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シリーズ1作目の『パージ』より面白くて3作目の『パージ:大統領令』よりは全然面白くて2作目の『パージ:アナーキー』よりは面白くなかったシリーズ第4弾にしてエピソード0。『大統領令』のラストでパージ法の撤廃が示唆されていたのでやっと終わったかと安心していたら過去に戻ってしまった。
もうパージで飯食えないって、そろそろコンテンツ自体をパージしろって…と俺としては思うが去年には配信ドラマ版まで作られちゃってシリーズを創造したジェームズ・デモナコ(今回は製作と脚本で参加)はまだパージで頑張るっぽい。じゃあ、もう、逆に頑張れ。せいぜい頑張りたまえ…。
さてパージです。パージとは! 説明は不要かと思うが一応書いておくと1年に1回、12時間だけすべての犯罪が合法になる法律の通称。パージを実施するとみんな好きなだけ人を殺したりして日頃の鬱憤が晴れるのでアメリカが健康になるそうです。そんなわけあるか。
そのパージの夜の恐怖を描いた1作目はぶっちゃけ設定倒れの単なるつまらないホーム・インベージョン映画であった。いや単なるつまらないは言い過ぎかもしれないが基本的に低予算で出来る限りやりましたよみたいな映画だから…パージの設定のポテンシャルを引き出せていたとは言い難いよね。っていうか全然言えないと思います。
ところが。舞台を一軒家からパージ下の街全体に拡大した続編『アナーキー』はこれがパージの設定に見合った映像だろう! ストーリーだろう! 今度は戦争だろう! というアナーキー&凶悪路線に舵を切った。
パージ法でみんな平和になりました的なそんなわけあるかのツッコミも実はその裏では…ってな形でシナリオに上手いこと組み込んで、今後の展開も楽しみな快作に仕上がっていたのだった。なお『アナーキー』に続く3作目『大統領令』の感想は省略します。
『パージ:エクスペリメント』はエピソード0なので描かれるのは全米が対象になるお馴染みのパージ施行前の実験パージ、ニューヨークのスタテン島を12時間だけ封鎖して金で釣った参加志望者の住民にそん中にいてもらう。元々『ウォリアーズ』とか『ニューヨーク1997』のパク…影響の顕著なシリーズだったが、いよいよそのまんま(マンハッタン島全体が監獄になって送り込まれた犯罪者が殺し合う)『ニューヨーク1997』になってしまった感じである。
ネタ切れじゃないのか。大丈夫なのかデモナコ。まぁ面白かったから大丈夫でしたが。
面白かったのはエピソード0なのでシリーズとの繋がりの部分でしたね。今回も相変わらず薄っぺらくて細部に拘らない大味なデモナコ脚本だったわけですが後出しじゃんけんとはいえ、パージが初めっからインチキだったことを見せるのはシリーズ3本見た後ではなかなか感慨、ポスト・トゥルース時代の安直な風刺としてそれなりに効いていた。
実際にパージ実験を初めてみたら意外とみんな大人しく、政府の思惑に反して暴行とか殺人とか罪重めの犯罪には手を付けないでパーティやったり教会に籠もって身を守ったりたまに強盗したりする程度、という皮肉はこれ単体で見れば流血騒ぎを期待するこっちにしたらガッカリ要素でしかないが、こういう時にシリーズの積み重ねが物を言う。
1~3作目で描かれた人心の荒廃した合衆国は決して自然に出来上がっちゃったわけではなく作られたものであった。意外と平和なパージ下のスタテン島に活を入れるべく政府の担当者は傭兵軍団を秘密裏に投入、その映像を参加者の住民同士の殺し合いと称して全米に配信することでパージ良くないっすか? 殺し最高じゃないっすか? みんなやってるじゃないですか! と実験結果をわかりやすく捏造。
かくして時の政権は実験大成功パージ万歳といってその対象を全米に拡大、1~3作目の惨劇に繋がっていくオチなのでなかなかピリっとした後味を残すのだった。
『アナーキー』で初登場して『大統領令』で大暴れのブラックなレジスタンスの起源がサブストーリーとして描かれていたのもよかったな。ギャングだったんですな、スタテン島をシマとする。これも後出しなのだがそう言われればなるほど、『大統領令』で組織力と武力が豊富すぎたのもなんとなく納得してしまいたくなる。
そのへん、金持ち白人どもにシマを荒らされたブラック・ギャング&ブラック貧困層がその野望に立ち向かう武闘派ブラックスプロイテーション映画としても観れてなかなか痛快だった。『アナーキー』とか『大統領令』に比べれば規模的にはだいぶショボくなるが白い傭兵軍団(※ロシア語を話します)とブラック・レジスタンスのしっちゃかめっちゃかなアパート決戦は見物。
監督がジェームズ・デモナコからジェラード・マクマリーという人に交代したせいかこれまでのシリーズ作に比べてだいぶアクションにキレが出てサスペンスにはケレンが出た。
それを生かすシナリオにはなってないので物足りなさもあったりするが、ラップのサントラなんか乗せて細かいところはあんま気にせず(スマホで他の参加者と連絡する場面があるのでそれで外部に傭兵軍団の真実を伝えてやればいいのに…とか)ノリで乗り切るので最後まで楽しく見れる。これだったな、このノリが足りなかったよ『大統領令』とかは。
最初は平和だった実験参加者が徐々にパニックに陥って対立するようになるあたりは『CUBE』系列の密室実験サスペンスの趣もあり、ぶっちゃけ観る前はもう打ち止めでいいだろうと思っていたが、ここへきてちょっとまたシリーズのポテンシャルを感じてしまった『パージ:エクスペリメント』であった。でもまぁもう続編はやらないでいいとおもいます。
補足:極限状況でも汚ねぇジョークばかり飛ばしているウーピー・ゴールドバーグみたいな人、最高。
【ママー!これ買ってー!】
未だ衰えない『ニューヨーク1997』の厨二吸引力。
↓シリーズ作