自主映画ユニットナカモトフィルムの新作二本立て。ナカモト映画は前に『DEAD COP』だけ観たことがあるが、そんなに面白くないところも含めて自主映画っぽい自主映画でなんとなく好感触、今回の『いけにえマン』『はらわたマン』も自主全開でなんか良かったです。続けて観たらちょっと感動しました。いやマジで。
『いけにえマン』
《推定睡眠時間:0分》
『DEAD COP』がグラインドハウス的な小細工もといエフェクトを採用した映画だったのでこれもそういうやつなんかなタイトルがはらわただし、チェーンソーだし、と思ったら普通の画面。いつもいつもグラインドハウス遊びをやっているわけじゃなかったんだなあナカモトフィルム。ポスターとかはグラインドハウス仕様ですが。
一応グラインドハウスな絵面になっていないことには理由があり、若干ネタバレになってしまうようで気が引けるが(まあネタバレ注意と書いたので…)この映画、スラッシャー映画『いけにえマン』の撮影にやってきた大学の映画サークルが撮影中に本物の…というお話。メタホラーないしパロディホラーっすね。
映画はその予告編から始まって、書いていてややこしいのだがYouTubeとかで見られる映画の予告編で使われているのは主にこの部分。道具立てはグラインドハウスそのものなのに絵面にグラインドハウスが皆無なのは現代の学生映画という設定だからなのだった(一眼ムービーとかで撮ってるわけです)
冒頭の予告編が実は伏線というかネタ振りになっているあたりは『カメラを止めるな!』とか『トロピック・サンダー』みたいな仕掛けと言えるかもしれない。でもあまりそこに力点が置かれていないというか。たぶん、見せたいのは仕掛けそのものではなくて、その仕掛けが浮かび上がらせる映画制作の楽しさだったんじゃないすかね。
巧く撮ろうとすれば(きっと)いくらでも巧く撮れるのにそうはしない。学生映画についての映画をプロの腕前で撮っちゃったらそんなの嘘です。あくまで学生レベルで撮る。それがナカモトフィルムの矜持というか映画愛なんだろうきっと。
面白いか面白くないかで言ったらそんなに別に面白いものではなかったと素直に言ってしまうが、愛せるか愛せないかなら断然愛せる映画だった。
エド・ケンパーみたいな見た目のスラッシャー映画で最初か二番目に殺される人と覆面殺人鬼(※これが『13日の金曜日 PART2』の麻袋ジェイソンスタイルなのだが、ジェイソンはホッケーマスクよりも1回しか被ってない麻袋の方が遙かにカッコイイと個人的に思っているので、そうそうそうなんだよ! って感じです)と『いけにえマン』監督の一人三役を演じたナカモトフィルムのたぶんスタァ、白畑伸のキュートも炸裂。
滑舌がそこまで良くないのに早口すぎるから細かいセリフが聞き取れないビートたけし調の監督・シラハタは最高でした。
『はらわたマン』
《推定睡眠時間:0分》
公式サイトとかチラシには『いけにえマン』のスピンオフと書いてあるがぶっちゃけ(これまたネタばらしのようで気が引けるが…)こっちが本番というか、見せたいものがおそらく違うので単純な比較はできないのだが、沁みたのはやはり『はらわたマン』の方だった。
スピンオフというぐらいだから一応『いけにえマン』の続編で、お話は前作から1年後、暴君シラハタから解放され(中退)新規メンバーを加えた映画サークルの面々が自主スプラッターアクション『はらわたマン』の撮影中に再び…というもの。
衝撃である。シラハタがいない。撮る映画はポンコツのくせにやたら態度がでかくて要求は多くてそのくせ根性なしの「俺が映画何本見てると思ってるんだよ!」が口癖のシラハタ監督がいない映画サークルなんて!
それはそれは和気藹々に決まっているので新規メンバーもEXILEみたいな人とか可愛い系の女子(しかも演出もできる有能っぷり)とかです。打ち上げの場もシラハタ時代の場末の中華料理屋みたいなところからチェーン居酒屋にパワーアップ。シラハタの在籍中にこんなことは決してありえなかっただろう。
だがそれでも俺はシラハタに居て欲しかった。基本的には人の身体が豆腐なので滑って転んだだけで死んだりちょっと叩いただけで首が飛んだりする下らないホラーコメディだったが、これはちょっと切ない映画なんである。
本番よりも打ち上げが本番な映画サークルでのたのしい映画作りもいつかは必ず終わってしまう。卒業後は商業に進んで厳しい低予算現場を転々とするやつもいる。思わぬところから見出されてスターの道を歩むやつもいる。かと思えば普通に就職するやつも、専業主婦を選ぶやつも、消息不明になってしまうやつもいる。シラハタの不在が映画に刻みつけるのはそんな類いの切なさであった。
映画作りはワクワクとドキドキと血飛沫でいっぱいの命懸けのスペクタクル。映画サークルが何気なく無許可で入った(おい)廃墟のロケ地で偶然遭遇したのはなんと! このへんは出オチなので口外しない映画モラリストですが、馬鹿馬鹿しくも映画好きの血と夢が詰まっていてグッときてしまうし、ある意味ファンタジーのような展開には週末映画版『ラスト・アクション・ヒーロー』の称号を勝手に与えたくなる。与えられて嬉しいかどうかはわからないが、その夢の終わりの切なさという点でも俺には『ラスト・アクション・ヒーロー』のように見えたのだ。
新規メンバーのEXILEみたいな人もヘボ演と急なキャラ変が光る良いキャラ、前作から続投した語尾が「っすよ~」のへっぽこ部員・齊藤友暁は頼りないのは変わらないが案外大人な部長兼監督になっていて謎の感慨深さあり、(劇中時間で)1年前は映画以外に趣味とか友達とかなさそうだった職人肌のカメラマン高江洲波江は劇的に綺麗になっていてびっくりする。その高江洲波江が驚異の新人の才能を目の当たりにしてちょっとした嫉妬と挫折を覚える場面はささやかながらも名場面だ。
いや~、映画作りって本当にいいものですねぇ~。そんな『いけにえマン』&『はらわたマン』でした。
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キャプスパ大好きなんだなぁというのはビシビシ伝わってきた。