《推定睡眠時間:0分》
こういう映画で続編が作られるのは珍しい。そのおかげでタイトルがたいへん読みにくいことになっているが、まぁそれはいいとして2018年5月公開の前作『心に寄り添う。』は幸福の科学の中高一貫校だかをメイン撮影地に、幸福の科学のことがもっと知りたいなにも知らない信者の人()が幸福の科学の色んな施設を巡ってインタビューをしていく内容。後半にはなぜか撮影テープが消えてしまうというオカルト事象(?)もあり、ある意味リアルな白石晃士映画みたいな感じである。
映画館で上映された期間は俺が観た劇場では一週間で、ここは都内の幸福映画メイン館なので他の劇場もたぶん同じ。『UFO学園の秘密』みたいな娯楽系幸福映画と違って非信者の一般客が間違って入るようには思えないので妥当ですが、それにしてもレンタルDVDにもなっていない(セルDVDおよびサントラは教団サイトで売ってる)し、内向けの興行にも程があるというか、なんで急に商売にも布教にもならなそうな映画を作ったんだろうと疑問が浮かぶ。
俺としてはその理由を公開数ヶ月前のちょっとした騒動、教団側からの訴訟をチラつかせたクレームによって大阪芸大の学生が監督した教団取材ドキュメンタリー『ゆきゆきて地球神軍』が学内・学外展で上映中止に追い込まれた事件に求めてしまう。
大して話題にはならなかったとはいえ著名な映画監督やジャーナリストもこの件について発言していたから、たかだか学生映画ごときを顔を真っ赤にして潰しにかかる教団がこれを無視できるはずはない。なにかしら信者に対してアンサーが必要だったんだろう(クルーも被写体もみんな教団内で調達できるわけだからそんな短期間でも映画が作れてしまうというのは宗教団体のうらやましいところだ)
その憶測が当たっているかどうかはともかく、続編の『光り合う生命。ー心に寄り添う。2ー』には明確なプロパガンダの意図があった。今回のメインロケ地は千葉にあるハッピー・サイエンス・ユニバーシティ。2014年に設立の認可が下りずに話題を呼んだ例のあれで、ユニバーシティを称しているが今も無認可校なので卒業しても大卒にはならない(その時点でだいぶ詐欺っている)
エンドロールが終わるとその不認可通知の文書が画面に映し出され、こんな旨のテロップが流れる。ハッピー・サイエンス・ユニバーシティは霊言を理由に設置認可が下りなかった。しかし現在ここで行われていることを鑑みればこれはもう立派な大学なのではないだろうか。幸福の科学は2019年10月、文科省に再度の設立認可を求める方針だ。
ようするにそのためだけの映画であった。観客は信者しか想定していないだろうとはいえここまでストレートに厚顔無恥なプロパガンダも珍しい…。
内容的には前作を踏襲したもので、あらすじなんかを見るとシニア信者がハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(以下面倒臭いのでHSU)で行った特別授業を追ったとかなんとか書いてあるがぶっちゃけ全然追ってない。前作で聞き手役だった若手信者をシニア信者に置き換えてHSUとその周辺の色んな活動をカタログ的に紹介していくだけである。特別授業を殊更に強調しているのはあくまで大学であると言い張るためだろう。特別授業と言えばなんとなく大学っぽく聞こえる(そうか?)
前作を踏襲しているのでドキュメンタリー的な面白さは基本的にないが演出や構成自体は前作よりも遙かに洗練されていたりする。これは完全にプロの仕事。シニア信者のインタビューで偏差値の高そうなHSU生がHSU内での自らの活動を語りつつ、そこに教団の意義や教義や教団に入って体験した奇跡体験をチラっと差し挟むタイミングなんかとても自然で見事である。俺は別にヤラセだと言っているのではない。ヤラセるまでもなく信者は自発的に教団を持ち上げるんである。それをプロモ的に見せるのが上手いということ。
おもしろかったのはその中で教団のやり口が垣間見えたところ。なんか地域のお祭りとか若者の成り手が少ない伝統芸能に積極的にHSU生が入ってったりするんですが、これには膝を打ちましたね。そうかそうやって地盤固めてるんだ。まとまった数が来てくれるし結束は固くて真面目だしついでに地域に住み込んでお金も落としてくれるんだから過疎った地域には救世主みたいなものですよね。
これは断れない。小泉進次郎がろくに仕事もしないで地方巡りをしてご老体の人気を集めているのと構図は一緒。組織力を強化するには地方が大事。大丈夫か? の疑問は湧くがそこらへんはプロパガンダらしく一切撮ってくれないので、まぁ、地域の人がどう思っているかとか、その現状は想像するしかない。
映画に出てくるHSU生たちはみんなHSU生活を謳歌しているようだ。実に生き生きとしている。カタログ的に映し出されるその研究(?)や部活(HSUがメインに据える経営学部と未来産業学部と芸能活動がクローズアップされるが、そうと説明はされないので姑息である)からはこんなにハイレベルなすごいことをやってるんだぞ感がビシビシと伝わってくるが、外部の同ジャンルと比較してくれないしそもそも非信者は基本的に映してくれないので実際にハイレベルなのかどうかは知るよしもない。
でも大事なのは「感」なんだろう。気苦労だらけで殺伐とした外の世界のリアル大学では一握りの人間しか体験できないこんなにハイレベルなすごいことをやってるんだぞ感を手軽に享受できるのがきっとHSUの魅力。だから彼ら彼女らはその中にいる限り、本気で生き生きと生きているのだ。何度も言うがこれはプロパガンダ映画ではあってもヤラセの映画ではないのである。たぶん。「彼女はその後、タレント養成所に戻ることを決意しました」みたいなテロップと共に若い出演者が養成所の門戸を叩くがその養成所はちゃっかり幸福の科学のタレント養成所という狡い宣伝を当たり前のようにしているとしても。
そう思うとちょっと切なくなってくるな。その生き生き生活はスノードームの中のものでしかないからでもあるし、大川UFOの「青春」と「大学」に対する執着がまざまざと見えるからでもある。きっとUFOもこんな大学生活を送りたかったに違いない。これぞ青春と思っているに違いない。
大学設立は教団の勢力拡大と社会的地位の確立という実利的な面が大きいのでしょうが、いつものようにUFOが作詞作曲した挿入歌は『青春の輝き』の曲名、ヤングUFOを大川宏洋が演じた(そしてその後教団を離脱した)昨年公開の自伝映画は『さらば青春、されど青春』のタイトル、この並々ならぬ青春推しからは教団の実利に収まらないUFOの個人的な情念がやはり感じられてしまうのだ。
まぁ興味深い映画ではありましたね。幸福映画ではいちばん興味深かったかもしれない。もしHSUの入塾(※大事なことなのでもう一回書いておきますが認可下りてないので卒業しても大卒になりません)を考えている人がいたら一度見てみたらいいんじゃないですか。こういうことをやっている、ではなくこういうイメージを売ろうとしている、という点に着目して。基本、二世信者が行くところだろうとは思いますが。
ちなみに劇場にはアンダー10歳の子供連れ親信者も来ていましたがアンダー10歳二世信者ずっと退屈そうにして座席で寝転がっていたりしていたのでなんか安心した。
【ママー!これ買ってー!】
関連商品には二世漫画家のエッセイ漫画がズラリ。二世ものというジャンルがあるらしい。