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ついにこの問題を笑えるようになった! みたいなアオリだったのでどんな爆笑コメディかと思ったらそういうタイプの笑いではなく飄々としたほんのり笑い、どうなんでしょうこれは、事情通の人にはあるある的な笑いがあったりするんでしょうか。なんとなくそんな気もするのだがあるあるの土台がわからないのでなんとも言えない。
っていうか、根本的にストーリーがわかってなかった。恥を忍んで言ってしまうと主人公のエリオット・グールドみたいな人を俺はイスラエル側の人だと思って観ていたのだが(イスラエル軍の検問通ってパレスチナ側の撮影所に通ってるので)、今公式のあらすじを読んだらエルサレム在住のパレスチナの人だった。
エルサレム全域が強引にイスラエル統治下にあると思っていた身としてはその記述で話がわかるどころか更に混乱してしまう。そうか、エルサレムにもパレスチナ領があったのか。あったのか?
わからないことはグーグルに聞く素直な性格なので検索してみるとエルサレムには西エルサレムと東エルサレムがありイスラエル側は全域を自国領としているがパレスチナ自治政府側はパレスチナ人が住んでる東エルサレムをパレスチナの将来の首都とし…これ色んなニュース系の日本語記事に目を通しても「パレスチナの将来の首都」としか書いてないんですけどなにその曖昧な書き方。
ど、どっちなの? パレスチナ自治政府は東エルサレムを自国領と言ってるの? なんか政治的な合意のあれとかで現時点では自国領ではないけど将来的にパレスチナ国家が樹立されたら首都になるって言ってるってこと? あぁ自国領と書いてしまうとパレスチナを国家承認してない国もあるからそれもまた違うのか。中国は承認しているが韓国と日本は承認してなくて、ロシアは承認しているがアメリカとかイギリスとかフランスは承認してなくて…いやちょっと面倒くさすぎない?
笑えるこれ? っていうか笑える笑えない以前にこの問題みんなちゃんと把握して観てんのこれ? すごくない? ちゃんとわかって観ていたあなたは真面目。なんかごめん。
でもやっぱり入り組みすぎているなこの問題構造は。こんなの読んでしまうともう何がなんだかわからないね、実に。
エルサレム(Jerusalem)の北方クフルアカブ(Kufr Aqab)に住むパレスチナ人たちが、二つの政府に統治されていると考えたり、あるいは何の統治下にもないと考えたりしても無理はないだろう。
彼らが税金を納めているイスラエルは、ごみの回収や建前上は道路計画などを行っている。だがその一方で、電気と水はパレスチナ企業から供給されている。無法地帯と化すことも多いこの地区に駆け付ける警察官もパレスチナ人だ。
(…)
イスラエルはこの地区を、自国が完全な統治下に置くエルサレムの一部とみなしている。だがその場所は、イスラエルがエルサレムとパレスチナ自治区ヨルダン川西岸(West Bank)を隔てるために設置した分離壁の向こう側にある。
イスラエルとパレスチナのはざまで…行政サービスが届かないエルサレム郊外/AFPBB
事前にお勉強いるなこれはー。ストーリーテリングもハリウッド映画的なバカにも親切なやつじゃないですしねー。説明というのをあまりしないしトーンはアッバス・キアロスタミとかオタール・イオセリアーニ系。見た目ポップですが案外おもしろがるには知識とテクニックがいる。俺基準で言えばそう。
なんかの新聞か雑誌に載った監督インタビューでインタビュアーが盛んに映画と日韓関係と紐付けて監督から何か言葉を引き出そうとしていたが(テレビドラマがパレスチナとイスラエルの架け橋になるという設定だからだろう)、エンタメは国境を越える的なグローバルなメッセージも確かにあるとしても、極めてローカルなパレスチナ問題が下地になってる映画をこちらも違う形でローカルな日韓関係と安易に接続するのは無神経というもの(ましてや日韓はパレスチナを国家承認してないのだし)。雑誌とか新聞で監督インタビューを敢行する人間でさえその程度の認識で観てるんだからむずかしい映画なのだ、これは。
ついにこの問題を笑えるようになった! というにはまずその問題を理解しないといけない。今感想を書きながら少しだけお勉強したので誤って理解していた物語のアウトラインぐらいは正すことができたが、なんでパレスチナの抗イスラエルドラマが普通にイスラエルで放送されてるんだろうとか(だって日本と韓国とかと違って常時一触即発状態なわけですから)、東エルサレムからパレスチナ領に通勤するって実際できるのとか、話の中に出てくるインティファーダの諸相とか、あとあのオチはイスラエル軍的に大丈夫なのとか、結構重要なポイントがわかってない。パレスチナとフランスの関係とか。
エリオット・グールドっぽいノンポリのふらふらした人が色んなものに翻弄されながらトントン拍子でステップアップしていく映画、ぐらいに単純化して楽むことはできたけれど、これはもうちょっとちゃんとお勉強してから見直したい映画ではありますね。
【ママー!これ買ってー!】
読んではいないが放送大学のテキストなら間違いはなかろう。
すごく真面目な感想で、ノンポリのふらふらした人が色んなものに翻弄されながらトントン拍子でステップアップしていく映画、ぐらいに単純化して観ていた俺は自省の念を覚えながら読ませていただきました。
俺としてはパレスチナ人も手順さえ踏めば普通にイスラエル国内を行ったり来たりしてるよというのは知っていましたが、
>なんでパレスチナの抗イスラエルドラマが普通にイスラエルで放送されてるんだろう
の部分なんかは言われてみれば確かに解せぬ…という感じでその辺やっぱ適当に観てたなぁと反省です。
その辺を身体感覚で理解出来ている日本人とかほとんどいないと思うけれど現代の、せめて2010年代以降のイスラエルとパレスチナの条約的なお堅い感じじゃなくてふんわりとしたムードとかを伝えてくれる書物でもあればなぁと思うんですけれど、むしろこの映画がそういう役割なのかもなぁという感もあります。
Netflixとかで洋ドラマを見るくらいの手軽さで中東発のドラマとか見れたらもっと取っつきやすいのかもなぁとか思いますね。
パレスチナ問題をふんわり伝えてくれるような映画って案外ないんですよね。どうしても社会派のシリアスなやつばかりで。社会派的な題材をエンタメで見せるのが得意なハリウッドはパレスチナ問題を題材に映画作らないし。そういう意味で貴重な映画ですよね、こういうのは。