映画難しいっすね映画『イソップの思うツボ』感想文(ネタバレなし)

《推定睡眠時間:0分》

不倫の場面が2つ出てくるのと井桁弘恵演じるウサギ(子)が年上の大学講師とデートに行く場面が出てくるのでそこに濡れ場を追加して87分の上映時間を30分削ったらおおこれは! これはなんだかよくできたアイディア満載のおもしろいピンク映画だなぁ! と感心したと思う。

これ悪口じゃないですから。映画には予算に見合った楽しみ方というか観客の心構えがあるもので、つまり要するに端的にぶっちゃけて言えばめちゃくちゃ予算がない。底予算Vシネぐらいの予算規模だろうと思われるのでそういう映画として観なければ苦しい。そういう映画として観れば結構おもしろい。

金があろうがなかろうが面白い映画は面白いだろ! という反論も予想されるがそんなものは根性論込みの理想論であってだってしょうがないじゃないですか、お金がないと撮れないシーンって現実にあるんだから。そりゃ予算の無さゆえの勢いが画面に刻まれた『カメラを止めるな!』みたいな奇跡的な例だってあるかもしれませんけどさ、そんな奇跡をいつも映画に求めてはいかんですよ。奇跡ばかり求める観客の無責任を風刺する(かのような)場面もきっちり用意されているのだからそのへん、周到な『イソップの思うツボ』ではあったけれども。

えー、お話。お話は…これがもう10分ぐらいごとにぐるんぐるんとどんでん返る映画なので何を書いてもネタバレになってしまいそうな全編是ネタバレ映画、ということで一切書かないことにする。お話を知らないで観たところでそのどんでん返し返し返しが面白いかどうかはわからないがなんとなくそこは伏せておきたい。そういう気持ちにさせられる。とにかく87分の間、1分たりとも観客を飽きさせまいとする意志はビシビシと伝わってきたのでその意志を尊重したい。わたしはやさしい観客。

ただあの、脚本はいいんですけど絵力が。もう少しだけでいいから絵に力が欲しかったというか…基本的に、万人向けのライトな演出。見やすい。分かりやすい。それも一つの工夫なのだろうとは思うけれども後半はそれなりにダークな方向にお話が転がっていくので、ライト演出でダーク展開を見せられてもなんだか気が抜けてしまう。

カメが空から降ってきて通行人に当たったというニュースが物語の軸ならぬ軸になっている映画なので『マグノリア』みたいなもの? と想像するがこのカメが1匹でしかもミドリガメぐらいの大きさ。カメってそのカメかー。リクガメぐらいなサイズで見たかったなそれは是非ともー!
でもリクガメだと難しかったんでしょうねと忖度。どことは言えないが物語上すごく大事な場面をイラスト処理するのもポップな演出と言えなくもないが、そこはやっぱり実写でやってもらわないと物語の重みが…しかしそれも諸々の事情で難しかったんでしょうねと忖度。結構、忖度させられる。

たとえばこれがピンク映画とかVシネなら観る側も予算的ハードルを落としている分そんな忖度はせずに気楽に観れるので、まぁ、なんというか、シネコンに映画を流すのも良し悪し。少しだけ似たようなテイストと予算感の映画でこのあいだベテラン室賀厚の『デリバリー』というのが池袋のミニシアターでかかってましたが、あれもミニシアターで観たから面白かったもののシネコンで観たら(めっちゃ安いなこれ…)って絶対思ったに違いないのでシネコン上映が興収的にはプラスになっても映画体験的にはマイナスになることもある。

ついでに付け加えておくと『デリバリー』には「ここだけは!」みたいなシーンとかショットがちゃんとあって安いなりに面白い映画観たな感があったわけですが、『イソップの思うツボ』は全編どんでん返しの連続で面白い代わりにその「ここだけは!」は俺には感じられなかったので(名前を呼ぶ場面はちょっとだけエモかった)、それがどこか1箇所でもあればまた受ける印象も違ったかなぁと思わなくもない。

3人の監督の共作というか競作? でもあるのでそれもなかなか難しかったのか、一点突破の「ここだけは!」を通すのも。こういう企画モノみたいな映画はいろいろと大変だ。これならむしろ、登場人物だけ共通させてお話は別々にした3話オムニバスにしてしまった方が各監督のカラーが出せて良かったんじゃないだろうか。それで映画が面白くなるかどうかは知らないが少なくとも「ここだけは!」は作れたんじゃないかと思うのですが。

石川瑠華、井桁弘恵、紅甘、と女優の人たちはみんなかわいい。川瀬陽太は良い感じのオッサン。そうね、そこらへんは良かったっすね。
つまらないならつまらないの一言で済むがつまらないわけではないからなかなか感想に困る。俺としてはやはり、ピンク映画だったら良かったのにな~っていうところに落ち着いてしまうなこれは。

あとどんでん返し系映画の古典をオマージュしたと思しき場面があるんですけどそこは正直無理あるだろと思ったしすぐにタネ明かしをしてしまうので中途半端にオマージュしなくてもよかったんじゃないかとはすげぇ超おもいました。

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ツイ・ハーク、リンゴ・ラム、ジョニー・トーの3人が1本のシナリオを30分ずつ監督した香港ノワール祭りのような夢の一編はラスト30分を担当したジョニー・トーの空気を読まない大暴れ演出によりドリフのコントみたいになってしまう。なんじゃこりゃあ! まことに笑撃的であったが「ここだけは!」はあったというかジョニー・トーのパートに関しては「ここだけは!」しかなかったので鑑賞後は謎の満足感。

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