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映画が始まる前に「この作品には麻薬取締法違反により逮捕された人物が出演していますがご了承下さい」みたいなテロップが出て観客の何人かに乾いた笑いを提供していたが、三池崇史の映画のようだとの風評を事前に耳にしていたのでこれもなんだか三池っぽい演出(?)に感じてしまった。
三池初期の『極道戦国志 不動』も本編入る前にこういうテロップが出るじゃないですか。「この作品は映倫によりR指定を受けた。映画館の暗闇の中で息を殺して、しかと目に焼き付けるべし」とかそういう。
入りがそこからなので後はもう何を見ても三池崇史の悪ふざけに感じてしまう。監督は白石和彌ですけど脚本には『牛頭』とか『殺し屋1』で三池と仕事をしている佐藤佐吉がクレジットされてますしね。2020年TOKYOの近未来描写のバカバカしさとか『DEAD OR ALIVE FINAL』で見たような既視感あり。それは佐藤佐吉関わってませんけど。
でも三池は三池でもこれはかなりダメな方の三池で、かなりっていうか完全にダメだろう。いやもうダメだろうこれ!
ちょっと混乱してどこからダメさを書けばいいのかわからないので気持ちを落ち着けるためにもストーリーを整理してみよう。ちなみに俺は麻雀まったく知りませんからそのへんはわかってくれ。
終戦直後の1945年、命を削って麻雀に打ち込んでいたギャンブル狂の哲(斎藤工)はふと気が付くと2020年の浅草にタイムスリップしていた。
突然のことに状況が掴めないが偶然出会った貧乏アイドル兼メイド麻雀嬢のドテ子(もも)なんかから話を聞くになんでもこの2020年ジャポンは前年に戦争があり(詳細不明)、そのせいでオリンピックは返上。どうやら哲は戦後から戦後へとひとっ飛びしてしまったようだ。
困った政府の頼みの綱は人工知能。AI立国AI復興だということで日本のスーパーAI技術のデモンストレーションとしてディープラーニングで超強くなった麻雀AI搭載アンドロイド(ベッキー)に名だたる雀士と戦ってもらう麻雀オリンピックが計画される。ちなみにこの2020年日本はアンドロイドキャバクラとかアンドロイド風俗とかが普通にあるぐらいにはアンドロイドが浸透している設定(ただし女型のみ)。
麻雀オリンピックの開催を知った哲は驚愕する。そのアンドロイドは1945年の哲が思いを寄せていた雀荘のママに瓜二つだったのだ。これは闘うしかない。
1945年に戻るためにも(麻雀でなんかの役を作ったりすると戻るんです)、ママに一人前の男として認めてもらうためにも!
いやシナリオは最悪それで良いとおもうんですけどなにがダメかってずっとふざけちゃってるのが本当ダメだと思ったよ。
だって三池崇史のバカ系バイオレンス映画は超バカな設定とか突飛なギャグとか常軌を逸したテンションでぶっ込んで来ますけどドラマの核にはアウトサイダーや虐げられた者の情念とか哀感がちゃんとあるんですよ。
どんなにバカなことをしていてもそれは揺るがないからギャップでバカが引き立つし、逆にバカはドラマを劇的に高めるっていうもので、バカと真面目の弁証法があるんですよ三池崇史の映画には。
でもこの映画にはそれがない。俺にはなかったように思えた。斎藤工のキャラクターはもっと悲哀を背負っていてもよかったし、斎藤工に恋するドテ子の心情にはもっと踏み込んでもよかった。パーソナルモビリティ移動で未来を演出、みたいなチープさは人間ドラマがチープであることの根拠にも言い訳にもならないと思うのですが。
俺はこの監督とは感覚が合わないのかもしれないなぁ。『孤狼の血』もダメだった。それは第一には東映実録路線のオマージュとしてやっていると思しき映像がことごとく露悪的なパロディに見えて仕方なかったからだし、それから第二に、やっぱり人間ドラマにハリボテっぽさを感じてしまった。
東映実録のオマージュと言うのであればもっと人間の泥臭いリアリティを追求しないと嘘じゃないすか。いやべつにここ『孤狼の血』の悪口を書くコーナーじゃないからそれ以上は控えますけど、そういうところ、面白くないを通り越して不快ですらありましたね。
『麻雀放浪記2020』に話を戻すと、これは場面場面で画質が落ちてノイズが入ったりするという演出が施されていたりする。俺の想像ですが『孤狼の血』が東映実録オマージュならこっちは三池崇史に代表されるような90年代フリーダムVシネのオマージュが入ってるんじゃないすかね。
それはそれで結構ですけれども見た目だけ真似して中身がなおざりじゃあ仏作ってナントカカントカでしょうよ。ベッキーとか瀧とか出るからやらかし芸能人の復活編としてバラエティ的に受け止めればいいのかもしんないすけどねぇ。後者は偶然そうなっただけですが。
なんか、そういう映画だった気がしてきたな。麻雀格闘倶楽部にハマってゲーム廃人になる哲の姿とかを見てただ笑ってればいいのか。あそこおもしろかったですよ、あはは。ふんどし姿も見れて斎藤工ファンなら感涙だ。きっと。
この公開規模の映画でこの公開タイミングだと追撮とかは現実的にありえないだろうと思うのですが、某ピエール事件を受けて追撮されたとしか思えない一連のシーンも笑ってしまったよな。
昭和哲の芸名で芸能界デビューしてその奇抜なキャラクターで一躍時の人となった哲が「賭博法違反」で逮捕されてワイドショーに「あの人気タレントが逮捕!」的なテロップが踊るという…ちなみにピエール瀧はびっくりするほどどうでもいい端役でした(出演シーンを全カットしても支障ゼロのところをあえて残した判断は全力で支持したい)
基本、そういうバラエティ映画だと思うのですが、雀鬼・小松政夫だけはギャンブルに憑かれた人間の恐さを漂わせていてよかった。そういうの俺はもっと欲しかったんだけどなぁ。
【ママー!これ買ってー!】
こんなに荒唐無稽で不道徳でも『不動』にはポエムがあって、でも白石和彌にはそういうのが本当に無いんですよ。
↓原作扱いにしてしまっていいのか?