《推定睡眠時間:30分》
ご近所問題って大変だなぁと思い知らされたのは住んでるアパートに置き場がないのでチャリを隣の家の貸し駐車場に置いていたら(※俺としてはちゃんと許可を取って置いているつもりだったがそのへんは込み入っているので省く)隣の人がその証拠写真を片手に警察を呼ぶと言ってきた時だった。
あぁダメだったんだ、すいません…と反省しつつ何かこう引っかかるものがある。俺その人と付き合いは特にないんですがその人の老いた母親が家に一人で居るときにずっと呻き声を上げているのが聞こえたんで夜中に近所を駆け回って警察と救急に来てもらったことがあるんですよ、チャリ問題の何年か前に。
それは結局ベッドから落ちて足折ってたとかそんなことだったらしく、まぁこっちも大したことはしてないので、恩に着せるつもりは別にないですけど俺その人じゃん。チャリぐらい甘く見てくれとは言わないし思わないですけど警察を持ち出す前にそのチャリ邪魔だからどけてくれって言ってくれたらいいじゃないですか。そしたらすいませんっつってどかしますよ素直に。だって迷惑してるんでしょう。別に迷惑かけようと思ってチャリ置いてないからこっちは。
警察を呼ぶのは全然問題ないんですよ。むしろ身内のことは身内で解決的な非介入主義が家庭内暴力とか虐待とかイジメ自殺の温床になっていると思ってるんでなんかあったらすぐ警察呼ぶぐらいの心構えでいた方がいいですよ。
俺がどうなのよって思ったのはそこじゃなくて、警察カードを話し合いもなにもなくいきなり持ってこられたことで…まったく面識ないならまぁそれもわかりますよ? 知らない人とトラブルになったら怖いすからね。そりゃ下手に当事者だけで話し合うより警察を間に挟んだ方がいいです。
でも付き合いがないとはいえあなた俺のこと知ってるじゃないですか…そりゃ他人の考えることなんてわからないでしょうけどウチの敷地だからチャリどけてくれっていう当たり前の要求が通じないような人間がですね、隣の家から呻き声が聞こえたから救急車を呼んだりとかしないだろう、一般論として。
でもそう想像する余裕がない。その隣の人が言うには毎日家の前にチャリが置いてあってとても怖かった(ので警察を呼ぼうと思った)
チャリに関しては加害者側の俺が言うのもどうかと思うが、ご近所関係シビアだなぁっておもいましたよ。ことに自分の家を持ったりなんかすると周りが敵ばかりに見えてしまうんじゃなかろうか。
『隣の影』はそんな状況を極端な形で描いた映画で、と書いてここまでで既に約1000字。映画の感想に入る前に俺は悪くないの自己弁護で1000字書かせてしまうご近所トラブル、こわいですね…(勝手にチャリ置いてほんとすいませんでした隣の人)
さて映画が始まると即睡眠開始。目を覚ますと隣り合った二軒の家の住人が既に不法侵入しただの器物破損しただのと疑惑を投げ合いトラブっている。
寝ていたので事情がまったく掴めていないがご近所トラブルは客観的に眺めることが解決の道、ここは睡眠を逆手に取ってできるだけ客観的に両家のどちらが悪いのか見てみよう。
第一印象。犬を飼っている家の住民の方が悪く見える。ご近所覇権を争っているのは犬を飼ってる中年男+その若妻の家と猫を飼っている老夫婦+その息子の家なのですが、犬家の二人はなんとなく人を小馬鹿にしたような態度がムカつくし暮らし向きも良いので更にムカつく。
寝ていたので詳細はわからないがご近所トラブルの発端は猫家の庭にある結構でかい木が犬家の庭に陰を作ってしまったことらしい。犬家のふたりは新婚ほやほや。夜になるとこちらは呻き声ではなく喘ぎ声がうるさい騒音問題あり。そんないけ好かない奴らに木が邪魔と言われても素直にすいませんと言えないのが人間ってもんでしょう。
第二印象。いやでもこれ猫家の方もだいぶおかしくないか。犬家の若妻の話を聞くとどうも犬の糞を猫家の誰かが投げてきたことがあるらしい。犬家のジャーマン・シェパードは気ままに猫家の庭に入ったりしているから糞というのはたぶんその糞だろう。糞を投げた猫家の住民というのは…ご近所戦争のメインバトラーとして数々の破壊工作を仕掛けていたのは老夫婦の妻だったからたぶん彼女である。そりゃ糞されたらムカつくのはわかりますけど投げることはないよな。まず話し合いでお願いしますよ。
第三印象。ようするに猫家も犬家も自家のことでいっぱいいっぱい。映画が進む内に明らかになってくるのは猫家の崩壊寸前な家族関係であった。妻は壊れていくし夫はその現実から目を逸らして合唱教室なんかに逃避の日々、息子の妻は子供と一緒に別居していてその親権を主張、この息子はキレやすいところがあるし粘着質なので気持ちはわかるが離婚調停にも入ってないのに一方的に親権を主張してもそりゃ息子納得しないだろう、ということで納得しない息子はフラストレーションを溜めていく。
実は猫家の夫は木を剪定するつもりでいたのだった。それがお隣への配慮なのか手入れの範疇なのかは判らないがともかくこれで問題解決、と思いきやお互いに侮辱しただのなんだのとヒートアップして剪定中止。
問題は木ではないのだった。木はご近所戦争の発端かもしれないが事態を逆噴射方向にローリングしたのは話し合いに応じようとしない犬家の自家ファーストな無関心と猫家のやはり自家ファーストな、自分たちの問題を誰かのせいにすることで解決しようとする逃避マインドなのだ(加えてやる気のない行政も)。なんだかどこかで聞いたような話である。
現代の寓話というと単純ですがでもそういう映画だよね。自分(たち)のことばかり考えているといつかはあなたもこうなりますよ的な大人の動く教育絵本だ。おもしろかったですよ両家どんどんぶっ壊れていって。相当乾いた風刺コメディなので上映中あんま笑える雰囲気じゃなかったですが保育師の「はい、脅迫してます」とかラストの逆噴射バトルには笑ってしまう。チェーンソーなんか持ってくればもっと笑えたのにな。でもあの惨めったらしさが味。死に様も馬鹿馬鹿しくて良い。いろいろ死にます。いろいろ死ぬ映画は良い映画。
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自分の家の木とミライを守ることしか頭にない某田守監督なんぞにはぜひご覧になって頂きたいものですなぁ。
この文章を読んでたら無性にその映画を観たくてたまらなくなってきたのですが、
現時点の上映館は国内で3つだけ!?
