《推定睡眠時間:45分》
物語のだいたいは寝ている間に進行しているのでどのような事情があったか知らないが、目を覚ますとニューヨークの巨大遊園地経営者みたいなやつ(マイケル・キートン)に我らが貧乏サーカス団が買われてしまっていた。
どうやら経営者の狙いは貧乏サーカス団の所有するダンボらしいのでこれで貧乏から脱出だと期待に胸を膨らませていたサーカス団員たちはあっさりクビを切られてしまい…ってこれディズニーが今20世紀FOXに対してやってることじゃないですか…!
なんというシンクロ。おかげでたぶん平時の3倍くらいおもしろく観られてよかったですけど。
オリジナルの方の『ダンボ』は観たことがないから比較してどうなのかはわからないので、わりと観ているティム・バートン監督作として良悪判定。
結果、とても良かったんじゃないすかね。いや全然良かったですよ。遊園地、見世物(サーカス)、フリークス、孤独な悪役、色の乱舞、チャイルディッシュな悪意の発露…バートン映画的な要素がいっぱい。
各種宣伝で見るCGダンボは目とか怖いしぶっちゃけキモかったが、見ているうちに死ぬほど可愛くなってくるバートンマジック。サーカスの演目のひとつのバブルショー(バブルがバルーンアートみたいに色んな形になる)を見ながらうわぁって顔でリズムを取ってしまうダンボとか超やばかったですね。
しかも可愛いで終わらず飛ぶからなダンボ。いやそれは言わなくても誰もが知ってると思うんですけど、耳のでかいゾウが空を飛ぶだけでこんなにときめいてしまうなんて思わないよねぇ。
母親ゾウと離ればなれになったダンボがその体躯には狭すぎるサーカステントを突き抜けてさ、バッサバサと夜空を舞いながら母親ゾウを探すんですよ。このときの哀感と反面の開放感たるや。
虐げられたフリークスがそのフリークス性を個性として普通人よりもずっと高く飛翔するっていうのバートンが繰り返し描き続けるモチーフですけど、それが今回すごく良い形で出てきたなーって感じで二重にグっときてしまったな。
バートンの前作『ミス・ペレグリンと奇妙な子供たち』は嫌いではないけれどもこの人の持ち味がそんなに出ていた気もしないので、バートンこれで完全復活だ。
サーカスにどうぶつを使うのはいかがなもんじゃい的な世の風潮をおそらく汲んで、囚われたダンボの物語をどうぶつ解放物語として再構築したシナリオもバートンの主題と世間の望みが一致している感じで大変よくできていたと思うが、どうぶつの解放を通してバラバラな方向を向いた人間が同じ方向を向いて、でまたそれが人間の解放に繋がるっていうあたりも実に巧み、多重構造の人間ドラマとしても面白かった。
人間側の主人公コリン・ファレルは戦争で片腕を失ったサーカス団員。失ったがために馬乗り芸人だったかつての自分の形に固執して、本当はサーカスの外に出たい子供たちに自分と同じようにサーカス芸人として生きるよう命じる。
この子供たち、とくに娘の方は母親を失ってだいぶ意気消沈していてっていうわけで、ダンボと娘は相似形を成す。コリン・ファレルはそうして自分から離れていく娘の心を繋ぎ止めるためにダンボを救うことで、同時に娘を救いながら過去に囚われた自分自身をも救うというわけですね。
そのコリン・ファレルが身を寄せるのが全米を機関車で巡業する見世物サーカス団。機関車が白煙を上げて沼沢地を突っ切るオープニングのCG空撮に心が躍る(ダンボ目線に合わせてかバートン映画に珍しく俯瞰的なショットが多い)。だが行く先々で子供たちをニッコニコのワックワクにしていくサーカス団の実態は世間に馴染めない貧乏ポンコツ人間の集まりでしかない。
そのギャップでもうグっときてるのにクライマックスでは悪辣経営者からダンボを救うべくポンコツ人間たちが一念発起、サーカスで培ったインチキな技芸をここぞとばかりにフル活用して戦うのだから最高と言うほかない。
音楽はもちろんのダニー・エルフマン、悪辣遊園地経営者はバートン版『バットマン』だったマイケル・キートン、口は悪いし人使いは荒いがどこか憎めないところのあるサーカス団長はダニー・デヴィート…ってペンギン! ダニー・デヴィートといったら『バットマン リターンズ』のペンギンじゃないですか。
バートン史上最哀の怪作『バットマン リターンズ』で孤独に戦っていたペンギンとバットマンがそれぞれ組織のリーダーとして、キツネを飲み込むネズミを映画の背景に、一匹のゾウを巡ってリターンマッチに出る映画なのだからなんだかバートン祭りみたいなすごい話だ、『ダンボ』。いろんなどうぶつ絡みすぎ(故意に絡ませすぎ)。
そこに盲目ヒーロー映画『デアデビル』でバカヴィラン・ブルズアイを怪演のコリン・ファレルも絡むわけだからちょっと笑ってしまうが、ブルズアイはさておき『ダンボ』のコリン・ファレル、陰影に富んだ心情表現が素晴らしかった。屈折した役柄がこの人は本当によく似合う。ダンボの飛翔は当然としても、片腕コリンが必死で高いところによじ登る場面もなかなかに琴線に触れる。
なにかに欠けた生きもの(含人間)たちが別のなにかに欠けた生き物と連帯して、決して同化することなくあくまで別々のものとして助け合う。なんてすばらしい『ダンボ』。
と、イイ話っぽく感想を終えようとしたものの、やはり一番燃えたところはそんな訓話みたいなストーリーではなくマイケル・キートンが経営するニューヨークのデ○ズニーランドが火を噴いてド派手にぶっ壊れるところだったと素直に記しておく。
ファッキンデ○ズニー拝金主義。元ディズニーアニメーター、ティム・バートンがディズニー大資本に怯まずゼロ忖度で放った渾身の火矢、最高でしたなぁ。
【ママー!これ買ってー!】
映画版のバットマンで一番好きだしたぶんこれからもずっと一番好き。
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