『ビサイド・ボウイ ミック・ロンソンの軌跡』を観た!

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グラムロック期のデヴィッド・ボウイを支えたギタリスト、ミック・ロンソンのドキュメンタリーで、俺がボウイにハマったの95年の『アウトサイド』からだからグラムロック期のボウイはアルバム自体は好きでも特に思い入れがなく…従ってミック・ロンソンのこともよく知らなかったのですが、いやぁ、ボウイ・サウンドを創り上げたのはミック・ロンソンと言って良いほどの大貢献っぷりじゃないですかぁ、すげぇ人だったんだなミック・ロンソン、ってなりました、映画観て。

生前のインタビューでボウイはお星様で(的な)俺はレンガ職人だから、みたいなことを言ってるミック・ロンソンですが、これ謙遜でもなんでもなく本当そういう感じの人だったんでしょうねこの人は。
スパイダース・フロム・マースとしてジギー期のボウイと派手なステージパフォーマンスもやっていたけれども基本的には職人肌の音楽家で、その志向は音楽を見せることよりも作ることに向いていた。

ジギー・スターダストの封印に伴うボウイとの関係解消後にジギー再び的な路線を狙ったプロデューサーの甘言に乗ってソロアルバム『十番街の殺人』をリリースするも商業的に失敗。
しかしその後はモット・ザ・フープルのイアン・ハンターに呼ばれて長らく活動を共にしたり、ボブ・ディランのツアーサポートで参加したり、晩年はモリッシーに乞われて『ユア・アーセナル』をプロデュースしたりと、あまり表には出てこないが裏方で八面六臂の大活躍。

ルー・リードの『トランスフォーマー』をプロデュースした際のエピソードがそのロック職人っぷりをよく伝えていた。
ミクロンがスタジオに入ってくるとそこにはマリファナ・クッキーでヘロヘロになったルー・リード。チューニングもロクにせずにこれでオッケーなんて適当に言うもんだからよくねぇよっつってミクロンは怒ったんだとか。

ボウイとかルー・リードみたいなロック傾奇に対してミクロンは常にロック堅気であった。逆にというか、ギタリストのみならずアレンジャー、プロデューサーとしてトータルで楽曲を捉えることのできたミクロンの強靱な音楽的支柱があったからこそボウイも独自の美学に任せて傾くことができたんだろう。

クレジットには入っていないが『世界を売った男』の作曲にはミクロンもかなり関わったらしい。リック・ウェイクマンが“ライフ・オン・マーズ”におけるミクロンのアレンジがいかに素晴らしいかピアノで弾きながら解説する場面には何かがこみ上げてきてしまう。

映画の完成はボウイ死後の2017年だがナレーションはボウイ。結構前から制作が進んでいたのか、別のプロジェクトで録った素材を転用したのかは知らないが、ともかくあまり踏み込んだものにはなっていないのでボウイがミクロンをどう思っていたかがよくわからない。
それは劇中に引用されるミクロンのインタビューを見ても同じで、一時代を築いた盟友にしてはお互いに案外素っ気ない感じなのだが、そのへん音楽的同志というよりはビジネスパートナーとしての意識が強かったからなのかもしれない。プロの矜持を感じてまた何かがこみ上げてきてしまう。

ミクロンのキャリアを総括するドキュメンタリーとしてはボウイ周辺のエピソードに時間を割きすぎているような気もするし、コカイン使用疑惑がにわかに浮上するボウイの元妻アンジーの老齢ハイテンション語りは笑わずにはいられない面白さだがミクロンのドキュメンタリーでそこ推すのかよ感もあるし、あまりバランスの取れた良く出来た映画だとは思わないが、こういうのはもう良いとか悪いとかそういう話じゃないので、映画のラストを飾るフレディ追悼コンサートで共にステージに立って“ヒーローズ”を披露するボウイとミクロンを見て(あぁもうみんな鬼籍に入ったんだなぁ)と素直に泣いて帰りました。

あとジギー封印に至った理由の一端はジギーのアメリカツアーに参加したマイク・ガーソンが薄給でこき使われていたスパイダース・フロム・マース側に自分の高額ギャラをバラしてしまったことにあったっていうエピソード、非常にグっときました。火星人もお金で揉める!
そのあたりのエピソードでボウイの冷淡さというか周囲の人間への興味の薄さもちょっと炙り出され、もとより内省的なアーティストではあるが、ボウイ関連ドキュメンタリーでボウイのヨイショに終わらずその暗部にもちゃんと触れるっていうのは俺はにわかボウイファンとして嬉しかったです。
監督のジョン・ブルーワーは若かりし頃のボウイのマネジメントをしていた人物だそう。当事者ならではの視点だろう。

※ちなみに渋谷のシネクイントで観たらロビーにその時のミクロンのステージ衣装がしれっと展示されており、キャプション的なものを見ると吉井和哉提供。なんでも本人に直接もらったらしい。ボウイ好き過ぎるだろ。

【ママー!これ買ってー!】


ビサイド・ボウイ:ザ・ミック・ロンソン・ストーリー ザ・サウンドトラック

サントラというかミクロンのベスト盤みたいなやつ。この選曲がミクロンのベストとして良いか悪いかは俺には判断しかねるのですが、2019年に本邦でミクロン名義のアルバム(※マイク・ガーソンのオリジナル・トリビュート曲もあり)がリリースされたというミック・ロンソンの軌跡ならぬ奇跡を素直に喜びたい。

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