映画これぐらいでいいじゃないですか感想『ペット2』

《推定睡眠時間:0分》

個人的に今いちばん新作が観たいアニメーション・スタジオはイルミネーションなので映画の冒頭、正確には併映ミニオンズ短編『ミニオンのキャンプで爆笑大バトル』が始まる前のムービング・ロゴに出てきたミニオンが万感の思いを込めてイィィィルミィィィネェェェェェイショォォォォォォォンンンッッッッッ! と叫んだ瞬間に俺も一緒に心の中で叫んでました。

いや待ちましたよ。前のイルミネーション映画が去年12月公開の『グリンチ』、これがまぁ悪い映画とは思いませんけど俺がイルミアニメを楽しみにしているところの悪童感が『グリンチ』という恰好の題材にも関わらずかなり薄味、12月になったら『グリンチ』だ、12月はイルミの『グリンチ』が公開されるんだ…と半年ぐらい前から待ち望んでいたものだからこれにはちょっとガックリきてしまった。

それで次のイルミアニメはなんだろうと思ったら『ペット2』でしょ。その報を知ってまたちょっとガックリきてしまう。そうだよなぁ『ペット』ヒットしたもんなぁ。『グリンチ』も悪童精神よりもファミリー向けのほんわかを取ったわけだからイルミ、守りに入ってしまったのだろうか。はぁ。
そんなわけで大好きなイルミの新作にも関わらずかつてないローテンションで映画館に入ってスクリーンをダラァっと眺めているとそこに飛び込んできた例の感極まったミニオンの叫び。

あぁ、帰ってきた。これを待っていたんだと思いましたよね。そのミニオンズ短編はシンプルで騒がしくて底抜けに陽気で下らないCGカートゥーン、『グリンチ』は併映短編『ミニオンのミニミニ脱走』まで今ひとつ抜けが悪いというかはっちゃけない出来だったので、健気に暴走する元気なミニオンズを見ただけでもうノリノリ、守りに入ってなんかいなかった、イルミはやっぱりイルミだった、と嬉しくなってしまう。

守りに入っていないと言いつつ『ペット2』はまったく取るに足らないが心から愛すべき小品だった前作からほとんどお話のスケール感が変わっていないし映画の深度だって変わってない。
守りやないかの脳内ツッコミに脳内シャラップ。わかってないな! 大ヒット映画の続編ものといえば無駄にスケールが大きくなって無駄にキャラクターの複雑な過去が明らかになって無駄に「深く」なるのが定石!

でも『ペット2』はそんな気負いが全然ない。立派なことではないですか。ペットたちのささやかな冒険と成長をタイトにまとめて上映時間正味86分。ありがたいお説教も(昨今の大作アニメにありがちな)エンパワーメント要素もなにもない。笑って観て笑って帰って次の日には忘れちゃってねって感じです。この軽妙洒脱よ。守りじゃないんだよこういうことの方が挑戦的な映画作りなの。
映画なんて花火みたいなもの、とは鈴木則文の言ですが、お客さんをただ楽しませるだけの単なる娯楽であろうとする映画はうつくしい。これ見よがしの表面的な「深さ」よりも、そんな浅さの方がハートに深く食い込むことだってあるのだ。

それにしてもこの潔さは特筆ものだ。びっくりしたよ冒頭5分で主人公の犬マックスくんの飼い主ケイティさんがよく知らん男と出会って結婚して妊娠して子ども産んで子どもが幼稚園行くぐらいの歳になるから3年ぐらい経過してますからね。ある? この早さ。
少なくともディズニーアニメとかだったらやらないですよね。そこ人生の大事なところだからっつって結構長い時間割いてキャラの揺れ動く心情を丹念に掬い取っていくと思うんですよ。

でも『ペット2』は前作同様そういうのやらない。だってこれペットの映画、ペットが主役。人間には人間の事情があるだろうがそんなことは知らない。あくまでペット目線のストーリーテリング。ペットから見た世界の話。
飼い主を見つけた前作の悪玉ウサギ・スノーボールは今や善玉、キャプテン・スノーボールとして飼い主が居ない間に格ゲーをしたりして世界の平和を守っていたが、そんな彼の下にガチのどうぶつ救助依頼が舞い込んでくる。

