ホリプロやるじゃん映画『初恋ロスタイム』感想文(途中からネタバレ)

《推定睡眠時間:15分》

映画が始まる前に出てくるムービングロゴはホリプロだったがそんなのキラキラ映画で初めて見た。しかし芸能事務所制作の映画ということは狙い的にはわかりやすい。売り込みでしょう、売り込み。
映画のヒロインは吉柳咲良という人でホリプロ所属、顔を見たのは初めてだったがフィルモグラフィーを見ても他に出ている映画が『天気の子』の声の出演1本、実写映画はたぶんこれが初出演にして初主役ということでさぁ吉柳咲良を売り出すぞ! の意気込みが画面の端々から感じられる。

だが俺の観た回、客5人。これは厳しい。厳しいし哀しい。哀しいから俺が頑張って応援してやろうという気にもならない吉柳咲良だったのでなんか、大丈夫だろうか。関係者の進退が心配になってしまって映画どころではない。
うーん、吉柳咲良。それにしてもホリプロの人はこの人のどこに何を見出したんすかね。ルックス的にも演技的にもなんだかだいぶ垢抜けないっつーか…そこから磨き上げていけばダイアモンドになるとプロの眼識で判断したのかもしれませんが、アイドルとか女優に疎い俺の審美眼では岩石にしか見えなかった。

いや別にダメとかそういうわけじゃないんですよ。でもこの人グループアイドルとかだったら映画ドラマ担当じゃなくてバラエティ担当の人だと思うんすよね。難病系キラキラ映画だから劇中では病魔と懸命に戦う人を演じていたわけですがちょっと面白くなっちゃったもん、いやお前生命力強そうだから絶対死なないだろみたいな。
良いんですよちょっと酒焼け感のあるハスキーな声とか。ひな壇映えしそうなちょうどいいやさぐれ感を醸し出していて。踊るさんま御殿とか出たら強いんじゃないすかねこういう人は。あと喧嘩とかも強そう。

という人のプロモーション映画なので…これ絶対シナリオのフォーマット選択を間違えているな。キラキラ映画としてはウェルメイドな作りの中にちょっとした捻りとケレン味があって実によくできてるなあと感心するぐらいのものだったのですが、なんでこれで吉柳咲良を売ろうとしたんだっていう…まあいいか! 映画面白かったから! そういうことにしておこう!

お話! 未来に希望の持てない浪人生生活を送っていた孝司くん(板垣瑞生)はある日を境に奇妙な現象に巻き込まれることになる! その現象とはフローズン・タイム! つまり時間が静止して自分だけが人やモノの静止した空間を自由に動けるというSODのAVにある例のアレである!
いったいなぜ。理由もわからず静止した世界を歩き回るうちに孝司くんは同じく静止した世界で動くことのできる時音さん(吉柳咲良)と出会う。

これが二人の運命の出逢い。静止する時間は1時間。1時間を過ぎると何事も無かったかのように静止の始まる12時15分に戻ってしまう。毎日訪れるその人生のロスタイムのような1時間でふたりは逢引きを重ねていくのだったが。

はいはい以下ネタバレ来ますよー危ないですよー逃げてくださーいネタバレ通りまーす。

映像作品ならではの仕掛けだと思ったのは(原作でも人称を工夫してそう読ませているのかもしれないが)竹内涼真演じる小児外科のドクターを孝司くんの将来の姿と思わせておいて実は別人だった、というところで、その事実が判明する下りは編集も展開も難病純愛映画のセオリーを騙し絵的に利用していてこれが巧み、ストレートに驚いてしまった。

冒頭、病院で仕事をしている涼真ドクターがふと腕時計を見ると時針が12時過ぎで止まっている。なにかを直感した涼真ドクターが辺りを見回すと誰もいない。慌てて窓に駆け寄って外を…というところで看護師が通りかかる。
時間が止まったわけじゃなかったのか…外気を浴びて頭を冷やそうと屋上に出た涼真ドクターはUFOを探しているという長期入院中の少年と遭遇する。先生もUFO信じないんでしょ。いや、そんなことはない。先生も実はむかし不思議な体験を…。

で場面は孝司くんパートに飛ぶわけですが、そこで予備校の進路面談を受けている孝司くんが講師からあんたの成績なら医科大狙えるじゃない的なことを言われるので思うよね、『君の膵臓を食べたい』みたいな回想形式のキラキラ映画だって。
母親が病気で死んで大学とか別になんでもいいやの捨て鉢予備校生になってしまった孝司くんが難病ロスタイムを生きる時音さんと出会ってその死を経験して医者を目指すキラキラ悲恋展開に決まっていると絶対に思ってしまう。

ふたりが別人ならじゃあなんで涼真ドクター時計止まってあんなドギマギしてたんだという話になりますが涼真ドクターにもやっぱ同じ時間停止経験があって、でどうもその時間停止はドナーが必要な難病の人とドナーに適合する人を結び合わせるらしいのですが(ということで孝司くんは時音さんの肝臓ドナー兼パートナーになるのだった)、同じようにして妻(石橋杏奈)と結ばれた涼真ドクター実は今は別居中。
一時はよくなったと思われた妻の病だったが経過が芳しくなく現在はどうも末期、かくして迫る死を受け入れたくない涼真ドクターは妻から遠ざかるのだったが好きは好きなのであの時間停止がまた訪れたら…といつも心のどこかで感じていたのだった。

いやぁ面白いっすねぇ。よくできた精緻なストーリー。加えてそこに今も妻の死を引きずる孝司くんの父親(甲本雅裕)の挿話も入ってくる。孝司くんと時音さんの関係を軸にして三者三様の難病妻とその夫のエピソードを対比させながら、微妙に絡ませながら、最終的にはそれぞれが目を逸らしたかった妻の病(あるいは死)と正面から向き合って各々の仕方でのその乗り越えに収斂するという…これは見事。

チャッチャと物語に必要なシーンだけ繋げていく歯切れの良い編集の気持ちよさ、パントマイマーっぽい人をたくさん呼んだ静止時間表現の面白さ、静止時間を活用したささやかなSF展開(事故りそうな車をなんとか止めるとか、民家の庭に埋まったタイムカプセルを掘り返すとか)もちょっとしたワンダーで予定調和に満ちたキラキラ世界の良いスパイス。

それに竹内涼真はかっこいいし竹内涼真はかっこいいし竹内涼真はかっこいいしあと甲本雅裕ですよね。甲本雅裕の表面上気にしてない風なんだけれども本当はまだ妻の死から立ち直れていないのでそれを隠すためについつい息子に冷たく接してしまう父親っぷり、すごくよかったなぁ。

時間が止まる設定も予備校と病院というふたりにとっての監獄を抜き出したい願望のファンタジックな現れと思えばなかなかどうして立派な情緒SF。
良い映画でしたよ『初恋ロスタイム』。やるじゃんホリプロ。でも吉柳咲良はやっぱ絶対適任じゃないだろって思うのでトーク力を、難病ではなくひな壇を生き抜くことのできるトーク力を鍛える方向でマネジメントを…。

【ママー!これ買ってー!】


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こういうオシャレなダメライフ感は『初恋ロスタイム』にはないです。

↓原作


初恋ロスタイム (メディアワークス文庫)

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