供かわかんなくなっちゃってすごい探してもどかしいとか、餌を獲りに行く母ペンギンから父ペンギンへの卵を受け渡しがすごい難易度高くてもどかしいとか、すごいもどかしい上に前作でそれたぶん見てるから超もどかしい場面が続く。

もういいから飛ばしちゃえよそんなの! …とか思わないでもないのですがそのもどかしさがコウテイペンギン生活の核。
実際にはそれがいちばん環境に適した生態なのだとしても傍目には恐ろしく非効率的で無駄しかないように見えるが、このようにしてウン百年だかウン万年だか知りませんが生きてきたコウテイペンギンなのだからもどかしさを感じることに見る意義があるんだろうこういうのは。

ちなみになんでそんな生態なのかということはナレーションの人が一言で説明してくれていた。「よくわかっていない」。
いや仮説ぐらいあるだろ…こんな超絶撮影敢行してるんだからプロの監修とか付いてるだろ…とも思うがまぁ、まぁ学術的なドキュメンタリーとかそういう感じじゃないから…どうぶつポエムとか映画で見る絵本の類いだから…でもちょっとぐらい説明があってもいい気もするのでこんなところまでもどかしい映画だった。

ペンギン生活の説明が終わるとペンギン大移動のどうぶつスペクタクルへ。うれしいのは前作にあった情操教育的茶番ドラマのパートが今回はなかったこと。
前作は父ペンギンと母ペンギンと子ペンギンにそれぞれ声優が付いて被写体ペンギンの意志とは無関係に擬人化台詞をアテられていたわけですが、それちょっと演出が臭すぎねアニマルライツ無視すぎね的な批判があったかどうかは知らないが、今回のは台詞がなくてナレーション進行。

どうぶつ喋りが苦手な人間としてはそのへん懸念するところだったので胸をなで下ろしたし吹き替えで見たらこのナレーションが草刈正雄のサプライズ。
これがまたむせかえるような父性とラブ臭でなんかすごい。前作のペンギン台詞もラブ全開のフランス流だったが母父子の三匹分いやペンギン集落一つ分のラブを一手に引き受ける正雄。前作と違って叙情台詞的なやつはほぼ出てこないにも関わらずある意味前作より辛…情緒がありましたね。

閑休。『ペンギン・ハイウェイ』なんていうアニメ映画も公開中ですがこっちではリアルペンギンハイウェイが見られた。
氷原をヨタヨタ歩いているやつの横をツルーっと滑って軽快に移動してるやつもいてその行動の違いがよくわからないが(体温差とかだろうか)、なんとなく可笑しくて良い。
壮大でかつユーモラスな光景。その後で飛べる方の鳥に食われそうになったりもするわけですが。

…というのをニコニコしながら見ていたら気持ちよくなってきちゃって眠りに入ったので後はどんな展開なのか不明。
氷が割れて立ち往生するペンギン群団、みたいな場面があったので地球温暖化で氷量が減って大変とかそんな話になっていたのかもしれない。
でも独特の生態をよくわかっていないの一言でスルーする映画だからそれほど踏み込んだりはしていないだろうたぶん。

説明を聞くより映像を見てくれという映画だろうから。寝たけどおもしろかった。

【ママー!これ買ってー!】


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また二十年ぐらい経ったら“おかえり”とか“さよなら”とかやるんかな。邦題限定ですけど。

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