アメリカンのび太映画『ステータス・アップデート』感想

《推定睡眠時間:0分》

狭いんだから歩けばいいのに高校の廊下でわざわざスケボーなんか走らせちゃうイキリティーンのカイルくん(ロス・リンチ)は若い頃のジャン=クロード・ヴァン・ダムに見た目そっくりなカリフォルニアっ子。

両親の別居に伴いママの実家のある内陸のなんかイモい感じの学校に転校してきたが、そんな感じだもんだから即座にスクールカースト頂点のアイスホッケー部主将に捕捉、まだ友達の距離感にもなってないのにネトゲで彼女()が出来たことなんかを一方通行で喋り倒す陽気なロンリーデブと一緒に恰好のイジメターゲットになってしまう。

くそぉ、カリフォリニアだったら俺はモテモテのイケメンなのになぁ。くそぉ、元プロスケートボーダーのクールなパパが居てくれたらなぁ。くそぉ…。
アイスホッケー部の容赦ないシバキによりカイルくんのスマホ破損。くそくそ思いながらもとりあえずスマホが使えないとなにも始まらない現代高校生なので近所のショッピングモールにあるスマホショップに修理してもらいに行くとヤツはいた。

BUTCHさんだ…極めてBUTCHさん的な何者かがいる…。BUTCHさんというのは改めて説明するまでもないでしょうがiPhoneの行列に並んでいるところをどっかのテレビ局に見出され(たということにしておく)、「働いたら負けだと思ってる」と並ぶゼロ年代日本語インターネット屈指の名言「乗るしかない、このビッグウェーブに」を生み出したわりと会いに行けるタイプのインターネット・レジェンドである(→https://www.butch5555.xyz/

かの園子温監督作『リアル鬼ごっこ』にも行列に並ぶ客としてエキストラ出演を果たした日本のBUTCHさんはもっぱらスマホに翻弄される客の側だったが、さすがアメリカ、こっちのBUTCHさんはスマホを売る側だ。

ユニバースがどうとか鳥になれ! 鳥になれ! とかビッグウェーブな妄言をカイルくんに浴びせて困らせるばかりで全然スマホ売ってくれないし直してもくれないが、代わりに特性アプリ入りのスマホをタダでくれたからアメリカのBUTCHさんもやっぱりdude。

しかもこのアプリがすごかった。BUTCHさんが言うにはSNSっぽい(しかし他に使っているユーザーは見当たらない…)がその正体は願望を入力してアップすると現実になってしまうドラえもんアプリだったのだ!

dude! こいつぁすげぇ! 起動するたびにBUTCHさんの顔を見て願望をアップするたびにBUTCHさんの怪鳥音を聴かなければいけない以外は夢のアプリじゃないか!
その二点はしかし結構大きいマイナスポイントに思えるが、BUTCHさんが新型iPhoneの行列に並んでも今やロケットニュースぐらいしか相手にしなくなってしまったように、カイルくんもアプリを使っているうちに慣れて一切気にならなくなるのだった。

てなもんで軽い軽い拭けば飛ぶよな学園コメディ、軽音部の女子に一目惚れしたカイルくんが入部コンテストを勝ち抜くべく「俺は歌の天才だからコンテストで顧問教師を仰天させちゃった!」とかBUTCHアプリに入力してコンテストに臨むとすげぇオペラ歌手の歌声になっちゃって教師仰天、そして大笑い。こ、こんなはずじゃなかったのにぃ!
みたいなコロコロコミックぐらいの王道健全ギャグが続く(ぞれにしてもリップシンクが雑)

他愛なさが半端ないので突如として始まるカフェテリアのミュージカル場面とかいい加減な振り付けとカメラワークでなんの感情も湧かない。
「友達のロンリーデブって実は超プロ級にスケボー上手いんだぜ!」とBUTCHアプリに入力すると運動神経マイナスのロンリーデブが急にスケボーで滑り出すが絵面的にはノーマル速度で普通にアスファルトの路上を滑ってるだけなのでプロ級の説得力が完璧にない(たぶん予算もそんなにない)

カイルくんの妹はアニメとかが好きなのでシリアスなシーンでも初音ミクっぽいコスプレをして画面に収まっているのはちょっと笑ってしまうが、それにしても他愛がない。目の肥えた今時ティーンがこんな雑な作りで満足するわけないだろ。

カイルくんの恋路を邪魔する軽音部のオシャレゲイ、ずっと学校が同じ幼馴染み女子にまだ名前を覚えて貰えないツイッターフォロワーがお母さんとお婆ちゃんだけのロンリーデブ、弱者イジメと試合で勝ち続けることでしか自分を保てないフィジカル強者メンタル弱者のアイスホッケー部主将、そいつと付き合うことで自らのポジションを誇示するクイーン・ビー、そしてこっそり歌を作ったりしているが自信がなくて誰にも披露できないでいるカイルくん一目惚れな軽音部女子…なんか登場キャラを並べるだけで展開が分かりすぎる安易さである。

だが、でも、しょうもない映画だなぁと思いながら見ていたらこれが結構良く感じてきてしまい…ドラえもんアプリの話なので結局リアルはそんなに都合良く変えられないよ的なドラえもんオチになるのですが、そのへんの筋運びが場面場面の力のなさに反して意外と丁寧、誠実。
ベタもいいところではあるがちょっとした脇役キャラまで平等に立っているのでなんとなく物語に有機的な説得力が出てくる感じでこれがなんだかよい。

監督のスコット・スピアーはYUI主演のゼロ年代難病映画『タイヨウのうた』の今更なんで的なハリウッドリメイク版を手掛けた人で、その『ミッドナイト・サン』で色素性乾皮症(XP)の娘を持つ父親役を好演していたロブ・リグルが『ステータス・アップデート』でもカイルくんの父親役だったりしたが(これがまた良かった)、シーンの面白さとか展開の意外性よりも俳優の芝居とキャラクターのメンタル機微で見せていくあたりはちょっと和製難病映画や少女漫画原作映画を思わせた。

ぼく難病映画とか少女漫画原作映画好きなんで…まぁちゃんとした大人の人が見ても毒にも薬にもならないと思うのですが、個人的には面白いっていうか、好き。
最後にカイルくんがBUTCHさんと写真撮るところ、BUTCHさんなのに清涼感あふれる絵面の、ちょい感動シーンでございました。

【ママー!これ買ってー!】


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主人公が恋する男子高校生はオリジナル版だと塚本高史だったがこっちだとシュワルツェネッガーの息子、という点に強烈なUSA性を感じてしまう。
『ステアプ』のロス・リンチを途中まで(ヴァン・ダムの息子かな?)と思って見ていたのはそのせいです。ちなみにヴァン・ダムの息子は暴行とマリファナ所持で最近捕まってました。

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