《推定睡眠時間:20分》
撃たれても突かれても砲撃されても全然死なずに走り続ける鉄人主人公であったがこれは俺が思うに時間経過で回復するタイプのライフゲージ制を連合国軍が採用していたということだろう。その証拠に頭部から出血した主人公は廃墟の如し市街地ステージで民家にしばし身を潜め、それまではもう走るは走るが直前の接近戦が尾を引いて走行速度もだいぶダウンしていたにも関わらず、民家を出ると簡易パルクールといってよい大激走、障害物ジャンプ、川落ちそして滝落下! さっきまで死にかけだった人とは思えない大活躍である。
そのような感想が出てきてしまうのはまったくの良い意味でめちゃくちゃゲームのような映画だと感じられたからだった。必要最低限の情報だけ与えられて地獄の戦場にドン! あとはもう、アクション、アクション、アクションだ。この語り、ミリタリー系のアクションゲームそのもの。アクションの間隙を埋める戦場会話パートはいわばプリレンダリングムービーである。はじまりが塹壕内で目的地への案内役を探すおつかい的なイベントというのもいいですね。すごいチュートリアル感。戦場出たら操作確認してる暇ないからそこで慣れておけよって感じですよ。映画では入ってなかったがこれがゲームだったら塹壕内の待避部屋みたいなところ入って回復アイテムとかもらえたりするんだろうな。
ここらへんはストーリーの都合どうしようもないところで、リアルタイム・ワンカットの『ゼロ・グラビティ』的な映画と思わせておいてシナリオの折り返し地点でカットが切れるが(いやもうそこが実に…)、そこを除けばワンカット。物を知らないどこかの阿呆が宣伝媒体に書いてあった「撮影監督は全編ワンカットのような映像を作り出した」みたいな文面を鬼の首の如く頭上に掲げて疑似ワンカットじゃねぇかw的に何様目線で嗤っていたが、本当にワンカットで撮ってるわけないだろバカじゃねぇのかお前は、という唐突にして誰宛てか不明な悪口伝令はどうでもいいとして、ワンカットだからゲームっぽく見えるんでしょうねぇ。
臨場感を途絶えさせないために映像に合わせて劇伴もワンカット、っていうんでこれがゲームでいうところのインタラクティブ・ミュージックに近い効果を生み出していた。主人公が塹壕の後方から前線に向かっていくと徐々に劇伴も不穏に変化。『メタルギアソリッド3』やってるみたいだったよな。たとえが古いのは承知しているが金銭的な理由でPS3買えなくて『4』以降できてないのでそこらへんは察してほしい。
映画は青々と草花の茂る牧歌的な草原からはじまります。カメラが引くと休息中の二人の兵士。上官がやってきてちょっと指揮官のところまで来るように言う。二人は歩き出してカメラも同行。するとそこが部隊の野営地であることがわかる。牧歌的な草原はいつのまにかずっと遠く。後方の野営地から常時人間渋滞中の塹壕に入っていくとあれほど色づいていた世界もずっかり灰茶に染まってしまう。すばらしい出だし。『太陽の王子ファラオ』という映画がこんな感じのシーン設計をやっていたが、キューブリックの『突撃』とかも思わせるところがある。
『ファラオ』はともかく塹壕映画として『突撃』は当然意識していただろう。このへん、ワンカット手法が生きてくるところで、臨場感がどうとかというのも確かにあるが、塹壕の入り口から出口(すなわち戦場)までを一繋ぎで見せるというのがたいへん斬新、こんな塹壕はじめて見た。すげー入り組んでたんですねー塹壕。ちょっとした町じゃん。
町だから格差だってある。後方の兵士は活気があってガヤガヤしてる、ところが塹壕の最前線となると狙撃と砲撃に怯える気力すら残ってない兵士たちが死体のように壁際に転がっている…生と死と奇妙なキャンプ気分がごちゃごちゃに同居するバベルの塔の如し塹壕。これはロジャー・ディーキンスのワンカット撮影も素晴らしいし、『ウォーターワールド』で知られるデニス・ガスナーの美術も実に見事でしたね。俺は『ウォーターワールド』好きだから普通にタイトル挙げるから。
