《推定睡眠時間:5分》
オリジナル版の禍々しさは微塵もないがそこそこ怖かった。『リング』と(そして『女優霊』)の中田秀夫が監督に復帰しているとはいえ最近の中田秀夫ホラーは映画館を出たらおいしくご飯を食べてゆっくりお風呂に入ってさっさとトイレを済ましてスヤスヤお布団で眠れるおそろしい程に鑑賞者のこころに爪痕を残さない安心安全ホラーに成り下がってしまったのでこれも『リング』レベルの恐怖感なんて望むべくもないが、とはいえ中田秀夫の去年のサスペンス話題作『スマホを落としただけなのに』がおかゆレベルの胃に優しい恐怖度だったことを思えば全然マシ、『リング』の恐怖度がハバネロなら『貞子』はペペロンチーノぐらいにはなっていただろう。
それに『貞子3D』『貞子3D2』『貞子VS伽椰子』とテン年代に入って急激にネタキャラ化、イベントムービー化が進行していた貞子と『リング』シリーズですよ。『貞子VS伽椰子』はそれでも監督が『コワすぎ!』の白石晃士だからなんやかんやちゃんと怖いホラーになっていたが、『貞子3D』とかは監督が『あさひなぐ』とか『賭ケグルイ』の英勉ですからね。観てないけどどうやっても怖くなりようがないだろうそれ絶対。あと今シリーズ作一覧を見ていたら出てきた『がんばれ貞子ちゃん THE 3D ANIMATION』ってなに!?
…ともかく、そんな中で貞子を大胆にもタイトルに持ってきたシリーズ最新作なのだ。たとえそこそこの怖さでしかなかったとしてもネタに逃げず正攻法でホラー映画をやっていたこと、貞子をあくまで恐怖の対象として描いていたこと、それだけで観る価値はあるというものだし怖さだって5割増しだ。5割増しは言い過ぎかもしれないが2割増しぐらいにはなっていただろう。いや、2割増しも言い過ぎかもしれませんが…でもからあげクン一個増量くらいにはなっていたはずだ。嬉しいでしょう、5個入りの普通のからあげクン買ったつもりがキャンペーン中で6個入ってたら。嬉しいでしょう…。
関係者でもないのに誰に向けてのものなのかわからない弁解から感想に入る姿勢。なんとなく察して欲しい。ここからどんな映画だったか察して欲しいがいやでもね! 面白かったですよ! 怖かったし面白かった! 完璧じゃないけど全然良かったと思うな! あわやライセンス商材というところで貞子は無事中田秀夫に救出されました!
正直に言えば! 正直に言えばぶっちゃけかなり物足りなさはあるのだが! でもこの先あるかもしれない続編で化けるかもしれないから俺は褒めて伸すよ! 伸すんだよ!!!
ていう意識は少なからず製作陣にもあったと思われシナリオ的には原点回帰、一応鈴木光司の『リング』シリーズ作『タイド』を原作に仰いでいるし『リング』『リング2』の登場人物がひとり同じ役柄で続投していたりするが、実質的にはほぼリブート。
すなわちサイキック・ミステリー路線。貞子のキャラを前面に出すんではなく霊能力&超能力を持ったひとりの謎少女を軸に様々な怪異が発生、探偵役がその痕跡を辿っていくと怪異の震源に貞子がいた、というような筋書き。ちょっとしたサイコ感も含めて映画版の『リング』よりも飯田譲治の単発テレビ版だとか連続ドラマ版の方に近い印象があったかもしれない。
YouTube的な動画サイトのコメントを読み上げ処理するなど説明過剰のきらいはあるが中田秀夫の演出はおおむね手堅く、これをリブートとして考えるなら『リング』シリーズの世界観を手際よく再構築していたと言えるんじゃないだろうか。
突発的なショック描写は古典的にも程があるが使いどころを絞ってそれなりに効果的。時代の変化に合わせて今回貞子はYouTube(的な)動画に出現するが、YouTuberの背後にぼやりと映り込む貞子は結構怖い。なるほどオリジナルではビデオテープの粗画質が貞子恐怖に一役買っていたわけですが、今回はYouTuber撮影の粗映像とYouTubeの低画質がそのアップデート版になっているわけだ。
ただ惜しむらくは手際が良すぎるというか…上映時間99分、この内容で明らか短いっすよね…。物語のメインは若手心理カウンセラーの主人公(池田エライザ)のYouTuber弟捜しで、そこに彼女が担当することになったサイキック謎少女とか弟をYouTuberに仕立て上げたいかがわしいネットビジネス野郎(塚本高史)、彼女に異様な執着を見せる貞子パニック経験者の患者、が絡んできた上に呪いのYouTube動画の拡散、伊豆大島の黒歴史と貞子生誕の秘密が背景として描かれる。そんなの99分で収まるわけがないので結果、全部中途半端なダイジェスト版のようになってしまった。
それはシナリオの責任もあるが演出面にも不満はあって、YouTuberの心霊スポット潜入動画とか怖いところはちゃんと怖いが基本的に画面明るすぎ、あと音うるさすぎ。Jホラー、暗くて静かだから怖いんじゃないすかねぇ。今はもうそういう時代じゃないからってことの可能性もありますが、クライマックスとかなぁ、あそことかやっぱちょっと喋りすぎだし見せすぎですよねぇ。暗闇の中でわけわからんものが蠢いてる、ぐらいの見せ方で良かったんじゃないすかねぇ。
そこらへんはとにかく全然怖くなくて、でまたシナリオ的にもやっつけ的な駆け足感で、途中まではわりと良かったんですけど終盤は本当ガクーっとした。
までもトータルではやっぱそんな悪い映画とは思えないとフォローしておく。説明的な絵面も詰め込みすぎのシナリオも客を置き去りにせず飽きさせまいとするサービス精神の現れと好意的に解釈…するには多少トリッキーな思考が必要かもしれないが、ともあれここからガチ系サイキック・ホラーとして『リング』が再始動するのなら、それぐらいの粗は必要経費みたいなものだろう。
だから続編ちゃんとやってくれ、マジで(ちゃんとにアクセントを置いて)
補足:
あと女王蜂のエンディング曲はほのかに退廃のかほりがあって大変よろしかったです。YouTuberのつまらなさがリアルだったのも良かったですね。廃墟化した火災現場に潜入した再生数5000程度の雑魚YouTuberが言う「みなさん分からないと思いますけどすごい臭いです。そのまま火事って感じの臭いだなぁ…」みたいな気の利かない糞台詞、超YouTuberっぽい。
【ママー!これ買ってー!】
階調の乏しい安っぽい映像が和テレビドラマを思わせたので図らずも(おそらくは)飯田版『リング』のオマージュのようになってしまった。
↓一応原作にクレジットされてはいるが