《推定睡眠時間:0分》
舞台は近未来のアメリカのどこか、今や絶滅危惧種の自動車整備工・トレイスはIT大手勤務の妻と自動運転AIカーセックスを楽しんでいたが、故障かはたまたハッキングか不意にシステムが進路を変更、辿り着いたスラム街で暴漢どもに襲われ妻は死亡、自身も脊髄損傷を負い全身麻痺になってしまう。
愛する妻とカーセックスもできなければ身体を動かしてクラシックカーをいじることもできない。生きる希望を失ったトレイスは自殺未遂を起こすが、そこにお得意様のIT金持ちが登場。曰く、脊髄に試作中のAIチップを埋め込めば全身が動かせるようになるとのこと。だがそのAIは意志を持っていて…。
映画はこのような出だしでしたが上映が始まるとセリフが聞こえない音声トラブル発生。その日は台風の影響かオンラインチケット発券機まで故障しており上映前にはチケットカウンターに普段は見ない長い列が。映画の内容と合せたかのようなまさかの二段階マシントラブルが想定外の4D的効果を生んでいたのだった。もしかすると映画館のマシンたちはこの映画を人類に見せたくないのだろうか…ここは1回書いてバカっぽいから消したが手が勝手に再入力しました。STEMが! 俺の中のSTEMが暴れる! 茶番はいい。
でIT金持ちに言われるままにトレイスさんは脊髄寄生型AI・STEMくんを移植するのですがこいつが超有能な糞無能、事故前よりも遙かに全身をパキパキ動かせるという点でめっちゃ使えるが、文脈が読めず命令を杓子定規にしか受け取らない上に状況判断に致命的な欠陥を抱えているので勢いで人を殺したりするという点で絶望的に使えないのだった。他作品のキャラで例えれば人殺しに抵抗がないバカボンのパパみたいな感じである(バカボンのパパも抵抗ないかもしれない)
果たしてこんなポンコツを抱えてしまってトレイスさんは大丈夫なのだろうか。STEM判断により導入してソッコー人を殺してしまっているので大丈夫ではないことは明白だが、ただまぁ警察に疑われないように的確な証拠隠滅をトレイスさんに提案したりしているので人殺し即破滅という感じではない。そこらへんは有能なSTEMである(でも監視カメラにガッツリ姿を撮られてたりもする)
一人殺したら二人も同じ。四人までなら四捨五入すればキルカウントはゼロだ。というわけで期せずして冥府魔道に入ってしまったトレイスさんは地獄案内AIと化したSTEMのナビゲーションに従って妻殺し殺しに赴く。敵は体内に殺人兵器を埋め込んだ義体チンピラ軍団。果たしてトレイスさんの運命は。
サイバーパンクものだったんだなぁ、これ。予告編の感じから物語の背景はだいたい現代でAI超人化しているのはトレイスさんだけっていうの想像してましたがバリバリ未来だし相手も義体。
そんなに予算のある映画でもないので基本的にガジェットと室内装飾のみで未来を表現、未来感は限定的だったが(『サウンド・オブ・サンダー』を少しリッチにして『ロボコップ』風にしたぐらい)こういう路線かと嬉しい驚き。
いいよね、このザの付くサイバーパンク世界。絶対に悪いやつが集まるバーに悪いやつがいるんです。絶対にハッカーが隠れ家にしている廃墟みたいなビルにハッカーがいるんです。わかりやすい。ハッカーの背後でVRゲームに興じる謎人たちがゆらゆら動いている光景のアホらしさには意表を突かれたが、それ以外はそうくるか的なワンダーがわりと薄い安心安全のサイバーパンク。
復讐旅の末にトレイスさんが辿り着いた妻の死の真相は…というミステリー要素も一応ありますが、まぁ、なんというか、真相発覚の展開が強引かつ唐突なので驚きはするが真相自体はサイバーパンクものでめっちゃ見たやつなので驚きのない驚きで、収まるところに収まりましたなぁ~とニヤけてしまう。よくできたウェルメイドなB級サイバーパンクということだろう。
ハリウッド実写版『攻殻』の『ゴースト・イン・ザ・シェル』で“少佐”を演じたスカーレット・ヨハンソンがやっていたカクカクポリゴン動きをアップグレードしてこちらも採用、トレイスさんがウィーンウィーンとロボ音が聞こえるようなアクションを披露していくのだがこの人はたぶんアクション俳優ではないのでどうもアイディアに身体が追いつかない。
そこらへんをアクションカム的なカメラワークでカバーしていくのは苦肉の策感もあるが、人間には無理な動きを機械の力でカバーするというのが内容と噛み合っていたので結果的に面白い趣向だった。
面白い設定がいくつも出てくるのに妻殺しに焦点を絞ってあんま生かされないのはもったいない気もしたが、まいいんじゃないすかね、サクッと観られるパルプなサイバーパンクって感じで。ザクザクのゴア描写も適度にあってそれもまた良し。
あとトレイスさんの家の壁紙っていうか壁面ディスプレイ模様みたいなのが布袋寅泰のギター的なやつで面白かったです。現場主義の刑事ベッティ・ガブリエルは『ゲット・アウト』の笑顔が怖いメイドさん。髪束ねたらシュッとしてかっこよかったです。
【ママー!これ買ってー!】
大コケしましたが個人的には大好きです。