『くるみ割り人形と秘密の王国』見てきたよ感想

《推定睡眠時間:25分》

主人公クララのマッケンジー・フォイ、兵装に身を包んでススメー! なんてクルミ割り人形兵団に号令をかけているところアイドルみたい。渡辺麻友かと思った。背を背けてきたアイドル文化に屈したようで悔しいが可愛い…。

クララさんは大好きな母親を亡くしたばかりのヤングウーマン。メンタルに空洞ができてしまったので楽しいクリスマスなのにぼや~んとしていたが母親からの最後の贈り物を見て表情一変。
わぁ! なんか…よくわからないけどお母さんのだ! よくわからない卵形の…美しい金属細工の…なにに使うかはよくわからないけどとにかくお母さんが私にくれたものだ! やった!

その贈り物にはいかにもなメッセージが添えられていた。「この中にあなたの必要なものが全てある」そうと言われれば中身を見たくなってしまうが鍵が掛かっていて開かない。
置いておくだけで作品に風格が出る置物俳優の異名を持つモーガン・フリーマン演じるクララさんの祖父はエンジニア趣味者。フリーマンなら開けられるだろうと持っていったクララさんだったがこれまた意味深なメッセージをくれるだけで開けてくれない。

困った。これは困った。絶対開けたい。でも開けられない。お母さんとの思い出のいっぱいつまったお部屋にこもって考えあぐねていると…なんとお母さんのエンジニア的想像力が作り上げた機械仕掛けのファンタジィワァルドに迷い込んでしまったではないか!

本当はそこに至るまでがダラダラと長くて眠ってしまっているので詳細な経緯は知らないがまぁたぶんそんな感じだろう。とにかくクララさんイン・ザ・クルミ割り世界。きっとそこにお母さんのプレゼントを開ける鍵があるに違いないということで微妙なスケールの冒険が始まるのだった。
ちなみにモーガン・フリーマンは以後出てこずラスト直前に現れてまたもや箴言的な短い台詞を言うだけで出番が終わった。置物俳優の異名は伊達ではない。

以上のようなストーリーの映画っぽかったがそのへん良くも悪くも例のディズニーな感じなので特に思うところもなく、美術はそれなりに豪奢もイマジネーションと意外性に乏しく、クリスマス映画にしては随分淡泊というか古風というか、隅々まで完璧に整備されて逆に全然見所がなくなった観光地みたいな『オズの魔法使』バリエーションだなぁぐらいにしか思わないが、知って驚く原作の原作の原作E・A・ホフマン。

マジか。いや別にそこからデュマを経由しチャイコフスキーを経由し幾歳月を経てアクションファンタジー風に改作されたこの映画にその残り香はほぼないと思うが、ホフマンの名前はフロイトのせいで不気味の語とセットになってしまっているのでこんなところにホフマンが…の、サプライズがあったのだった。

でもそう言われるとブリキの兵隊のなんとも形容しがたい不気味さもどことなく腑に落ちるところがないでもない。
ホフマン作品をネタに不気味さの源泉を探ったフロイトの『不気味なもの』もちょっとだけ「生きているものに見える人形」のホフマンに頻出するモチーフに触れていた。

色々あって機械仕掛けの不思議の国を生を吹き込まれた(しかし物言わぬ)等身大ブリキの兵隊が闊歩するようになる。
その一糸乱れぬロボ動き、CGだと思うがディズニーが金出したクリスマス映画用の現代CGにしては妙に嘘っぽいっていうか、PSの初代『バイオハザード』のキャラみたいなポリゴン感。

ブリキのオモチャのアナログ的な挙動をローCGのゴツゴツした違和感で表現しようとしたのかもしれないが、この現実をシミュレートし損ねたような感じ。ベルクソンが滑稽さの根源と見る「生きているものの上に貼り付けられた機械的なもの(『笑い』原章二訳)」の、これは逆パターンだ。
ジリボンという人が書いた『不気味な笑い』は『笑い』と『不気味なもの』を『不気味なもの』からの次の引用で架橋する。

ある女性患者が次のように語るのを耳にしたことがある。その患者は八歳のとき、自分の人形をある仕方でじっと見つめさえすれば、それがいのちを帯びると思いこんでいたそうである。しかし奇妙なことに(…)それが不安の原因だったわけではない(同訳)

ブリキの兵隊に生を与えたのは誰か、ということを考えればなにやらディズニー的安全路線にグロテスクな人間心理が影を落としてくる。
基本こわい映画ではまったくないしあと別に面白くもないのだけれどもそこらへん妙に頭に残ったりしたな…。

ファンタジー版『トレマーズ』な場面もちょっと面白かったかもしれない。面白かったかもしれないがちょっとなので明日になったら忘れてるかもしれない。
モーガン・フリーマンを筆頭にお仕事感の醸しっぷりがすごい俳優の人たちは見ていて俳優って大人ってたいへんなんだなぁぐらいな感想ですが、俳優ではなく本職バレエダンサーとして出演のセルゲイ・ポルーニンとミスティ・コープランド、ぼくバレエとか皆目わかりませんがそこはやっぱさすがに目をパッチリ開いて見てしまったな。そういう映画でした。

【ママー!これ買ってー!】


Dr.パルナサスの鏡 (字幕版)[Amazonビデオ]

ファンタジスタのテリー・ギリアムが監督してたらこんなヌルい映画にならないのに、と一瞬だけ思いたくなったがギリアムにも『ブラザーズ・グリム』みたいな激ヌルいやつがあるから…『パルナサス』はヌルくないと思いますが…。

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