《推定睡眠時間:0分》
小さい魔女といっても演じているのはカロリーネ・ヘアフルトちゃん35さいなので人間の目からすれば少しも小さくないのだが魔女は長命なので130さいぐらい設定の魔女ヘアフルトは人間換算で6さいぐらい、35さいのそれなりにキャリアを積んだ女優の人が精神年齢6さいの魔女っ子になりきっているのでなんだか知らんが倒錯エロスを感じてちょっと興奮してしまう。そういう映画でないことは知ってる。
じゃあどういう映画かといえば劇場版『おかあさんといっしょ』みたいなやつです。ドイツの人里をちょっとだけ離れたところにまだ魔法をうまく使えない小さい魔女が喋るカラス(吹き替え版はCV:山寺宏一)と一緒に住んでいた。あるとき年に一回だけお山の上で魔女のお祭りワルプルギスの夜なるとってもたのしそうな催しをやってるらしいと知った小さい魔女はさっそく行きたいモードに入ってしまうが、ワルプルギスの夜はおとなのお祭り。130さい程度の小さい魔女は行くことができないのだった。
とそんなことを聞かされて引き下がる人間換算にして6さいの魔女っ子ではないのでバレないようにこっそりワルプルギスの夜に潜入してしまう。大人しか入れない! 魔女の宴!! アダルティなものを想像せずにはいられないがそこで小さい魔女と俺が目にしたのは服も脱がずにキャンプファイヤーの前で歌って踊る高齢の魔女たちの姿であった。おっどれやお・ど・れっ! ワ・ル・プ・ル・ギ・スだっ! ヤァー! なにがおもしろいんだ。
アラウンド30さいの目には老人ホームのレクリエーションにしか見えないワルプルギスの夜であったが小さい魔女は目を輝かせる。さすがは人間換算で6さい。キャンプファイヤーの前でホウキを振り回して原始人みたいな踊りをしているだけで満足してしまうのだからチョロイものだ。子供はこういうのを見せながら勝手に踊らせておくに限る。
こっそり潜入したつもりだったがそこは子供の浅知恵なので結局すぐに身元がバレてしまう。わぁいったいどんな罰を受けるんだろう。山寺宏一のカラスは見つかったら大変だぁ~って騒いでいたので大変なことになるに違いない。この感じからすると内臓食われるとか女陰に異物をぶっ刺されるとか絵的にえぐい刑罰はないだろうがとはいっても魔女は魔女、血のスープがぐつぐつ煮え立った大釜の中に放られるぐらいはするだろう…と思いきや!
魔女長の判決、とくに罰なし。しかもいっしょうけんめい魔法のお勉強をして教科書に載ってる約8000の魔法をちゃんと唱えられるようになったら次回から参加させてやるという温情判決であった。試験もなんにもないわけではないが和気藹々とたのしい魔女界である。
ストーリーの面白さで見せようとかそういう映画ではないし驚きの視覚効果でどうのみたいな映画でもない。基本『おかあさんといっしょ』なので女児がたのしめればよいというスタンス。保護者が安心して見せられるタイプのやつである。お友達をいじめてはいけないとか勉強をちゃんとしないと立派な魔女になれないとか教育的配慮いっぱい。いつの間にかメインターゲットに大きなお友達が入ってきた本邦の魔女っ子ジャンルからするとだいぶ意外の感があるがよく考えたらこっちの方がむしろ本道なんだろう。アメリカの魔女ジャンルなんかは完全にダーク方向に振り切れているけれど。
というこども映画ではあるがおもしろく見れた。よいところ、まずどうぶつがたくさん出てくる。どうぶつがたくさん出てくる映画はよい映画。山ちゃんのカラスも基本はCGでしょうがこれがリアル志向のCG、こども映画だからと目を大きくしたりとかしないのが良心的。カロリーネ・ヘアフルトちゃん35さいのストレートにかわいいといいにくい風貌も含めて人間の好みに安易に寄せてこない独特のかわいさがある。
よいところのその2は初期ティム・バートン調のおとぎばなし美術・衣装とアナログ特撮。これはいい。とてもいいとおもう。魔法を使うにしてもエフェクト的なものを極力かけないこだわりの絵作り。小さい魔女が雨を降らせようとして松ぼっくりとかフォークを降らせてしまうところでは実際にフレーム外から落とすという(後景の方はCGで水増ししているのだろうが)潔さ、ホウキで空を飛ぶシーンは背景の合成感が丸出しである。
そのこども番組的即席感がレトロな味わいになっているのだからこども映画のくせになかなかやる。小さい魔女の魔法で人がカエルになるところをカメラが壁にパンして影の形の変化で表現、とか素朴で素敵なレトロ特撮。想像力に訴えかける映像表現は知育にもちょうどよいので子供は子供目線で、大人は大人目線で楽しめるというあたり、巧い映画です。
あとこの魔女観ね。魔女観いいんです魔女っていうか妖精とか妖怪っぽくて。人間の世界のすぐ近くにありつつ別々の世界に生きていて、たまにふらっと人間世界にやって来てはちょっと悪いことかちょっと良いことしてふらっと帰って行くみたいな。それぐらいの微妙な異形。この微妙さは大人向け魔女映画では往々にして抜け落ちてしまうものなので、大事にしたいものです。
【ママー!これ買ってー!】
おどろおどろしい邦題と中身のギャップがすごいロシアン魔女映画。