《推定ながら見時間:35分》
飯食いながら見ちゃったよ。吐いたゲロの中に線虫が蠢いていたり腕を掻きむしったら中から寄生ゴキブリがわっと溢れ出す映画なのに…後悔。そして一時停止。もう全然おいしく感じられないとろろそば(最悪の飯チョイスだ)を無理矢理に胃に押し込んでちょっと雑誌を読むなどして思考を切り替えたのち、視聴再開。すると話は思いもよらぬ方向へ…。
二転三転するストーリーが云々とネッフリの番組紹介にも書いてあるからそれぐらいはネタバレに当たらないだろう。虫こわい系じゃなくてネッフリお得意のどんでん返し系でした。二転三転どころか四転五転。主人公の女の人がレズビアンというかなんというかなのでパク・チャヌクの『お嬢さん』などを彷彿とさせられたりする。そういえばチャヌクの盟友ポン・ジュノの今年のカンヌ・パルムドール受賞作は『寄生虫』の題でしたな。とくに関係はないです。
将来を嘱望されつつも母親の介護のため引退を余儀なくされた主人公の元チェリストが母親の死を契機にかつて籍を置いていた名門音楽学校の入門コンテストにやってくる。
そこで彼女が出会ったのは彼女を慕う同門の後輩女性チェリスト、ふたりはすぐさま意気投合してベッドイン、翌朝にはそのままコンテスト開催地の上海から飛び出してふたりだけの中国旅行に出かけてしまう。ちょうどその頃、中国南部で奇病発生の噂が上海市民の間で囁かれていた。
全然違う映画なので比べるものではないとは思うが思い浮かんでしまったからにはつい『お嬢さん』と比べてしまう。う~ん、『パーフェクション』、なんというか…肉が足りないっすね、肉感が。
展開が転々するのは良いがいかにもシナリオありきの淡泊演出でなんとなく身が入らない、するとシナリオもどんでん返しありきに見えてきてその強引さばかりが目についてしまう。
どんでんポイントを通過する毎につまらなくなってくるっていいのかそれ。斬新だけど映画としていいのか。そりゃまぁ一応面白いシーンもありましたよ4どんでんぐらい通過した後半にも。しかしそれにしたって随分とケレン味を欠く見せ方で…そのうえ登場人物の感情を丁寧に拾った演出ができていないので盛り上がらないことこの上ない。
せめて主人公のメンタルの機微にはもう少し敏感であって欲しかった。っていうかそれが蔑ろとは言わないがかなりざっくり処理されているからどんでんカタルシスがないわけで、展開に感情的説得力もないわけで、シャマランの映画とかと比べるとそのへんよくわかりますが、どんでん返し系映画で大事なのはどんでん返しよりも人間をしっかり描くことなんだなぁと思わされた次第、です。
以下、ネタバレ感想。
さて薄汚いバスに乗って旅行に出たチェリスト二人だったが案の定後輩の方が奇病に感染、車内で線虫ゲロ吐いたり窓ガラスを頭突きで割ろうとしたりして乗り合わせた他の中国人観光客たちがめっちゃ(いやマジ勘弁してくれよ…)っていう顔をし始めたので気性の荒い運転手にバスから降ろされてしまう。
降りたところで後輩の病気は治らず近くには道路以外の人工物はなにもない。パニックに陥った後輩が腕を掻きむしるとそこから寄生ゴキブリが! うぎゃあ! チェリストの魂たる腕がゴキブリに包まれ精神崩壊のカウントダウンに入った後輩に主人公はどこからか取り出した中華包丁を差し出す。「何をやるべきかわかってるな!」えっ!
こうして後輩は腕をセルフで切り落とすのだったが実はこれ、主人公の仕組んだ罠なのだった。母親の介護に使っていたアルコールと同服することで幻覚の副作用のある睡眠薬かなにかを首尾良く後輩に飲ませた主人公は奇病の噂を利用して後輩の思考を病気に誘導、吐いたゲロの中に本当は線虫なんていなかったし掻きむしった腕の中に寄生ゴキブリなんて存在しなかったが、見事そう思わせて自らの手を汚すことなく後輩の腕を切断することに成功したのだ。
一体どうしてそんな残虐かつ回りくどい上に難易度の高い乱歩『赤い部屋』みたいな犯罪行為を…といえばこれがまさかの動機、主人公が身を置いていた名門音楽学校ではパーフェクトな演奏を身につけさせるための厳しいシゴキと指導と称する性的虐待が行われており、自らもその被害に遭って人生をめちゃくちゃにされた主人公は後輩の将来を慮って彼女を音楽学校の魔窟から救うべく、そして性的虐待の主犯である変態校長に一矢報いるべく事に及んだのだ。(えー!)
腕がなければチェロは弾けない。チェロが弾けなくなった彼女を冷酷な変態校長は容赦なく学校から追い出して、ここでも主人公の目論見通り。そうでもしなければ校長の洗脳は解けないから、というわけだがもうちょっとソフトなやり方あるだろ…とか言ってはいけない。言ってもいいけど言うと楽しくなくなる。元からそんなに楽しい映画ではないかもしれないが。
最後に残ったのは変態校長への直接復讐だ。ようやく洗脳が解けた後輩は主人公と一緒に校長を襲撃、両手足を切断・止血してふたり絡みながらの連弾的演奏を見せつける。これこそ愛の勝利、正義の勝利、そして音楽の勝利だ。たぶん間違っているがそういうことにしておきたい。
…こうやって書き出してみると面白そうに思えてくるな。たぶん、シナリオは面白かったんだろう。中国の寄生虫からボストンの変態音楽教師って普通繋がらないもん。そこびっくりするよね。最後のダルマ演奏会だってエグくも美しい素晴らしいシーンだ。
結局、映像力がシナリオ力に伴っていなかったんだろうな。もうちょっとでも映像に力があったらだいぶ印象も違ったかもしれない。仏作って魂入れずというか、その勿体なさ、いかにもネッフリ独占配信映画ぽかった。
【ママー!これ買ってー!】
パク・チャヌクの映画だったらこれも道具立てに『パーフェクション』と似たところがあった。