映画雑感『アイネクライネナハトムジーク』

《推定睡眠時間:0分》

伊坂幸太郎の物語はどうにも合わないと10年ぐらい前に『オーデュボンの祈り』と『ラッシュライフ』を読んで思ったが10年経ったら俺も変わってるし伊坂幸太郎も変わっているに違いないのでどうだろうと臨んだらやっぱり好きではなかったので年月で変わるものもあるし変わらないものもある。

とくにしたいわけじゃないけど10年ぐらい付き合ってんだから結婚する…? みたいな超されても嬉しくない三浦春馬の消極的プロポーズに恋人の多部未華子は一気に冷めてしまうが結婚するとかしないとか好きとか好きじゃないとかは年月でどうにかなる話ではないのだ。意志を見せろ。意志の問題だ。伊坂幸太郎の物語を面白がりたければ伊坂幸太郎の物語を面白いと言えばいいんだよ! 別にそうならないでもいいから言わない。

お話は好きな感じでは全然ないが出てくる人の佇まいとか演技は良かった映画で、なんか全体的にアマチュアっぽい。本業俳優じゃない人をたくさん連れてきて素のまま出てもらったようなぎこちない生々ナチュラル感。ボクサー役の成田瑛基なんかいかにもボクサーっていうか格闘技系の人っぽい酷い棒読み調なのできっとガチボクサーの人なんだろうなぁと思ってしまったぐらいだ。そのボクサー成田瑛基が人生をちょっとだけ変えることになる難聴のいじめ被害者中学生の中川翼もリアルな感じ。

矢本悠馬のチンピラ芝居はストレートにムカつくしこれがまた上滑りしていてそこも嫌。この場合の嫌は良い意味の嫌なので悪く受け取らないでもらいたい。森絵梨佳と三浦春馬と一緒に飯を食う場面が何度も出てくるのですがー、その度にうわー矢本悠馬だけ過剰な舞台芝居で浮くなーって感じで居たたまれなくなる。成田瑛基と逆にこっちはプロ俳優のプロ感が過剰でそれはそれで嫌なのである。娘役の恒松祐里は矢本パパめっちゃ嫌い設定なので嫌と思わせたら成功なんだろう。

こういう芝居の統一感のなさは意図的な演出なのかもしれないしわりあい自然とそうなったのかもしれないが、そんなことはどうでもいいことで、伊坂節と言えば聞こえがいいが悪く言えば形式的で予定調和なストーリーに劇中人物がうまいこと収まらない、収まらないでただ色んな人がここには生きているなぁという風に感じられたのがたいへん良かったとおもう。
恋愛群像の映画でビチっと決まられても嫌なので。世の中いろんな人がいるよねっていう映画は色んな人に出てもらって色んな形の芝居をしてもらってナンボみたいなところないですか。誰に対して言っているんだ。

10年間ずっと仙台駅の歩道橋に立って恋人たちと恋人になれない人たちに向けて斉藤和義の『小さな夜』を歌い続けている斉藤和義みたいな格好のストリートミュージシャンの嘘くささと現実感のなさとコスプレ感というのも逆に、心に引っかかってよかったように思う。三浦春馬(ほか)もそこに引っかかってちょっとだけ心情が変わったり偶然誰かと出会ったりするわけだから。
三浦春馬のボソボソ優柔不断人間っぷりは迫真だった。そんなセリフが悪党に効くわけねぇだろというのは置いておいて柳憂怜のヘボリーマンも面白かった。濱田マリが第二の樹木希林エンドに向かうルートに入ったことが確認できたのも嬉しい。あぁあと原田泰造の萎れた中年芝居ね! 横顔の哀愁に笑っちゃった。

でもボクサーのセコンドがサンドウィッチマンは狙いすぎだろ。そういうのは白けるからいいんだよ。

【ママー!これ買ってー!】


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なんとなく連想したものの『アイクラ』のような平和な恋愛群像ではない。

↓原作


アイネクライネナハトムジーク (幻冬舎文庫)

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