一方、マックスくんのフェイバリットオモチャを預かったふわふわ犬ギジェットはついオモチャを下の階のババァの部屋に落としてしまう。そこは勝手に入ってくるストリート猫をババァが追い出したりしないのでギャングスタな猫たちの巣窟と化した、いわば猫春木屋であった。
そしてマックスくんは相棒犬デュークとケイティさん一家とともに訪れたケイティさんの叔父の農場で孤高の牧羊犬・ルースター(CV:ハリソン・フォード)と出会うのだったが…。

オムニバス的に完全別進行の物語は最終的に合流してみんなで悪いやつをやっつけろ的な展開になるわけですがその合流の仕方がまったく気が利いていない。度々ディズニーを引き合いに出して申し訳ないが(でもイルミアニメの最高峰『シング』だって絶対ディズニーの『ズートピア』意識してるから)ディズニーとかピクサーの脚本家だったらこういうのはまずやらないですよね。一捻り加えて観てる側にオーって思わせようとすると思うんですが、でもそんなもったいつけた迂回なんかいらねぇよっていうのがイルミアニメで『ペット2』だ。

シンプルなストーリーと個性的なキャラクター、洒落たサントラと遊び心あふれる演出だけあればいいんじゃないの映画なんて、と言わんばかり。『ペット2』は「たかだか映画」な感覚に満ち満ちている。この「たかだか映画」を貫くことがどれだけ難しいことか。ロッテントマトが動員に影響すると言われる昨今、『パージ』みたいな俗悪低予算ジャンル映画でさえ批評家(および批評家的な客)ウケを狙って紋切り型の社会批評の視点を組み込もうとする中で、この声高に何かを訴えることのない単純なカートゥーン活劇は逆にちょっと感動させられてしまう。

マタタビでハイになる一匹狼猫のクロエ、猫になろうとバカな訓練をするギジェット、単純に悪くて単純に強い悪役、高齢者の免許自主返納ムードに水をぶっかけるワイルドスピードよりワイルドなババァ、古典アメリカ映画的なスラップスティック大列車アクション。イルミの遊び心と反骨精神(それにアメリカ映画愛)は健在だ。たかだか映画、政治的に正しくなかろうが教育効果がなかろうが、おもしろかったらそれでいいのだ。

その単純さの中でさり気なくこわがり都会犬マックスくんの子離れと犬的成長を描くのだからまったく大したものじゃないですか。おもしろかったな『ペット2』。やっぱりイルミネーションの新作が今いちばん観たいっすね。

【ママー!これ買ってー!】


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リンク貼ってますが前作を観なくても全然問題ない内容っていうのも最近のユニバース映画ブームを思えばなかなか英断感あります。

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よーく
よーく
2019年8月12日 1:46 AM

>それにしてもこの潔さは特筆ものだ。びっくりしたよ冒頭5分で主人公の犬マックスくんの飼い主ケイティさんがよく知らん男と出会って結婚して妊娠して子ども産んで子どもが幼稚園行くぐらいの歳になるから3年ぐらい経過してますからね。ある? この早さ。
ちょっと待ってください、俺前作未見なんですけどここって前回の粗筋の説明じゃなかったんですか?
てっきり前作は飼い主と共に他人を受け入れるお話で今作はその子供と共にペットも成長するって感じかと思ってました。
いやすごいな、そんな雑な感じで続編ぶつけてくるのか。でも何かいいですねそういう感じ。コアなファンを慮って大胆な展開ができなくなるようなシリーズ物よりは余程いいと思いますよ。
ミニオンズの方もマンネリするくらいならいきなりグルーさんが死んだところから始まる新作とかでもいい気がしますね(笑)。それくらいのノリの作品を作り続けてほしいです、割とマジで。