うーんハードルが高いなあ、
そのうちに公開規模を拡大してくれんかな。
面白いんですけどえらい地味な映画なので拡大公開は難しそうな気がしますねぇ。。。
ハリウッドリメイクされてスターの一人や二人でも出ればもう少し広く公開されるかもしれませんが。
自分は集中力が著しく低いので、地味で苦めの映画(というか映画全般)を、家で最後まで観切る自信がとんとありません。なので是非映画館で観たい。
大阪で上映するみたいなので、遠出すれば行けそうです。
遠出するほどの映画かと言えば微妙な気もするので本当はこういう小品こそ全国津々浦々で短期間でもいいから上映して欲しいんですけどねぇ。
関西で一館だけやってるとこで観てきました。
上のレビューから察するに、示唆に富んではいるがさぞかしメンタルを削ってくる(そのうえ地味な)話だろう、と覚悟して観たのですが、意外と観てる間辛くなくてホッとしました。
嫌な雰囲気の演出が何だかデヴィッドリンチっぽい様に感じたので、「おお格好ええ」とか思うことでだいぶいざこざのしんどさが緩和されたのかもしれません。個人的に冒頭のハメ撮り動画鑑賞オナニーのシーンが精神的に超きつかったのですが、後はまあ大丈夫でした。
「木は問題ではない」と書かれてましたが、全く同様に感じました。というか犬も猫もハメ撮り動画すらも多分全部口実で、「どちらが悪いのか」ではなくて「どうやったら相手が悪いということにできるのか」で人が動いているように見えました。
強く感じたのは、人間は公には持ち出しにくい目的や要求を通すために、怒りや恐怖といった感情を自分で捏造する(そしてそれを本物だと自分で信じ込む)のだなあ、ということです。
攻撃や排除をするために理由を探すのであって、逆じゃないんですね。
件の駐輪問題の隣の方も、もしかしたら相手が信用できなかったからではなく、寧ろ面識と負い目があったからこそ、利害がひょっとしたら対立する「かもしれない」要求を持ち出すために恐怖という感情をこしらえる必要があったという可能性もあるのでは…まあ分からないんですが。(全部憶測で申し訳ないです)
無断駐輪事件はともかく(笑)映画の中の家族は基本的に家庭の中であるとか自身の中に問題を抱えてるんですよね。それを隣の家や別居中の配偶者に投影してそっちが悪いんじゃんって風に攻撃の論理を組み立てて。だから「木の影」というのは面白い比喩だと思いました。木が直接庭に侵入してきて何かするわけじゃなくて入ってくるのは影なんですよね。実体はないが実体よりも恐ろしく大きく見えてしまうもの。
ですからハメ撮りビデオというのも案外そういう風に…肉体と行為を映しているのだけれどもそれ自体は肉体も行為も持たない空虚なファンタジーとして、それゆえ欲望や妄想を際限なく増幅させる装置として象徴的に持ち出されたのかなぁと思ったりしました。なかなか考えられた映画だったと思います(リンチの『ロスト・ハイウェイ』もポルノビデオが事件の中心に置かれていたわけですから確かに通ずるところがありますね)
いや、どうも余計な世話で失礼しました。
自分も過去似たような経験があり他人事とは思えず。
『ロスト・ハイウェイ』は大好きな映画です!
何でもないシーンでも重低音や不気味な音楽が流れてたり人物の目に影が落ちてたりするだけでワクワクしてくるので、もうそういう風に脳が条件付けされてるのかもしれません。
(この内容でハネケみたいな人でなし演出だったらどうしようかと思ってましたが)
それはそうと、こんな乾いた悲劇コメディが興収チャート1位になるアイスランドってどうなってるんだろうと思います。よっぽどシニカルな国民性なんでしょうか。
自分も『ロスト・ハイウェイ』は心の1本って感じですね。これで映画にハマったようなもので。音楽も音響も深い闇もとにかく全てがカッコ良かったです。
アイスランドの映画事情はよく知りませんが、日本に入ってくるアイスランド映画はクセのあるものばかりで、基本的に人の生死が軽いというか、どこか超然としたところがあるのが面白いなぁと思います。『ひつじの村の兄弟』とか『スプリング・フィーバー』とか。