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ジョージ・マイケル命! を公言していながらスマホの着メロはファイン・ヤング・カニバルズという軸の定まらない夢追い主人公エミリア・クラークがヘンリー・ゴールディングとミシェル・ヨーの『クレイジー・リッチ!』コンビに囲まれてクリスマスに云々するキラキラした日本版予告編は本編を見てから再見するとキラキラがゲラゲラに変わってしまう。女リブート版『ゴーストバスターズ』を手掛けたお笑い監督ポール・フェイグの新作である。日本の純愛映画みたいにキラキラしているわけがなかった(こういう予告編詐欺は面白いから許そう)
日本の純愛映画といえば中島美嘉の同名曲をモチーフにした『雪の華』という純愛映画がこのあいだやっていた。『ラスト・クリスマス』も曲もの映画なのでワム! の同名曲が主題歌になっているが、落語的なモチーフの解釈とシナリオの落とし込みが上手い。こんなのモチーフに脚本書いてくれと言われて脚本家も困っただろうが主題歌が「雪の華」である必然性が微塵も感じられなかった『雪の華』とは大違いだ。ダメ映画はダメ映画なりに面白かったが雪の華っつってんだからせめてフキノトウぐらい出せばよかったのにな。
面白い映画の面白さを書くつもりが全然関係ない映画の悪口になってしまった。『ラスト・クリスマス』のエミリア・クラークもこんな風に根性のねじ曲がった面倒くさい人。まぁ色々あるのだがとりあえず表面的には歌手になりたいのにオーディションに落ちまくって絶賛やさぐれ中、ホームレスを見ればウゲーって顔して勤務先のクリスマス・ショップでは客に見えるところで堂々と客対応よりスマホチェックを優先する、毎夜パブで飲んだくれては友達の家を泊まり歩いて行く先々でなんか壊したりとトラブルを起こす。
そんな厄介な人が不思議系面白紳士男性ヘンリー・ゴールディングと未知との遭遇を果たし…って要は『クリスマス・キャロル』すよね、嫌なやつがクリスマスに変な奴と出会って改心するっていう。『クリスマス・キャロル』では守銭奴スクルージさんが孤独な自分の過去・現在・未来を幻視することになるので、そこで「ラスト・クリスマス」と繋がる。
去年のクリスマスかどうかはよく見ていなかったので知らないが、ともかく彼女を今の自暴自棄生活に追い込んだ思い出したくない出来事が過去にはあって、ヘンリー・ゴールディングは彼女にそれを振り返らせるきっかけを作ってくれるわけです。上手い作りよねぇ。上手い上手い。『クリスマス・キャロル』と「ラスト・クリスマス」だもの。みんなが好きなハンバーグとカレーが一緒に盛られたお子様ドリームランチみたいなものです。
エミリア・クラークは過去に何かを抱えた人だったが振り返りたくない過去を抱えているのは何もこの人だけではない。映画の冒頭は1990年のユーゴスラビア。そのころ小学生ぐらいの幼女エミリア・クラークは教会かなんかの合唱でセンターを張ってる前途有望な歌うまキッズなのだが、この場面がスーパー端的に示すのはエミリア・クラーク一家が戦火を逃れてイギリスにやってきた紛争難民だということだった。
エミリア・クラークとその姉はすっかりロンドンに馴染んで移民感もほとんどないが移民一世の両親は未だにイギリス社会に馴染めない。テレビでブレグジットのニュースを見た両親はそこに祖国の分裂を重ね合わせる。やんわりとではあるがユーゴ紛争の過去をブレグジット後の未来と対応する形で描いているわけで、序盤は性悪コメディのくせにそのへんの事情がつまびらかになってくる中盤以降は『クリスマス・キャロル』的にしんみりしてしまうし、時事ネタも絡ませつつタイトル曲もちゃんと絡ませつつのその翻案っぷりときたら見事の一言。『クリスマス・キャロル』形式にしたらなんだって面白いという身も蓋もないことは言わないでおこう。
構成は優等生的ですがお笑い監督ポール・フェイグが作っているので細かいところでバカ多し。スイッチを入れると「ラスト・クリスマス」のお猿カバー(謎)が流れる人形とか、お約束的に何度も壊されるホビークラフトとか、英語に堪能でない母親の言う「ペニスはディックなの? お隣のディックさんはペニス?」とか素直に笑ってしまう(すごい台詞だ)。
シェルターで寒さをしのいでるホームレスがゼロ清貧なのもいいっすね。いつも配給のクッキーを決められた数より多く取るせこいホームレスが良い味。ビッグイシューの販売員にはなれそうにないが、そういうやつにはそういうやつなりの長所があったりするのだ、というベタな友愛ラストはベタだなぁと思いつつなかなかグッときてしまう。
エミリア・クラークのリアルなパっとしなさ、ヘンリー・ゴールディングの超イケメンではないが付き合ったら楽しそうな感じ、久々のデートで松竹版『八つ墓村』の小川真由美ぐらい厚化粧してしまうミシェル・ヨーのお茶目。
よかったな。ポリコレ完備仕様で優等生すぎると思うがおもしろかった。ヘンリー・ゴールディングが案内するロンドン穴場スポット巡りもたのし。店の看板の動物を見て回ったりとか。
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ファンタジックな『クリスマス・キャロル』誕生譚。良い映画だったんですが公開規模が小さくて客入りも寂しくて観に行ったら現実の厳しさを思い知らされてしまった。
さわださんの感想観て、上映館探して観てきました。
配役が美人過ぎず、イケメン過ぎずに、良いですね。
舞台がイギリスの割には、重要キャストにイギリス人が出てこない。
(さわださんの言う小川真由美の相手役くらいが、英国紳士風だったが)
イギリスがユーロ離脱したがるのも、こういったことからなんですね。
ラストの落ちは、クリスマスだけにこう来たかって感じでした。
ちょっと邦画の青春ものみたいだなと。
あー、邦画の青春ものっぽいですね、確かに。主人公がクリスマスショップに勤務してるところとか。オチもそんな感じですし。
ミシェル・ヨーとヘンリー・ゴールディングは『クレイジー・リッチ』で親子の役でしたが、そちらではロンドンに移住してきたミシェル・ヨーがホテルで空室があるのに門前払いを食らう場面から始まっていたので、ちょっと『クレイジー・リッチ』の姉妹編みたいなところもありまふ。
『クレイジー・リッチ』観てましたわ(笑)
お母さんは判ったんですが、息子は気がつきませんでした。
そのころ中国人が同じよな目に合い、ホテルから警官に排除されたんでしたね。
ヨーは買い取っちゃったんですが。(笑)
姉妹編かなぁと思ったぐらいなんですがその二本無関係みたいで。渡辺謙と菊地凛子みたいなもんで、他に主演・助演クラスで出られるアジア人役者が英米の映画業界にいなかったのかもしれません。役者の層が厚そうに見えてアジア系はまだ全然少ないんですよね。