そうだ台湾に行こう映画『パラダイス・ネクスト』感想文

《推定睡眠時間:20分》

日本でやらかしたアウトローな男たちが台北に逃げてきて新たな人生を歩もうとするがそれをものにするには過去の罪が重すぎる、日本には帰れず台湾にも居場所を見出せず孤独にさまよう彼らはやがてその罪に押しつぶされてしまうのだった。

邦画にはこんな物語類型があるようで押井守の『ケルベロス 地獄の番犬(Stray Dog)』も三池崇史の『極道黒社会 RAINY DOG』も大雑把に言えば『パラダイス・ネクスト』と同じ台湾逃避ものだし、やはりやらかした男たちが沖縄に逃避するというか流される北野武『3-4X10月』『ソナチネ』、やらかした哀川翔らが東京からどこだかよくわからん温泉とか湖畔のリゾート地に逃避しようとするも叶わない黒沢清の『蜘蛛の瞳』と『復讐 消えない傷痕』も大雑把に大雑把を重ねれば同じような話と牽強付会も甚だしいが無理矢理言えよう。

とにかく、生活に苦労しない範囲でどこでもいいから(どこでもよくないじゃないか)景色の綺麗な南の方とかに逃げてそれまでの人生をリセットしたい。そんな願望が邦画に脈々と流れている。『パラダイス・ネクスト』以外の上の映画はどれも90年代の作だからバブル崩壊後の時代の行き詰まり感が反映されているのかもしれない。時代の行き詰まり感のみを煮詰めたような1998年の『ポルノスター』で映画界に殴り込みをかけた豊田利晃は後年、沖縄で新興宗教の二代目教祖になった藤原竜也を殺し屋たちが消しにやってくる『I’M FLASH!』を獲ることになるのだった。

時代の行き詰まり感という意味では今もそう変わらないかも知れないが、『ケルベロス 地獄の番犬』の頃と違って今はスマホがあるわけだから世界はずっと広くなって狭くもなった。その両義性はついこの間観た『TOURISM』が見事に捉えていたが、それはともかく桃源郷としての南のどこかというイメージはスマホありきの世界ではもはや過去の遺物だろう。『パラダイス・ネクスト』を観て90年代の逃避もの映画を思い出したのはそういう理由がある。

というわけで90年代アウトロー逃避映画な『パラダイス・ネクスト』です。良いとか悪いとかじゃなくてよく今の時代にこんな映画ができたなぁの感慨あり。しかも妻夫木聡と豊川悦司の共演、音楽には坂本龍一も入ったりみたいな豪華布陣で。
妻夫木聡の反社ウェーイ芝居、素晴らしかったなぁ。何も考えてないようで常に獲物をサーチしている風のふらついた挙動、ヘラヘラ笑ってのウザ絡みからのキレへのナチュラルな移行が見事で見事で、こういう人が入江に吉本芸人を呼ばせてたんだろうなぁと入江に吉本芸人を呼ばせていた人を知らないのに確信してしまう。

豊川悦司の汚らしいヤクザっぷりも『アウトレイジ』に出て欲しい堂に入ったものですがここはもう妻夫木聡の独壇場だ。ウザイ。コワイ。生理的に受け付けない。すばらしい。
でもその背中には台湾に逃げてきた人なのでやはり重い十字架があったのでしたとそういう切ない映画。あと風景が綺麗。台湾ロケを敢行するとついつい風景ばかり撮ってしまうというのはどの台湾逃避ものでも同じ。

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それにしても台湾逃避ものに出てくる女は性格までなんとなく似ている。

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