人生いろいろ映画『いろとりどりの親子』感想文

《推定睡眠時間:25分》

低身長症の人の集いというのが出てきてアメリカという国は一にも二にもとにかく属性に基づく組織化と組織を通して個人が自己肯定を行う、人種のサラダボウル的な表現はもう古すぎて意味不明の域に達しているが、小社会が無数に林立している中心を持たない国なんだなぁと変なところでグッとくる。

すごいんですよこの低身長症の人の集いが。フェス。ちょっとした懇親会とかそんなレベルじゃないから。
なんかファッションショーみたいのもやってる。これはブランドのお披露目的なファッションショーではなくて、受付で欲しいプログラムチケット(色々あんのよ)を申告する時にせっかくだからどうすかみたいな感じで参加を促されたりする観客参加型のやつ。

大勢のフェス参加者を別にすれば映画には低身長症の人がざっくり四人ぐらい出てくるが、その中でいちばん若いヤングアダルト(と思しき)低身長症の人がじゃあっていうんでこのファッションショー出る。母親、客席からその光景スマホで写真に撮って涙ぐむ。
なんか運動会的な。娘の晴れ舞台的なやつとか人目を気にしない堂々とした振る舞いはビッグ人間に囲まれて暮らす普段はあんま見れなかったっぽいので感激もひとしおなんだろう。

低身長症フェスの場面は結構長めに尺が取られていて、参加者側も運営側も低身長症の人だからだんだんとそれぐらいのサイズがヒューマンのノーマルに見えてくる。
結局ノーマルというものは相対的なものでしかないんだなぁの映像的説得力がたいへんよい。
低身長症の人も背が高いのとか低いのとか白いのとか黒いのとか学者風情とかアウトロー風情とか色々なのであぁ社会、これこの中にもなんかドロドロした人間関係とかあるんだろうなとか思えてきてそれもたいへんよい(社会を描くとはそういうことだろう)

途中から低身長症カップルがメインになってくるので低身長症の比重が大きいが、世の中には色んな人いるんですね的なドキュメンタリー映画。
元天才児のダウン症の人から映画は始まるので色んな障害を持った人のドキュメンタリー映画、とつい安易に書きたくなってしまうが天才ダウン症の人に続いて出てくるのはノーマルゲイの人なのでそういうマジョリティ都合の括りで捉えてくれるなの意図を汲む。

マイノリティと書けばいいのか。色んなマイノリティ親子をカメラに収めた映画。便利な言葉ですねマイノリティ。
それこそマジョリティ都合の最たるものじゃないかとは思うがまぁそれはほら、われわれの言語そのものが伝達の面では階層秩序的に構成されているわけだから(自閉症キッズのエピソードがそれを強烈に印象付ける)しょうがないんですよ人に見せる文章で書く限りは…むしろその構造的差別にカウンターを食らわすためにこういう映画はあるんだろうと強引に低身長症フェスの映像説得力に話を繋ぐぞ、俺は!

それでその最初に出てくる天才ダウン症の人、なんか天才ダウン症の人として子供の頃はすごいテレビとか出てたらしい。
低身長症フェスもそうですがうーん、アメリカ。これも文章だけならどうということはないが実際の映像で見せられると結構「アメリカ…」という感じになる。
低身長症フェスの「アメリカ!」に対しての「アメリカ…」です。なんでもショウ化して消化してしまうことの光と影。

ダウン症だけどかなり勉強できるっていうんで、まぁテレビでも人気者なので親はどんどん勉強させようとする。
本人も勉強は嫌いではないらしいが、ウチの子は非ダウン症のお前らにも決して劣らねぇからっていう親のエゴ&善意の帰結は。
神童の行く末がだいたいそうであるようにこの天才ダウン症の人も成人した今は天才の面影ゼロ、新たな出会いも出世の兆しもなく淡々と郵送物のオフィス館内配送の仕事をこなしながら家に帰ると大好きな『アナと雪の女王』を見るだけの日々なんであった(とても他人とはおもえない)

そのうちに天才幻想を捨てて平凡な息子としてこの人と接することのできるようになった親の姿は傍目には微笑ましいが、今でもちょっとだけ息子の天才カムバックを期待するところがないわけでもないらしいのがなんか切ない感じである。
でも息子の方は今の平凡生活それなりに楽しそうだからな。『アナ雪』見る前にエルサのフィギュアを儀式的にライトアップするオタク仕草で確信しましたよ俺は。

オタク仕草といえばこの人が自前のエルサティアラを撮影クルーに自慢するショット、間の取り方が絶妙で笑ってしまった。
親の運転する車での移動中、後部座席でこの人とダウン症仲間二人が「我ら三銃士!」とか言って騒いでる時の親の渋い顔とかも最高である。
あれは確信犯的編集だろう。っていうか確信犯であってほしい。エモーショナルな音楽(ヨ・ラ・テンゴとニコ・ミューリー)とドラマティックな構成でなにやら生真面目に仰々しい映画だったが、別にそんな風に盛り上げないでも素の状態の人間撮ったらそれだけで面白いし、問題提起にも情報共有にもなるじゃんって思うので。

【ママー!これ買ってー!】


音のない世界で [DVD]

こういうドキュメンタリーにはいつもリンクを貼ってる気がするニコラ・フィリベールの聾唖ドキュメンタリー(いや良い映画なんだよ)

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