《推定睡眠時間:50分》
入場時に貰ったチラシにはこう書いてある。
キャリア集大成とも言える本作でデ・パルマ監督は、対立するあらゆる勢力の壮絶な戦いを見事に描き、クライマックスの瞬間まで、観る者に息をもつかせない!
セガール構文! セガール映画のチラシ構文じゃないかこれは…この…勝手にキャリア集大成にするところとか! あと上の引用部には入ってませんが「伝説的映画監督」とか書いてあるところとか! B級チラシほどバリバリ現役の監督とか主演のスタアを伝説にするからな…言い方を変えれば「往年の」とかになるわけですが…。
もう、察せということかこれは。開き直ってるだろう完全に。デ・パルマいつの間にセガールとかニコケイとかヴァン・ダムがいる界隈の住民になったんだ。監督でいえばウォルター・ヒルとかも今もうこっちに住居構えてるよな。ウォルター・ヒル…ウォルター・ヒルも本当に厳しい、厳しい映画を撮るようになりまして…このあいだの『レディ・ガイ』の期待値と実測値の落差たるや。椅子に沈み込むに足らずそのまま地核まで掘り進んでしまいそうだったね。どうしたんだというか、何が起こったんだという感じだ。まぁそれはいい…。
デ・パルマのコアなファンはきっとそうではないのでしょうが、とくに思い入れのない俺としてはチラシとかだと普通のビデオスルー系B級映画っぽかったから普通のB級映画みたいに面白かったらいいなという現実を一切考慮しない希望的観測を持って劇場に入ったのですが、観たら普通のB級映画をやってくれればいいのにデ・パルマ映画になってしまっていてツッコむにツッコめないというか、デ・パルマの映画観に行ってデ・パルマっぽい映画だったからガッカリするのはおかしいだろうとちょっと申し訳ない感じになるという変な感情領域に迷い込んでしまった。
もちろんしっかり50分は眠っているわけだからちゃんと通して観れば印象も変わるかもしれない。セガール映画に関しては80分寝ても寝ないで観ても印象が変わらないのは知っているが、腐ってもデ・パルマ、セガール映画と同じということはないだろう。それにしてもとくに意味もなく国を移動して観光感を出すとか本当最近の安普請セガール映画みたいな作りだ。デ・パルマ×セガール、夢のタッグ作やってくれないだろうか。ギャラだけはどっちも高そうだから出資者集めが大変な上にリクープが一切期待できないだろうが、エポックになるのは間違いない。誰の夢で何のエポックになるのかは俺にもわからないのだが。
50分も寝ると細かいことは全然わからない。とりあえずわかったのはクライマックスの舞台がスペインの闘牛場だったので『スネーク・アイズ』っぽい、そこで自爆テロを目論むISを打倒しようとする刑事の男女をスローモーションをくどいほど多用したカットバックで切り取るあたり『ミッドナイト・クロス』っぽい、『ミッドナイト・クロス』っぽいといえばこのISはドローンカメラまで使って自爆テロをプロパガンダ・エンタメに仕立て上げるのでそこらへん『ミッドナイト・クロス』精神だ。ISはデ・パルマのフォロワーだった!
いやむしろデ・パルマがISのプロパガンダ至上主義に自身の映画至上主義とどこか通ずるものを感じたのかもしれないのですが、そこはあんま強調すると危険だろうとさすがのデ・パルマも長い業界体験から察知したのか、ISの映像至上主義者にはファッキンにファニーな結末がちゃんと用意されてます。最後もうぐちゃぐちゃ。投げやり。みんな死んだらいいんじゃねぇの知らねぇよみたいな感じ。笑うよね。ISの自爆プロパガンダ動画で爆弾が起爆するとその光でスクリーン真っ白、そこにピノ・ドナッジオのチープな勇壮BGMをバックにして浮かび上がるタイトルそしてエンドロール! 50分寝といて言うことじゃないけどバカかと思ったよ。
もっとやりたかったんじゃないかと思うな。なんかそこは、むしろB級映画ちゃんと撮らなきゃとか強引にでも物語きちんと畳まなきゃみたいな職人的抑制を逆に感じたりした。基本的にはデ・パルマの技巧で保ってるような映画だったと思いますけどここぞというところで弾けない。脚本書いてるの別の人だし何年も新作撮ってないということはそれなりに厳しい境遇にあるんだろうし、なんでもいいからとりあえず映画一本撮って実績にしたいとかそういう思惑もあったのかもしれない。
そうだとしたらかなしいな。絶対予算ないもんなこれ。製作国6ヶ国ぐらい上がってるもん。どんだけ金集まらないんだよって感じするよ。で金出したからうちの国の名所で撮ってくださいみたいな。ご当地B級アクションですよ。デ・パルマご当地B級アクション撮りました。それにピノ・ドナッジオだって巨匠やないかって思いますけど仕事がないわけではないにしても最近の担当作なんか寂しい限りですしね。ルチオ・フルチの『恐怖! 黒猫』のスコアやった人ですよあなた! それは推す作品が確実に違う。
基本的に観てないのでこんな感想しか出てこない。あとはそうねぇ、最初の方の若手刑事が家に拳銃置き忘れるところのカメラワーク、見切れそうで見切れない刑事の恋人の裸体がピーピング的にエロくてよかったし、裸の方ばっか見てるとゆっくりズームしていたカメラがサイドテーブルの上の拳銃にクロースアップ…視線誘導テクニック! 見事な視線誘導テクニックだ! どこでテクニック使ってるんだよ。そういうの、おもしろかったですね。おもしろかったのかな。よくわかりませんが。あとピノ・ドナッジオのスコアはあんま映像に合ってる気がしなくてよかったよ。あれはあえてズラしてんじゃないか、あれは。
ところでタイトルのドミノ、チラシには「ドミノ倒しのように」って書いてありましたけど色んな人物とか事件が連鎖的に繋がっていくシナリオなわけだからドミノゲームの方のドミノの意じゃないすかね。そこはどうでもいいんだよ!
【ママー!これ買ってー!】
『ドミノ』といえばこっちの方のドミノが頭に浮かぶわけですがこちらは監督トニー・スコット、今『アンストッパブル』というノオミ・ラパス主演の映画も公開中ですが『アンストッパブル』も同名映画をトニー・スコットが撮っており、想定外の咆哮いや方向からトニー・スコットが浮上してきている。