伝令兵がA地点からB地点に移動するだけのストーリーなので映画の主軸はその移動の中で伝令兵が見るものを観客に見せることにある。そのへんはやっぱ『プライベート・ライアン』とか意識してるんだろう。必要以上に語らないどころか必要程度も語らない抑制された作劇は明確に差異化されたシンプルなステージ構成と相まって、俺基準で『プライベート・ライアン』に引けを取らない戦場叙事詩っぷりを醸す。
ドラマは言葉ではなくて画面に映し出される物や聞こえてくる音にある。倒木に引っかかったドイツ兵の死体群、疲弊しきった兵士たちが耳を傾ける吟遊詩人(のような)の歌、照明弾と大火の照らし出す禍々しくも神秘的な圧倒的な破壊の爪痕。終盤の主人公激走シーンでモノクロフィルムを着色したような色合いを出していたのも印象的だった。現実らしさと嘘っぽさの奇妙な混淆に、なにか戦場のリアルを感じた気がした。
走ることはあらゆるアクションの基礎であるとか言ったり言わなかったりするが、人が走るだけでこんなに胸が躍ったのは久しぶりだし、カメラが切り取る世界をただ眺めているだけで感情が持って行かれてしまう戦争映画というのも久しぶり。ゲーム的ポエジーをたぶんそうと意識することなく取り入れた斬新な戦争だったと思うし、傑作だと思うなこれは。
※戦場叙事詩ということで『地獄の黙示録』の影響も強く感じられ、弱小端役兵士としてキルゴアくんという人が出てきたりする。こっちのキルゴアくんはサーフィンできただろうか。
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意外と本年度アカデミー賞の主要なところに噛んでない『1917』でしたが『プライベート・ライアン』も監督賞は獲ってるものの、という感じでそこもなんとなく被る(撮影とか音響とか技術賞はガッチリ獲ってるあたり)
こんにちは。
今回はドルビーシネマで見てみました。多分、凄かったのだろうと思うのですが…(^^;)
冒頭の長い導入部分に唸りました。私はゲームをほとんどしないのですが、貴解説と道中の出来事をかんがみるに、なるほど良くできてる!と同時に有刺鉄線にからんで死んでた兵士、ああいう状況はホントだったのだろうな、と思ったり。
…マーク・ストロングとかカンバーバッチとかコリン・ファースとか目当てで見に行った人…いるよね…いないかな…いるわけねよ…
すみません。
おなまえ→さるこ
入力失敗…
名前入らなかったですか?三文字以上なら大丈夫なはずなんですが…
有刺鉄線に絡んだ兵士の死体は『西部戦線異状なし』の塹壕戦でも描かれていまして、これは第一次大戦後に発表されたベストセラー小説の映画化なんですが、作者自身が西部戦線の塹壕戦を戦った経歴があるので珍しくない光景だったんだろうと思います。古い映画ですが第一次世界大戦を描いた映画でこれ以上のものはないだろうというくらいの迫力、リアリティ、詩情に溢れていて…『1917』をより楽しむために『西部戦線異状なし』、オススメです。
ゲストスタア陣の存在はエンドロールで初めて知ったんですが、目当てで観に行った人はちょっと可哀想でしたね笑
『西部戦線異状なし』、『1917』にちなんで、webでも、タイトルよく目にします。第一次大戦の映画とは存じませんでした。いわゆる〝ナチスもの〟は、つい見てしまうのですが、〝第一次大戦もの〟を見るとまた、アレはヨーロッパを大きく損なったのだと感じます。
件の三人は、適材適所(^^)。『裏切りのサーカス』から、ずいぶん経ちました…
駄文、失礼。
戦後から今までの戦争映画っていうと第二次世界大戦とかベトナム戦争ものが多かったですけど、最近は第一次世界大戦ものが多くなってきてるみたいっすね。あ、あれ裏切りのサーカス組でしたか…